リニア・鉄道館に行こう(33) オハ35形鋼製客車 2016/3/20

オハ35 206は、国鉄客車の標準スタイル

戦前の昭和14(1939)年から、戦後となる昭和24(1949)年までに1308両もが造られた、国鉄客車の標準スタイルを確立したのが、このオハ35形です。

車体長20m、鋼製ボギー車で、窓ガラスの製造技術が上がったために幅1mの大型窓を3等車(後の普通車)で初めて採用しました。これにより、明るい車内を実現しています。

定員は88名で、同じ構造で車掌室がついた定員80名のオハフ33形とともに、国鉄時代の客車列車といえば当たり前のように連結されている客車でした。

ただし形態はさまざまで、オハ35形だけでも多くの種類があるうえ、オハ35“系”と定義すると、一等寝台車から荷物車まで多車種がある系列です。

リニア・鉄道館に保存されている206は、窓の上下に補強材のシル・ヘッダ−がリベット止めされていて、車端部の屋根が丸まっている初期の典型的なオハ35形標準スタイルです。

簡素ながらも重厚な作りの車内

車内は、廊下の左右に11のボックスシートが連なっています。鋼製車ですが、椅子の肘掛け、背も持たせ、壁などは木製です。鋼材より木材が安かった、いまとは逆の時代が産んだ内装といえましょう。

シート上部には文字どおり網が張ってある網棚があり、天井には白熱灯がともっています。戦後、蛍光灯が普及するとともに、白熱灯は次第に蛍光灯に取り替えられていきました。そのため、晩年まで白熱灯で走っていた車両は多くありませんでした。夜にはその光源の違いが一目瞭然で、筆者は好んで明るい蛍光灯車両に乗っていましたが、今考えると落ち着いた白熱灯の車両の方が良く感じます。

前述の通り、窓ガラスは横幅1mの大きなものが各ボックスごとについていますので、乗客が窓外に目をやったとき、窓の桟がその景色を二分することがありませんでした。

車内公開時には、床にも注目

オハ35 206は収蔵車両エリアにあるため、通常は車内が非公開です。その車内が公開された際、ぜひ注目していただきたいのが床にある穴です。上の写真は、その穴の内部を開けて取り出してもらったところを撮った写真を、矢印の先に表示しました。
これ、なんだか判りますか?

『タンツボ』です。

タンツボ…痰壺と書きます。喉が詰まった時に痰を吐きますが、その痰を吐き捨てるための容器なのです。

かつて結核が国民病ともいわれ、不治の病として恐れられていました。結核は結核菌の感染が原因ですので、大正8(1919)年には結核予防法が制定され、国を挙げての対策がとられます。その施行規則には、次の一文がありました。

***
第2条 学校,病院,製造所又は鉄道,電車,船舶,自動車,馬車等の発着待合所,劇場,寄席,活動写真館,旅店,下宿屋,料理店,理髪店,湯屋,其の他地方長官の指定したる多衆の集合する場所又は客の来集を目的とする場所には液体を入れたる適当箇数の唾壺を配置すベし。
***
国立教育政策研究所 - 学習指導要領データベース - 附一、学校保健に関する法令(抜萃) から引用
※引用元のURLは、別途、下に記します。

人が多く集まる場所で感染する可能性が高いだけに、それを防ぐために痰壺を設置するように義務づけたわけです。この条例にある鉄道として当時製造された客車には、駅等の待合室同様に痰壺が設けられたということです。

幸い、戦時中にストレプトマイシンという特効薬が開発されたお陰で、戦後、急速に結核患者が減少します。昭和26(1951)年に改正された結核予防法施行令では、当該条文が廃止され、平成19(2007)年には結核予防法そのものが廃止されました。

いまや、痰壺のついている鉄道車両は現役にありません。しかし、かつては結核感染症対策として設置されていたことを、このオハ35形が実証しています。

なお、展示車両の痰壺には、安全のため床と平らになるよう透明なカバーがつけてあるため、実使用はできません。間違って使おうとはしないで下さいね。

【お知らせ】
リニア・鉄道館は、3月14日に5周年を迎えました。
5周年記念の特別企画について、詳しくは同館ホームページをご覧下さい。

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(有)鉄道フォーラム 代表取締役

1958年愛知県犬山市生まれ。大学卒業後に10年のサラリーマン生活を経て、当時話題だったパソコン通信NIFTY-Serveで鉄道フォーラムの運営をするために脱サラ。1998年に(有)鉄道フォーラムを設立。2007年にニフティ(株)がフォーラムサービスから撤退した際に、独自サーバを立ち上げて鉄道フォーラムのサービスを継続中。

一方、鉄道写真の撮影や執筆なども行い、「日本の“珍々”踏切」(2005.2 東邦出版刊)、「鉄道名所の事典」(2012.12 東京堂出版刊)、「トワイライトエクスプレス」食堂車ダイナープレヤデスの輝き−栄光の軌跡と最終列車の記録−(2015.9 創元社刊)など著書多数。

当「達人に訊け!」をまとめた書「東海鉄人散歩」(2018.7)が、中日新聞社から刊行された。

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