第二回 ヴェネツィアの風景美 2015/10/30

ヴェネツィアの魅力は何といっても風景美に尽きると言えるでしょう。18世紀の画家カナレットも・・・

カナレット《サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂:サン・マルコ沖に望む》1726-30年頃 Bequest of William A. Coolidge 1993.34 Photograph (C)2015 Museum of Fine Arts, Boston.

展覧会のポスター、チラシでお馴染みの19世紀の画家ウジェーヌ・ブーダンも・・・

ウジェーヌ・ブーダン《サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂:サン・ジョルジョ島から望む》1895年 Juliana Cheney Edwards Collection 25.111 Photograph (C)2015 Museum of Fine Arts, Boston.

広々とした空に、運河を行き来するゴンドラ。これぞ「ザ・ヴェネツィア」といった風景です。

一方、19世紀の印象派を代表するモネは、風景というより、ヴェネツィアを満たす光に魅了されました。

クロード・モネ《ヴェネツィアの大運河》1908年 Bequest of Alexander Cochrane 19.171 Photograph (C)2015 Museum of Fine Arts, Boston.

水面の反射は、他の土地にはない魅力的なモチーフであり、モネはヴェネツィアを題材に37点の作品を発表しました。とりわけ本展覧会でご覧いただける《ヴェネツィアの大運河》は中でも傑作と名高い作品です。

その美しさゆえに多くの芸術家たちに愛され、描かれてきた町ヴェネツィア。しかし、その美しさゆえに、凡庸でないヴェネツィアを描くというのは芸術家にとって挑戦でもありました。

明治期にヴェネツィアを訪れた画家の藤島武二は「ちよいと見て何處(どこ)でも畫(え)になりさうで描いてみて案外つまらぬ處(ところ)も亦(また)ヴェネチャでしよう(中略)誰が描いでも又何處を畫いてもカナール、建物、橋、色取られたる特殊の岸杭、ゴンドラ、塔と云った様にヴェネチャの特有の約束が付きまとつてクローム繪(え)や繪はがきの趣に陥りやすい様です。」と指摘しています。

つまり、運河にゴンドラといったヴェネツィアに付きものの舞台設定を描けば、それとわかる景色を描けてしまう安直さゆえに、画家は風景の中に自分にとってのヴェネツィアを見出すことを迫られるのです(富士山を描くのと同じですね)。

たとえば、ホイッスラー。『ヴェネツィアの石』の著作で知られるジョン・ラスキンとの名誉裁判で経済的に困窮したホイッスラーは、画廊からの提案でヴェネツィアを訪れ、その風景を版画作品にすることにしました。そうして生まれたのが有名な〈ヴェネツィア連作〉です。

ジェイムズ・アボット・マクニール・ホイッスラー《邸館の入口(<第一ヴェネツィア連作>より)》1879-80年頃 Gift of Mrs. Horatio Greenough Curtis in memory of her husband Horatio Greenough Curtis 27.1403 Photograph (C)2015 Museum of Fine Arts, Bosto

日本の浮世絵に構図を学んだというホイッスラーは、水平線を高くとった独特の構図で、印象的なヴェネツィアの海を捉えました。さらに、ヴェネツィアの華やかさや煌びやかさではなく、町の影の部分に着目し、裏町の風情や廃れた邸館などを主題にした点で、それまで描かれてきたヴェネツィアとは違う、画期的な風景を見出すことに成功したといえます。

ホイッスラーが見出したヴェネツィアに対するメランコリックな視点は、のちのスタイケンの写真作品にも見ることができます。

エドワード・スタイケン《ヴェネツィア、遅い午後》1913年 Gift of Richard Germann 2001.329 Photograph (C)2015 Museum of Fine Arts, Boston.

次回はついに展覧会のハイライト、あの作品をご紹介します。お楽しみに!

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プロフィール

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名古屋ボストン美術館 学芸員

東京藝術大学大学院美術研究科(工芸史専攻)修了。瀬戸市美術館勤務を経て2010(平成22)年より名古屋ボストン美術館学芸員。
担当展覧会に「What’s an Icon of Style?−時代を彩るファッション」展など。

【ボストン美術館 ヴェネツィア展 魅惑の都市の500年】
世界中の人々に愛される水の都ヴェネツィア。世界屈指の観光地であり、大運河を漂うゴンドラやきらびやかな仮面と衣装に身を包んだカーニヴァルを連想される人も多いかもしれません。ヴェネツィアは、その独特の景観で訪れる者を魅了すると同時に芸術活動の胎動の地でもありました。

本展では、そんなヴェネツィアの約500年に及ぶ美の軌跡をボストン美術館所蔵の130点の作品で辿ります。
ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼら16世紀ヴェネツィア・ルネサンスの三大巨匠をはじめ、その豊かな色彩表現に影響を受けたブーダン、モネら19世紀の印象派の画家たち、そして現代に至るまでを一挙公開!さらに、ヴェネツィア・レースや絹織物、ヴェネツィア・ガラスなど贅を極めた工芸品の数々も併せてご覧いただけます。

ヴェネツィアを旅する気分でお楽しみいただける本展を、どうぞお見逃しなく!

【展覧会情報】
2015年9月19日(土)−2016年2月21日(日)
名古屋ボストン美術館 [中区・金山]

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