薬物乱用について−「薬物乱用」って何?  その7「薬物乱用」の予防 2014/5/6

有害で危険な「薬物乱用」に、私たちはどのように立ち向かえば良いでしょうか。今回は、薬物乱用の予防について考えてみたいと思います。

予防の考え方
図は、「薬物乱用・依存」の自然史と予防対策のあり方を示したものです。自然史とは、病気や有害事象が時間とともに進む有様のことです。

時間の流れは矢印のように進みますが、ここで矢印は交通信号に模して、緑:安全、黄:注意が必要、赤:危険と色分けしています。

「薬物乱用」は「薬物」にまったく関わりのない健康の状態から、ハイリスクの時期を経て、「薬物」にちょっと手を染める試験的使用、乱用・依存の早期、進行期そして依存の悪循環に至ります。

この段階に至ると「薬物依存症」という病気の状態になります。ハイリスクの状態とは、例えば、自らは「薬物乱用」をしていないけれども周りに「薬物乱用」をしている仲間がいる、と言うような状態をさします。

「薬物乱用」は、時間の流れにともなって進行し、「薬物依存」と健康障害の程度がひどくなります。「薬物依存」の悪循環に陥ると、「薬物」が離せなくなり、脳がダメージを受け、妄想や幻聴、奇異な行動が現れ、そして身体全体も広く侵されます。

また、乱用する「薬物」も、より危険度の高い薬物になり、それも単独ではなく複数の「薬物」を乱用する、より危険な状況になります。妄想による殺傷事件や「依存」する「薬物」を得るための犯罪など、他者や社会にも害を与えます。

「薬物乱用」は、このように進行するので、この流れを止めることが予防になりますが、進行の段階によって、対応の仕方が異なります。

「薬物依存」の悪循環に陥り、「薬物依存症」に陥った段階からの回復、社会復帰への積極的支援が「3次予防」と呼ばれる対策です。いわゆるリハビリテーションと呼ばれ、骨折や脳梗塞などでは、適切なリハビリテーションが有効であることが知られています。

「薬物依存症」にも、良い薬が開発され、リハビリテーションの考え方が適用されていますが、実は、他の病気と違って、「薬物依存症」では3次予防が極めて難しいのです。脳に記憶された「薬物」への欲求は消えず一生続きます。

特に入院・投薬によって「薬物依存症」の病的状態がある程度緩和されて退院し、社会に戻ったとき「薬物」の誘惑に負けてまた乱用を始めてしまうケースが多々あります。

2次予防は、「薬物」に手を染めた場合、そのできるだけ早い段階から介入して指導や治療を行う「早期発見・早期治療」が原則です。我が国では、生活習慣病などでこの2次予防がうまく功を奏しています。

しかし、2次予防においても「薬物乱用・依存」の場合は、これもとても難しいのです、1)違法行為である「薬物乱用」は、隠れて行われるのでこれを察知することが難しい、2)医師や薬剤師の管理・指導のもとに注意して使われ、その品質も厳密に規制されている医薬品とは異なり、素人がかってに、「気分が変わる」まで、純度も中身もわからない化合物を身体に入れるので、様々なケースがあり、複雑なため対応が難しい。

また、3次予防と2次予防には、医師や警察、ケースワーカーなどの専門家が関わるので、その養成が必要であり、そのためのコストも大きくなります。我が国では「薬物乱用」、「薬物依存症」に対処できる専門家の数が極めて少ないのが現実です。

このように、「薬物乱用・依存」に対しては2次予防、3次予防がとても難しいのです。

最後に残ったのが、1次予防です。1次予防とは、一旦手を染めるとそこからの脱却が難しい「薬物乱用・依存」には、ひとりひとりが、そもそも、「薬物」に手を染めないようにすることを目標にします。従って、その対象は“今、「薬物乱用」をしていない人”です。

「薬物乱用」は青少年期に手を染めるケースが多いので、“「薬物乱用」をしていない青少年”が主な対象となります。そして、予防の具体的手法は「教育」です。教育を通じてひとりひとりの青少年が「薬物乱用」の危険を理解し、危険な行動をしないようになることが目標です。

「薬物乱用」において、小学校、中学校、高等学校、大学の「薬物乱用防止教育」が、重視されるのは、このためです。

勝野眞吾(かつのしんご) 岐阜薬科大学 学長 薬学博士

私は、薬学のなかでは、少しかわった道を歩いてきました。

岐阜薬科大学を卒業した後、大阪大学薬学部の大学院に進みましたが、薬学はここまで。その後岐阜県衛生研究所(現保健環境研究所)で2年(行政実務)、それから兵庫医科大学に移り14年(社会医学・疫学)。

さらに兵庫教育大学に移って20年(教育・学校保健)。そして1989年母校の岐阜薬科大学にもどり、学長を務めています。専門は疫学・健康教育。

中央教育審議会、大学基準協会副会長、大学設置審議会委員として教育や大学のあり方についても考えてきました。

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