第16回 ヒラリーとトランプの対照的な黒人問題対策 有権者に支持されるのは? 2016/8/31

バラク・オバマ 第44代アメリカ合衆国大統領

2008年にオバマが大統領に当選したとき、アメリカ人のほとんどが「これでやっと人種格差が是正されるだろう」と、大きな希望を抱いていました。しかし、オバマ政権は、1期目はオバマケアー、2期目は不法移民への恩赦と難民受け入れに力を入れ、黒人問題は解決されるどころか悪化の一途をたどっています。

オバマ政権発足当時と現在を比較すると、黒人の就業率は63.2%から61.7%、平均所得は3万5954ドルから3万5398ドル、自宅所有率は46/1%から41.9%に落ち、貧困層は25.8%から26.2%、生活保護受給者数は739万3000人から1169万9000人へとはね上がっています。

また、ここ数年、黒人の比率が多い大都市で黒人暴動が相次ぎ、ギャラップ社の人種問題追跡調査によると「人種問題は深刻だ」と答えた人の割合は2008年には18%だったのに対し2016年にはほぼ2倍の35%となっています。

さらに、オバマが政治家になるための基礎を固めたシカゴでは黒人地区での犯罪が絶えず、2015年だけで468件もの殺人事件がありました。(被害者・加害者のほとんどが黒人です。)
そのため、ヒラリーは常に票田である黒人を優遇する政策を語り、トランプも8月中旬にやっと黒人問題対策にかなりの部分を割いた演説を各地で行い始めました。

米民主党の大統領候補 ヒラリー・クリントン前国務長官

ヒラリーは、黒人への援助金をさらに増やし、公立大学の学費を無料にして、大学入学や就職の際に既存の黒人優遇政策を維持することで黒人の就学・就職率を上げる、という従来の民主党の政策を強化する、と説いています。

米共和党の大統領候補 ドナルド・トランプ

一方、トランプは、黒人暴動が起きている大都市の市長が全員民主党で、市議会議員のほとんども民主党の政治家であることを指摘し、そもそも黒人が底辺にいるのは、民主党のカネばらまき政策が失敗したせいだ、と主張しています。

トランプ及び共和党の人々は、下記の悪循環が人種格差の理由だと考えています。

貧困のため黒人男性が犯罪に走って投獄されるケースが多い
  ↓
黒人シングルマザーが増える
  ↓
民主党が援助金を増加
  ↓
シングルマザーで子沢山で生活保護を受けたほうが働くよりマシと考える黒人が増える
  ↓
黒人の生産性が落ちて黒人地域が崩壊しギャングに走る黒人青年が増える
  ↓
民主党が黒人(多くがシングルマザー子沢山の家庭)への援助金をさらに増やす

そのため、トランプは、アメリカの利益を最優先する経済政策で雇用創出を実現し、安い労働力である不法移民を閉め出して黒人就業率を増やして生活水準を底上げし、悪循環を断ち切る、と説いています。学歴格差に関しては、トランプはスクール・チョイス(私立学校に行きたい黒人に政府が資金援助する)制度を拡大することを公約として掲げています。

民主党の政治家は一貫してスクール・チョイス非合法化を望み、公立学校への資金援助強化を説いていますが、スクール・チョイスは黒人に人気があるので、政治評論家は「トランプはこのスクール・チョイスに関するCMを黒人地域で流せば少しは点数がかせげるかもしれない」と言っています。

さらに、トランプ陣営は、オバマ政権がマイクロソフトやグーグルなど15社の大企業に資金を提供させて中東やアフリカからの難民を受け入れ(2016年8月の時点では8万5000人)教育を与え就職を斡旋し、この夏には連邦政府の資金200万ドルを難民のための職探しに投じた事実、ヒラリーが受け入れ数を大幅に拡大すると言っている事実を挙げて、「ヒラリーも民主党も黒人より難民を優遇」というイメージを植え付けようとしています。

LAタイムズが数日おきに行っている世論調査では、黒人のヒラリー支持率は一貫して85%以上、トランプは一貫して4%ほどでしたが、8月中旬にトランプが黒人問題対策を強調した演説を行った直後には、黒人のトランプ支持率が14.6%に急増しています。

アメリカの大手マスコミは既にヒラリーの地滑り的勝利を予測していますが、トランプが失言や暴言なしにメッセージを伝えられれば、まだまだ支持率を伸ばせる可能性がありそうですよね。

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プロフィール

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ジャーナリスト

エジプト、カイロ大学で比較心理学を専攻。イスラム教徒。1989年から1994年までNHK教育テレビ『英会話』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系CNNモーニングのキャスターを務め、1994年、ヨーロッパに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、アメリカのレッド・ステイツ(共和党が強い非都会型の州)の実態を様々な媒体でリポート。

著書:
『レッド・ステイツの真実−アメリカの知られざる実像に迫る−』(研究社)
『オバマ失言で学ぶアメリカ』(ベストセラーズ)
『警告!絶対にマネをしてはいけない「ブッシュ君」英語集−正しい英語例つき』(マガジンハウス)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっとわかる』(講談社)

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