大人のエレガンスを体現する、バレエのファンタジー 2013/5/10

皆さんはバレエについてどのようなイメージをお持ちでしょうか?子どもの人気の習い事? お友達の発表会で見る舞台? 子ども向けの物語? ・・・・

大人の男性が胸を張って「趣味はバレエ観賞です」と言うのがはばかられる日本。映画、音楽ライブやコンサートなどに比べて、バレエへの認識はまだまだ低いようです。だからこそ、最初の観賞には是非とも一流のダンサーが踊る、質の高い演目を選んでいただきたい。バレエのイメージが一新されること請け合いです。

一般的なイメージに反して、バレエは王侯貴族の娯楽として始まった大人の文化イベントでした。15世紀にイタリアで誕生した際には、食事やお酒をたしなみながら、一日中、踊ったり、歌ったり、詩を朗読したり、演奏したりしていたそうです。

国をリードする宮廷貴族たちが、バレエを見ながらコミュニケーションを図るために情報交換を行ったり、ときには商談するような・・・。今でいうならば、政治家や事業家たちのゴルフやお座敷遊びに近い役割を担っていたのかもしれません。

パリ・オペラ座バレエ団の劇場「ガルニエ宮」 (C)Jean-Pierre Delagarde

今回、3年ぶりに来日するパリ・オペラ座バレエ団はバレエに触れたことのない方にも大変お薦めのバレエ団。世界最高レベルのダンサーを備えた世界最古のバレエ団でありながら、常に開拓精神を失わず、現代の私たちの五感を刺激する新鮮な舞台を提供してくれます。

華麗さと優雅さを備えた風貌のダンサーたちの美しさは言うに及ばず、繊細でエレガントな動きに正確かつダイナミックなテクニック、フランス人らしいエスプリの効いた衣装や美術、バレエ学校時代から厳しい競争社会を勝ち抜いてきた選りすぐりのダンサーたちが創り出す時空間は、まさに大人のエレガンスと呼ぶにふさわしい気品を持っています。

それもそのはず、バレエは16世紀に誕生地のイタリアからお輿(こし)入れをした王妃によって、料理とともにフランスに伝えられ、そこで本格的に花開くことになったのですから。ルイ14世は、自らが演じていたバレエ作品にちなんで「太陽王」と呼ばれていたほどのバレエ愛好者。

そのおかげでバレエは国家事業として正式にフランスで擁護され、発展を遂げます。バレエの動きやポジションを表すバレエ用語がフランス語であるのもこのためです。そして彼が17世紀に設立した王立舞踊アカデミーこそが、現在のパリ・オペラ座バレエ団の起源なのです。

そして19世紀、飛翔、変身などバレエの題材となる物語のファンタジーを体現するのに極めて効果的な爪先立ちの状態でで立つトゥシューズの発見によって、バレエの幻想的なイメージはより強固なものになっていきます。

現存する最古のバレエ作品と言われている『ラ・シルフィード』(1832年)は、19世紀にパリ・オペラ座で誕生したロマンティック・バレエです。シルフィード=空気の精霊、が飛び回る幻想的な森を舞台に、現在ではバレエの制服のように思われている釣り鐘型のスカートが初めて登場、その幻想的なファンタジーの世界は当時のブルジョア階級をも引きつけたのでした。

その後のフランスでは、一時期ロシアバレエに隆盛を譲る時代があるものの、20世紀初頭には勢いを取り戻し、古典の作品の継承に取り組むと共に、現代的な作品の創作にも力を入れるようになります。いち早く現代的な振付プロジェクトに取り組み始めたのもパリ・オペラ座バレエ団なのです。

1970年代にはアメリカの現代舞踊の振付家カロリン・カールソン(2005年の来日作品『シーニュ』の振付家)が現代舞踊グループ(GRTOP)の初代芸術監督に任命されました。GRTOPの活動は、その後のフランス・ヌーベルダンス(コンテンポラリーダンス)の発展に寄与することになります。

