『自由が丘で』 2014/12/16

「自由が丘で」東京は公開中。各地で順次公開。

早くも年の瀬!当館の年末恒例企画「自主製作映画フェスティバル」の紹介文を、ついこの前書いたような気がするが、あれは去年のことだったのか…。

今年の「自主フェス」は12月19日(金)〜21日(日)に開催する。例年通り厳選したプログラムには、『寄生獣』に主演し人気沸騰中の染谷将太が監督した作品もあり!ファンの方は要注目だ。

「自主フェス」が終わると、いよいよお正月映画のスタート。上映するのは、前回紹介した『鳥の道を越えて』、約10年間休館していた美術館の顛末を追ったドキュメンタリー『みんなのアムステルダム国立美術館へ』、そして加瀬亮が主演した韓国映画『自由が丘で』。その中から、何気ないのに味わい深く、リアルなのに不思議な作品『自由が丘で』をご紹介したい。

かつてソウルの語学学校に勤めていた日本人青年モリが、同僚だった韓国人女性クォンのことを忘れられず、再び韓国にやって来る。しかし彼女は旅行にでも出かけたのか、家にいない。モリは、彼女の家の扉にメモを残し、帰りをひたすら待つ。

その間、宿で知り合った男と痛飲したり、カフェ「自由が丘」で読書をしたりして過ごすのだが、やがてカフェの女性オーナーといい仲になってしまう…。モリはクォンに恋い焦がれて、会いに来たはずなのだが、待っているうちにいつしか別の時間に流されていくかのようだ。

融通無碍な展開のうちに人の心のあてどなさ、覚束なさが滲み出てくるあたりは、韓国の個性派ホン・サンス監督ならではだろう。

それに加えて、この映画には一つ面白い仕掛けがある。冒頭で、療養の旅から戻ったクォンが、語学学校に預けられたモリからの手紙を受け取る。モリの行動は、手紙を読み進めることで、我々観客にも明らかになっていくのだが、あろうことか読み始めてすぐにクォンは手紙を階段から落とし、手紙の順番がメチャクチャになってしまうのだ。映画の時間は、さながらモリの心の移ろいのように、行きつ戻りつしながら進んでいくことになる。

そしてもう一つ。モリは韓国に来てからやたら眠気を覚えるようで、寝坊して宿の食事が食べられないこともしばしば。映画の中には、モリの見た夢のシーンも混ざり込んでいる。そうなると、今見ているシーンは、過去なのか現在なのか、現実なのか夢なのか、ひたすら曖昧になるばかりだ。

しかし、それこそこの映画が目指したものなのだろう。人の心の輪郭が不鮮明であるように、映画の輪郭が不鮮明でも面白いじゃないか!ホン・サンス監督はニコニコしながら、そう言っているようだ。

小難しい理屈も深遠なテーマも前面にはまったく出てこないけれど、豊穣な映画体験が味わえること請け合いの秀作だ。なんとなく初夢、初酒(?)映画の趣きもあり(笑)。冬休みにぜひ!

劇中でモリが読んでいる文庫本は吉田健一の「時間」。加瀬の私物を 監督が採用したそうだ。
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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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