第14回 トランプ、党大会でタブーに言及。政教分離撤廃に挑戦? 2016/7/31

18日から21日にかけて行われた共和党大会は、当初はクルーズ陣営が反乱を起こす、と噂されていましたが、開始時にちょっとした口論はあったものの、代議員の9割方がトランプを熱狂的に支持し、トランプが正式に共和党候補にノミネートされました。

「アメリカを再び安全に!」「再びアメリカの経済繁栄を!」「アメリカの利益を再び最優先!」「アメリカを再び偉大に!」という日替わりのテーマに沿って、会場に集まった共和党支持者たちは“個人の自由と責任、法と秩序を大切にする強いアメリカを取り戻すためにトランプを大統領にしよう!”と叫び、やっと一つにまとまりました。

トランプ氏の副大統領候補、マイク・ペンス インディアナ州知事

党大会の数日前に発表された副大統領候補、マイク・ペンスは保守派キリスト教徒、元下院議員、現インディアナ州知事です。共和党のベースである福音派キリスト教徒の支持を固め、立法・行政面でトランプを援助できる適切な人材なので、9割方の共和党支持者はこの選択を拍手で迎えました。

しかし、ペンス選択を公表する記者会見で、トランプはまたしても「ジョンソン補正を撤廃する」という爆弾発言をしてしまいました。

ジョンソン補正とは、1954年に当時テキサス州出身の上院議員で後に大統領となったリンドン・ジョンソンが発案し、制定された「非営利団体が政治活動を行った場合は税控除を受けられない」という法律です。

リンドン・ジョンソン 第36代米大統領

ジョンソンは、彼の再選を阻止するためにアンチ・ジョンソンのビラを配っていた2つの反共産主義非営利団体の行動を止めるためにこの法案を提案しました。ジョンソン補正案は、当時議会が提案していた税制改正法案に付加されて、この法案が議会を通過しました。教会などの宗教団体も非営利団体なので、この法律制定後は、教会もシナゴーグもモスクも政治活動ができなくなってしまいました。

ただし、ジョンソン補正には「特定の候補者への支持・反対を表明せずに政策を説明する“政治的教育”や有権者登録、投票を助ける活動は許される」と記されています。ですから、ジョンソン補正後も選挙の度に黒人教会は民主党のために、多くの福音主義派教会は共和党のために、許容範囲内の支援活動をしています。

共和党のベースである福音主義キリスト教徒たちはかねてからもっと積極的な政治活動をしたいと思っていたのですが、アメリカ人のほとんどが「政教分離は近代民主主義の基本である」と信じているので、今までどの大統領候補も彼らの意向を無視してきました。ヘタにジョンソン補正に触れると、民主党からも中道派からもメディアからも徹底的に叩かれて、百害あって一利無し、という状況に陥ってしまうからです。

でも、トランプは、クルーズに忠誠を誓っている福音主義キリスト教徒の草の根活動による動員力に頼らないと勝てない、という州で、彼らを活気づける必要があります。さらに、キャンペーン中に福音主義派の牧師たちと個人的に親しくなったこと、そしてトランプ自身が徹底的な言論の自由を信じていることも手伝って、敢えて物議を醸す公約を掲げたのです。

日本でも同じだと思いますが、アメリカでも有権者のほとんどが「公約は破られるものだ」と思っているので、おそらくトランプ支持者の多くも彼が当選してもジョンソン補正を覆すことができるとは思っていないでしょう。

しかし、福音主義の顔だったジョージ・W・ブッシュも含め、今までの共和党大統領候補全員がひたすら避けて通ってきたジョンソン補正を、 副大統領候補発表記者会見、及び指名受諾演説という非常に注目度の高い場所で「撤廃する」と発言してくれたトランプの勇気を、彼らは高く評価しています。

ちなみに、この爆弾発言に関するメディアの反応は「またか!」という感じなのです。政治評論家たちも、他の候補が言ったら命取りになる一言を連発しているトランプにひたすら呆れかえっているのですが、世論を気にせず思ったことをズバズバ言ってしまうところがトランプの魅力なんですよね。

何事につけても型破りのトランプが、ヒラリーを相手に今後どんなキャンペーンを展開していくのか、楽しみですよね!

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プロフィール

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ジャーナリスト

エジプト、カイロ大学で比較心理学を専攻。イスラム教徒。1989年から1994年までNHK教育テレビ『英会話』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系CNNモーニングのキャスターを務め、1994年、ヨーロッパに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、アメリカのレッド・ステイツ(共和党が強い非都会型の州)の実態を様々な媒体でリポート。

著書:
『レッド・ステイツの真実−アメリカの知られざる実像に迫る−』(研究社)
『オバマ失言で学ぶアメリカ』(ベストセラーズ)
『警告!絶対にマネをしてはいけない「ブッシュ君」英語集−正しい英語例つき』(マガジンハウス)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっとわかる』(講談社)

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