第17回 トランプの目玉公約・国境防御壁建造費は誰が払うのか? 2016/9/15

米共和党の大統領候補 ドナルド・トランプ

数あるトランプの公約の中で支持者たちに最も人気があるのは「メキシコとの国境に壁を建造する」というものです。

予備選の間は、この「壁」は「不法移民対策強化」を意味する比喩的な言葉の綾だと思われていました。しかし、トランプが共和党候補に決まった後は、トランプ支持者もトランプ自身も物理的な本物の壁を築くつもりであることがあきらかになりました。そして、現時点では壁建造は既成事実の仲間入りをして「建造費用は誰が払うのか?」が争点になっています。

メキシコのヴィセンテ・フォックス元大統領

トランプは、選挙演説の度に「メキシコが払う」と主張していて、トランプ支持者たちもすっかりそのつもりになっていますが、メキシコの元大統領、ヴィセンテ・フォックスは、英語で行われたインタビューで I'm not gonna pay for that fucking wall! 「私はそんな忌まわしい壁の費用など払うつもりはない!」と、fuckingという強い表現を使って怒りを露わにしていました。

また、8月31日にトランプがメキシコを訪問し、ペニャニエト大統領と会談した後、メキシコの現大統領も「壁建造費をメキシコが払うことはない」と発言しています。それでも、トランプは「メキシコに払わせる」という主張を曲げず、支持者たちも彼の強硬姿勢に拍手を送っています。

メキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領

今のところトランプは、どうやってメキシコに建造費を支払わせるのか、具体的な政策はまだ打ち出していませんが、トランプ支持者たちは

1:メキシコからの輸入品に関税を掛ける
2:不法移民を養うための莫大な費用が浮けば楽に壁建造費をまかなえる
3:不法移民が本国に送金するドルがアメリカにとどまれば、経済活性化されて税収が増えて建造費を楽に調達できるようになる

と指摘しています。経済アナリストの多くは2番目のロジックが具現化の可能性が高いと言っています。

メキシコとの国境は1954マイルですが、その一部には既に2重の壁が存在し、山や崖などの“自然の障害物”がある地域もあるので、実際に壁を必要とする距離は1000マイルほどで、建造費は100億ドルほどと見積もられています。

アメリカ・サンディエゴとメキシコ・ティファナの国境には既に壁が立てられている

サンディエゴとティファナの国境には既に壁が存在し、建造後は不法移民の数が95%も減りました。アメリカ政府は不法移民の正確な数を把握していないのですが、多くの政府機関は1100万人〜1500万人ほどだろう、と発表しています。

アメリカ政府の学術機関である全米研究評議会や民間の移民調査センター、アメリカ移民制度改正連盟の調査によると、1年の間に不法移民がアメリカ政府にもたらす利益(消費税など)は95億ドル、連邦・地方政府が不法移民に与える福祉(貧者に与えられる食品交換券、不法移民の子どもの教育費など)は288億ドルなので、政府は毎年193億ドルの損をしている計算になります。

現在の不法移民の数が1300万人だとすると、不法移民一人につきアメリカ政府は毎年約1500ドルの損をしていることになります。メキシコ国境から毎年アメリカに流れ込んでくる不法移民の数はおよそ30万人なので、壁を建てない場合はアメリカ政府は毎年新たに4億5000万ドルの損をすることになります。

壁を建ててこの数を3万人に減らせれば損害は4500万ドルで、4億500万ドル浮く計算になり、壁のおかげで毎年浮く金額は25年で100億ドルを超し、壁建造費を回収できる、というわけです。

壁建造支持者たちは不法移民を閉め出せて最終的にアメリカの損害を最小限に減らせるのであれば、今100億ドル出して壁を建てることはa stitch in time saves nine(今一針縫っておけば9針分の節約になる)と考えているので、この建造費捻出法を歓迎しています。

トランプ支持者の間で最も人気があるのは、メキシコや中南米、南米の麻薬カルテルの資産を押収して壁建造費にあてる、という方法です。法律学者たちは「複数の法律を改正しない限りそんなことはできない」と指摘していますが、トランプが大統領になったら法律改正など待たずに大統領勅令を発して麻薬カルテルの資産で壁を建造するかもしれませんよね!

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プロフィール

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ジャーナリスト

エジプト、カイロ大学で比較心理学を専攻。イスラム教徒。1989年から1994年までNHK教育テレビ『英会話』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系CNNモーニングのキャスターを務め、1994年、ヨーロッパに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、アメリカのレッド・ステイツ(共和党が強い非都会型の州)の実態を様々な媒体でリポート。

著書:
『レッド・ステイツの真実−アメリカの知られざる実像に迫る−』(研究社)
『オバマ失言で学ぶアメリカ』(ベストセラーズ)
『警告!絶対にマネをしてはいけない「ブッシュ君」英語集−正しい英語例つき』(マガジンハウス)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっとわかる』(講談社)

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