コンテンポラリー作品「シーニュ」の一場面 Photo Christian Leiber

以降、オペラ座の現代路線はさらに加速、そこから、マース・カニングハム、ウイリアム・フォーサイスやピナ・バウシュ、勅使川原三郎など名だたる現代の振付家による作品をレパートリーに加え、現在では、上演作品の半分をコンテンポラリーが占めるシーズンもあるほどです。

今年の1月に、2014年の新シーズンから、20年近くにわたって革新的なディレクションを行ってきたブリジット・ルフェーヴル氏を引き継ぐ芸術監督が発表されたのですが、これまたパリ・オペラ座の挑戦的な決定にびっくりでした。

その芸術監督とは、映画『ブラック・スワン』で振付を担当したバンジャマン・ミルピエ氏、主演女優のナタリー・ポートマンの夫としても有名です。パリ・オペラ座の出身でもパリ在住でもなく、現在はロサンゼルスにてL.A Dance Projectという自らのカンパニーを率いている35歳のミルピエ氏に、バレエの殿堂の未来を委ねてしまうパリ・オペラ座の決断には恐れ入りました・・・。

「天井桟敷の人々」で主役のガランスとバチストを演じるシアラヴォラ(下)とガニオ (C)Sébastien Mathé

今回、日本で上演されるのは、19世紀パリの演劇界を舞台に自由で情熱的な大人のロマンスを描く、フランス映画史上不朽の名作として名高い『天井桟敷の人々』。この映画を題材に、2008年の初演当時、現役のエトワール(パリ・オペラ座最高位のダンサーの名称)だったジョゼ・マルティネスが振付を担当し、バレエ化した壮大かつ大胆な企画です。

常に進化し続ける最古のバレエ団、パリ・オペラ座バレエ団による舞台は、上質を求める大人にこそ見ていただきたい、古くて新しい大人のためのファンタジーなのです。

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プロフィール

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愛知芸術文化センター主任学芸員

お茶の水女子大学文教育学部舞踊教育学科卒業、同大学院人文科学研究科修了。幼少の頃よりモダンダンスやバレエ、スケート、演劇等、様々な身体表現を学び舞台活動を経て、1992年より愛知芸術文化センターに日本初の舞踊学芸員として勤務。著書に『身体の知性』、『20世紀舞踊の作家と作品世界』等。大学講師や執筆、審査員、講演等、舞台芸術普及のための多彩な活動を行う。現在、愛知芸術文化センター主任学芸員、あいちトリエンナーレ2013プロデューサー(パフォーミングアーツ)。

【パリ・オペラ座バレエ団 『天井桟敷の人々』】
世界最高峰のバレエ団、パリ・オペラ座が3年ぶりに来日します。
世界最古のバレエ団でありながら、伝統的な古典作品のみならず、最先端の現代作品までの豊富なレパートリーをもち、常に時代をリードし続けている存在、それがパリ・オペラ座バレエ団です。エトワールと呼ばれる最高峰に位置するダンサーたちを筆頭に、150名を超えるダンサー、多数のスタッフを抱えたこの巨大バレエ団は、パリという芸術都市に根付いた劇場文化の象徴でもあります。今回上演される『天井桟敷の人々』は、当時の現役エトワールが、そんな芸術の都パリが生み出したフランス不朽の名作映画に挑んだ超豪華スペクタクル・バレエ。言葉を必要としないバレエは、白紙で観ても楽しめるけど、知っているともっと愉しくなる、そんなお話をお届けできればと思っています。

【公演情報】
パリ・オペラ座バレエ団 日本公演2013
〔名古屋公演〕
5月25日(土)午後6時30分開演
5月26日(日)午後1時開演
愛知県芸術劇場大ホール[名古屋市東区東桜1-13-2 愛知芸術文化センター2階]

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