久々にデジタルとフィルムの話 2014/9/25

名古屋シネマテークがデジタル映写機を導入して、約半年が過ぎた。今回は、半年間の経験を踏まえて、デジタルとフィルムに関して、今、思うことなどを書いてみよう。

デジタル映写機が導入されてしばらくは、まさに“格闘”という表現がしっくりくる苦心惨憺の日々だった。個人的には「この歳になって、こんなに新しいことを覚えなきゃいかんとは!」というのが正直な感想だ(笑)。

当劇場の優秀なスタッフに助けられ、なんとか乗り切ってきたものの、「今日は家に帰れるのか…」と思った日も何回か。まぁそのかいあってかどうかは分からないが、デジタル映写機は今のところ比較的順調に動いている。

ただ、実のところは、上映素材のバックアップと、簡易的なサブの映写機を用意しているので、それでなんとか切り抜けられたというケースも無くはない。デジタルは、調子よく動いているときは楽チンなのだが、いざトラブルが発生すると、現場では再起動させるぐらいしか手がないのだ。

使う側の知識が不足しているのかもしれないが、その点は構造がシンプルなフィルム映写機の方が安心感はあった。とはいえ、ほぼすべての新作映画がデジタル素材で提供される現状において、もはやデジタルを否定することは不可能に近い。これまでのシネマテークを未来に向けて継続していくには、デジタル化しかない。そう思って、やっていくのみだ。

10/11(土)より各地で順次開催の「F・トリュフォー映画祭」より『恋のエチュード』。特集上映では、35ミリフィルムはまだ健在。本作もフィルム上映の予定。(c)1971 LES FILMS DU CARROSSE

その流れで言えば当然のことだが、35ミリフィルム作品の上映本数は、大幅に減少した。ここ数ヶ月、当劇場でのフィルム作品は、月平均1本程度。新作は4月の『家族の灯り』がとりあえずのラストで、以後は旧作の特集上映かリバイバル上映だった。

そんな状況が続いていたシネマテークだが、9月はフィルム作品が、合計5作に急増した。内訳は、J・スコリモフスキー、M・ベロッキオの両監督特集で計4本。そして2日間の限定上映だが、宮田宗吉監督の『俺の求婚』という作品。この『俺の求婚』、ご存知ない方が大半だと思うが、2012年に制作され、今回初めて劇場公開される“新作”という点が意味深い。

本作は、日本映画撮影監督協会青年部が企画した無声の短編コメディ映画。「日本映画撮影監督協会」とは、簡単に言えば、映画カメラマンたちの職能団体。

もはや撮影現場においてもフィルムに触る機会が大幅に減っている。そうした状況を受け、若手スタッフにフィルムの扱いを覚えてもらう意味を込め、企画されたものだという。

今では、フィルムによる撮影・仕上げの方が、デジタルよりコストがかかる。それゆえに音声は無し、わずか4分の超短編作として、完成した。それが今回、宮田監督の新作長編『くらげとあの娘』の公開に併せ、各地で上映されているというわけだ。

先述した通り、映画の未来はとりあえずデジタルと共にある。デジタルの鮮明な画面と音響は、世界をクリアに見せていくという点では、フィルムに勝っているだろう。

しかし、映画表現は、何もかもがクリアに見えればいいというものではない。世界には、光とも影ともつかぬ微妙なゾーンがあって、それをつかみ出す上で、フィルムという素材は未だ有効だと、私は思っている。

だから、フィルム作品がゼロになるという映画の未来も、また承服したくないのだ。その意味で、『俺の求婚』は実に小さな試みではあるが、ささやかな可能性を感じさせる。こうした企画が、もっと行われるといい。

そして、携わったスタッフが、フィルムの良さを発見し、いつかフィルムで撮影し、フィルムで上映することがあれば、とても嬉しい。そんな時が来ることを願って、フィルム映写機は、今日も明日も、静かに映写室で待っている。

9/27(土)より各地で順次リバイバル公開される『駅馬車』。こちらはリマスターされたデジタル版。古典的名作のデジタル化も進行中だ。
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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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