第5回:浮世絵に学ぶ 2013/5/26

《鼓の音》 1940(昭和15)年 松伯美術館蔵

まずはこちらの作品をご覧ください。松園さんの代表作のひとつ、《鼓の音》です。高島田を結った振袖姿の娘さんが、今まさに鼓を打たんとする瞬間が描かれています。計算された無駄のない構図、きりりとした表情、「鼓」という題材…どれをとっても松園さん「らしさ」が感じられます。

そんな《鼓の音》ですが、実は創作のヒントとなった絵があります。 喜多川歌麿の浮世絵《松葉屋の遊女見立五人囃子 松葉屋内染之助》(ボストン美術館蔵)(←クリックで外部サイトへ移動します)です。松園さんはこの浮世絵を模写したものを保存していました。

《鼓の音》は、浮世絵の「構図」を自身の美人画に取り込んだ例です。松園さんは過去の名画の良いところを模写によって学びとりながら、過度の装飾や卑俗な要素は省いて、表情や色づかいで松園風の個性を加えていくという制作方法を好んでいました。

当然、浮世絵美人には江戸の遊女が多いので、松園さんはそれを京都の町家のお嬢さんや奥さんに描き替えています。

歌麿の浮世絵が印刷された図版(松園旧蔵)
歌麿の浮世絵が印刷された図版(部分)

他に浮世絵から学んだものとしては、「着物の柄」があります。この歌麿の印刷物も、松園さんが資料として保存していたものです。青い着物の女性は、紅白のマス目のような模様(釘抜き繋ぎ模様)の襦袢を着ていますが、松園さんは夏の装いを描くときに、しばしばこの柄を用いています。

その最も印象的な作品は《待月》でしょう。青が主体のさわやかな画面の中で、袖口からのぞくこの赤の柄がアクセントとして非常に効いています。また、青い着物から透けて見える具合も秀逸で、これはぜひ実物を間近で見ていただきたいです。

《待月》 1944(昭和19)年 足立美術館蔵

「髪形」も浮世絵から学ぶところが多かったと思われます。前回、「着物へのこだわり」で例に挙げた《桃の節句》という作品は、鈴木春信の浮世絵(←クリックで外部サイトへ移動します)に登場する美人の髪形や着物の柄を多分に意識したものでした。

松園さんの作品には、歌麿や鳥居清長の浮世絵を参考にしたものが多いのですが、「浮世絵画家のうちで私は(鈴木)春信と(宮川)長春が好きです」と話しており、《桃の節句》は松園さんの春信好みが素直にあらわれた作品と言えそうです。

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プロフィール

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学芸員

大阪大学大学院文学研究科修士課程修了(美術史学)。2005年から名古屋市美術館に学芸員として勤務。「ルオー展」(2006年)、「だまし絵展」(2009年)、「レンブラント展」(2011年)などを担当。

【名古屋市美術館開館25周年記念 上村松園展】
明治から昭和にかけて、美人画の歴史に残る数々の傑作を世に送り出してきた、女性画家・上村松園(1875-1949)の初期から最晩年の作品まで、約90点を紹介する本格的な回顧展です。

明治は、女性が画家として一人立ちすることが大変むずかしい時代でした。松園は、同門の塾生からのいやがらせや、偏見に満ちた厳しい批評を受けながらも、そうした試練を並々ならぬ努力で乗り越えて、画家として華々しい成功を収めました。そんな松園が残した、清らかで気品に満ちた美人画は、今なお不滅の輝きを放っています。

上村松園の個展は名古屋市内の美術館では初めて、東海圏では2004年の三重県立美術館の個展以来9年ぶりの開催となります。女性画家が描く女性の理想美、日本画家の中でも最高レベルの滑らかな線描、鮮やかな色彩の美をぜひお見逃しなく!

【展覧会情報】
2013年4月20日(土)−2013年6月2日(日)
名古屋市美術館 [芸術と科学の杜・白川公園内]

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