第13回 ヒラリーvsトランプ、対照的なテロ対策 2016/7/15

今回の大統領選では、テロ対策も大きな争点となっていて、二人とも「イスラム国を潰し、アメリカの安全を守る」という公約を掲げ「私のほうがテロ対策に強い候補です!」と主張しています。

まず、イスラム国撲滅に関する二人の方針を見てみましょう。

ヒラリーは、米軍が地上戦を行わずに済むように、イラクなどのイスラム諸国の軍隊を援助して、イスラム諸国軍にイスラム国を潰させる、と言っています。

一方、トランプは、アメリカに対して友好的な態度を示してくれるイスラム諸国のみの協力を求める他、プーティンと交渉してアメリカに有利になる協定をロシアと結び、両国にとって共通の敵であるイスラム国を破壊する、と言っています。

ウラジミール・プーチン ロシア連邦大統領

ヒラリーは、イスラム諸国の軍隊を援助するにあたり、交換条件は提示していません。
世界中の人々の敵であるイスラム国をアメリカの援助によってイスラム諸国軍隊に潰させるのは、地球人全体の利益になることだ、というグローバルな視点でテロ対策を考えているからです。

一方、トランプはテロ対策のみならず全てのポリシーでAmerica First!“アメリカの利益を第一に!”というスタンスを打ち出しているので、イスラム国潰しのパートナーにもアメリカにとって利益になる国のみを選ぶ、というわけです。アメリカ国内のテロに関しての二人のポリシーは、全く正反対です。

フロリダ州オーランドでイスラム国に忠誠を誓ったアフガニスタン系アメリカ人によるテロ乱射事件が起きた直後、リンチ司法長官はこう発言しています。
Our most effective response to terror and to hatred is compassion, it’s unity, and it’s love, “我々の最も効果的なテロと憎しみへの対応策は、思いやり、調和、そして愛です”

ロレッタ・リンチ アメリカ合衆国司法長官

慈悲心と愛でテロリストたちの心を変えよう、というのがオバマ政権の方針で、ヒラリーも基本的にはこの流れを受け継ぎ、テロリストの取締より銃規制に力を入れています。
そして、ヒラリーもオバマ政権も「国内のイスラム教徒が疎外感を味わうとテロに走る」という大前提のもとに、ムスリムの気持ちを傷つけないように!と、細心の注意を払っています。

そのため、オバマ、ヒラリーを筆頭に民主党の政治家は、テロが起きる度に、Islamic terrorists“イスラム教テロリスト”,radical Islamist,“過激派イスラム教徒”jihadist “イスラム教の聖戦を行う人間”などのイスラム教にネガティヴなイメージを与える言葉を使わず、extremist“過激派”という宗教色のない言葉を使っています。また、ヒラリーは、シリアなどのイスラム諸国からの難民も、積極的に受け入れる方針を打ち出しています。

それに対し、トランプは、ヒラリーとオバマ政権のテロ対策を「アメリカ人の安全よりもムスリムの気持ちを重視している」と批難し、国内でのイスラム教過激派の取締強化、イスラム国シンパのイマーム(イスラム教指導者)が説教をしているモスクの監視、などを訴えています。また、難民に関しては「身元調査が完全にできるようになるまでムスリムの入国を禁じることもテロ対策の一つとしてあり得る」と言っています。

6月28日に発表されたABCニュース/ワシントンポスト紙の世論調査によると「信頼できるのはどちらの候補のテロ対策ですか?」という質問に、回答者の50%がヒラリーと答え、トランプを選んだ人は39%にすぎませんでした。

しかし、6月22日にオピニオン・サヴィー社(政治コンサルタント会社)が発表した世論調査では、下記のような結果が出ています。

質問:シャリーア(※注)支持者の入国を許可すべきだと思いますか?
 思う    8.7%
 思わない 80.3%
 分からない10.9%

質問:合衆国を訪れる人間は合衆国憲法を守るべきだと思いますか?
 思う   78%
 思わない 13.8%
 分からない 8.2%

この調査結果を見る限りでは、トランプの「身元調査ができるまではムスリムの入国禁止」という方針を受け入れる人も多い、ということでしょう。評論家の中には「今後特にアメリカ国内でイスラム教過激派のテロが増えた場合は、トランプの支持率があがる可能性が高い」と言っている人も少なくないのですが、どちらが大統領になってもテロなど起きない平和な世界を早く築いてほしいですよね。

※注:シャリーア
コーランとイスラム教開祖であるムハンマドの言行に基づいて作られたイスラム法。盗みを犯した人間の手や足の切断、婚外セックスや同性愛行為をした者に対する石打ち・斬首の公開処刑など、非人道的な刑罰も含まれている。

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プロフィール

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ジャーナリスト

エジプト、カイロ大学で比較心理学を専攻。イスラム教徒。1989年から1994年までNHK教育テレビ『英会話』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系CNNモーニングのキャスターを務め、1994年、ヨーロッパに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、アメリカのレッド・ステイツ(共和党が強い非都会型の州)の実態を様々な媒体でリポート。

著書:
『レッド・ステイツの真実−アメリカの知られざる実像に迫る−』(研究社)
『オバマ失言で学ぶアメリカ』(ベストセラーズ)
『警告!絶対にマネをしてはいけない「ブッシュ君」英語集−正しい英語例つき』(マガジンハウス)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっとわかる』(講談社)

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