<第48話>15日間長かった名古屋場所 2016/7/29

近年まれな日替わりで優勝争いの主役が変わる、予想しづらい場所でした。稀勢の里の綱取り、白鵬の1000勝に絞られて、迎えた名古屋でしたが、マスコミ(私も含めて)脱帽の場所でした。

日馬富士に3日目土がつき、9日目嘉風に完敗したとき、彼の優勝をだれが予想したことでしょう。白鵬が乱れ、稀勢の里が不安定な土俵を見せ、混戦模様になったことが第一でしたが、この間、日馬富士が集中力を絶やすことなく臨んだ結果のV8でした。

名古屋場所で優勝し、パレードする日馬富士。旗手は照ノ冨士

稀勢の里と2敗同士で迎えた13日目の日馬富士の一番は完璧でした。突き刺さるようなスピードあふれる立ち合いで左四つ。頭をつけ、低く一腰落とし、右上手から強くおっつけました。ここで稀勢の里が苦しい左差し手を抜いて、上手を探った瞬間、日馬富士はさっと前へ走りました。あっという間に向正面白房下に寄り倒しました。

残りあと2日ありましたが、私はこの瞬間、日馬富士の優勝が決まったと見ました。

稀勢の里を寄り倒しで下した日馬富士

小さい体の不利を自覚し、立ち合いのスピードと休まぬ攻撃で、綱の地位を守る日馬富士の本領発揮の場所として特筆されます。

稀勢の里は前回の場所展望で、最も要注意相手と挙げた栃煌山に完敗。何とか終盤まで期待をつなぎましたが、腰高が目立ちました。

栃煌山に突き落としで敗れた稀勢の里

松鳳山に変化されたのは無念でしたが、日馬富士戦は力の差をまざまざと見せつけらました。

腰高を是正すること。
立ち合いもっと踏み込むこと。
不利なときに我慢すること。

3つの課題です。来場所こそ、大願成就してほしいと願うのみです。

白鵬はやや集中力に欠けた場所でした。宝富士に敗れた相撲、勢に不覚を取った一番など、安易な取り口は禁物です。

勢にはたき込みで敗れた白鵬

照ノ富士は膝の回復が徐々に良くなってきたと思います。8勝止まりでしたが、秋場所は本来の相撲が大丈夫と見ます。

高安の技能賞には拍手を送ります。取り口に粘りが出たこと、タイミングの良い投げの切れ味が見られたことが勝ちにつながりました。大関候補に名乗りを上げた場所で、今後が楽しみです。

敢闘賞の宝富士が地味な力士ですが、横綱、大関戦で力がついていることを証明しました。左四つの型と土俵際で残す粘りなどに自信がみなぎっていました。

正代も大きな将来性を感じさせました。勢と真っ向勝負の投げの打ち合い、豪栄道と照ノ富士を寄り切った正攻法の取り口は見事でした。大関候補筆頭と見ています。

稀勢の里戦で善戦するなど成長著しい正代

嘉風の殊勲賞も賞賛に値します。日馬富士を破った金星が象徴的です。激しい突っ張り合い、張り手の応酬に館内が沸き返りました。荒々しい相撲だけでなく、スピード感あふれる取り口が彼の真骨頂です。

敢闘賞の貴ノ岩、勝ち越しながら終盤にケガで休場した千代の国の活躍も立派でした。

十両で宇良が11勝したのは期待通りでした。変化だけではなく、正攻法の鋭く前へ出る取り口、独特の相撲勘も含めて、ファンの楽しみが倍増したのではないでしょうか。

3年前に始まった私のこのコーナーも今日で一区切りとさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。また、本場所で皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。

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プロフィール

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日本福祉大客員教授、元NHKアナウンサー・相撲ジャーナリスト

1930年、北九州市生まれ。早大卒業後、53年NHK入局。初任地は名古屋局で、自身初の大相撲実況は54年2月に金山体育館で行われた大相撲名古屋場所(当時は準本場所)。

NHK在職中は名古屋、福岡、大阪、東京と大相撲の本場所開催地の放送局に在籍。81年、大関貴ノ花引退の放送で思わず絶句。“泣きの杉山、泣かせの杉山”と異名をとる。相撲以外でも東京、メキシコ五輪をはじめプロ野球など各種のスポーツ実況を担当。

現在は日本福祉大生涯学習センター名誉センター長、客員教授。名古屋・栄の中日文化センター講座「大相撲の魅力を語る」で講師を務める。深い知識と豊富な経験を基に、講座で興味津々の話題を紹介してくれる。

著書に「大相撲この名勝負」「土俵の鬼三代」「兄弟横綱−若貴の心・技・体」「土俵のチンギス・ハーン 白鵬」「土俵の真実」などがある。

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