コーヒーの名著本 Part1 2016/9/15

昭和4年発売の、喜多壮一郎著「カフェー コーヒー タバコ(東京春陽堂刊行)」

いつもありがとうございます。今回から日本で発行された、数々の珈琲の名著といわれる本を紹介したいと思います。第二次世界大戦、戦前、戦後、珈琲の本で、いろいろな方が書かれ刊行された名著はたくさんあります。

戦前には、前回ご紹介した昭和4年発売の、喜多壮一郎著「カフェー コーヒー タバコ(東京春陽堂刊行)」があります。

当時、三円五十銭の定価でした。

この本は以前、ネットの古本ショップで偶然見つけて購入した1929年出版の本ですが、カバーも付いていて、とても87年もたっているとは思えないくらい保存状態が良かった本です。

内容はというと、珈琲の発見、効用、カフェの歴史、世界のカフェの紹介、文学等、とても専門的に書かれているのにびっくりします。また、内容の写真や資料の豊富さにもびっくりです。

ネットや通信機器がない時代に、よくぞこれだけの資料を集めたものと感心しました。特に、世界のカフェの紹介写真に載っているカフェ(喫茶店、レストラン)のモダンなことといったら、現代でも十分通用するようなデザインが多く本当にびっくりしてしまいます。興味のある方は、いつでもお見せ出来ますので当店まで是非どうぞ。

昭和25年(1950年)発行のコーヒー本、『珈琲記』 井上誠著

戦後では、何といっても多くの本を出版された「井上誠」著書の珈琲本ですね。

井上誠さんは昭和のコーヒー研究家。1898〜1985年。 昭和5年〜昭和15年ころまで、東京の東中野と高田馬場で喫茶店を経営。 その後は、コーヒーの研究に没頭、昭和25年(1950年)に、最初のコーヒーの本『珈琲記』を出版する。その後、何冊も珈琲本の名著を出版し続けます。

それぞれ、珈琲の世界を幅広く書いていますが、特に参考になるのは内容よりも序文ですね。序文を読みますと、珈琲に対する時代時代の思いが良く書かれていて、技術優先の現代において、何が必要なのかを教えてくれます。

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昭和25年10月28日初版
昭和25年11月10日発行
発行所 ジープ社
「珈琲記」井上 誠 著
・・表紙はゴッホの「午後のカフェテラス」

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「序文」・・・・新居格

〜私は珈琲を非常に愛好するものの一人ですが、珈琲についての何の知識もない。淹れ方も知らず、何と何をミックスしたらよろしいのか、濃度はどのくらいが自分にとってもっとも好ましいのか、それもわからないので、ただもうすきでのむというだけである。だから、珈琲について語る資格はない。それにも拘わらず、わたしは珈琲に関連しての興味はいろいろもっている。

たとえばバルザックはコーヒーをのみながら執筆したとか、十七、八世紀のころの英国では文人政客が珈琲店をクラブとして利用したとか、ハインリッヒ・クーノーには「珈琲店」(カフェー・ホイゼル)という本があって、それにはフランス大革命と珈琲店との関係を書いてあったとかいった点で私は興味を持ったのである。

わけても、ハズリットの随筆で「珈琲店政治家」という一文などはとても面白かった。フランス語のうまい友人が来て”カフェー”と発音しないで、”キャフッェ”といいたまえなどと訂正されもした。

それはさておき、井上君は学問としての珈琲の本を書いた。歴史性と科学性とを経緯として。こうした本は珈琲を他愛もなく愛飲はしていたが、珈琲についての知識のない私にいろいろと目を開いてくれた。珈琲の歴史と知識とによって、私は縦からも、横からも珈琲を知ることができた。

また、めくら滅法にコーヒーをのむ私のような仲間もこんにちは数多いこととも思うが、その呑気な連中も井上君のこの本をよむと珈琲そのものまで直ちに味が変わることはないにしても心ゆたかに珈琲にたいすることが出来るし、いろいろかんがえるようになるだけでもいい。珈琲樹の世界的分布がどうなっているかを知っただけでも面白いことだ。

この本は有益でもあるし、面白くもある。珈琲文化を知ろうとするもののとってはきわめて好ましい侶伴である。それ故に、私はこの書に序して極力すいせんするものである。〜

「序章」
ここに描かれた珈琲への愛情を地の上にあるすべての珈琲愛好家に捧げる

「本文」
コーヒーという飲物への思慕、などといえば、大袈裟に聞こえるでしょう。しかし、それはただ単に珈琲マニアだけが陥る世迷言だとは思われない本然の美しさを、珈琲それ自身が持っているのです。何時からともなく、恐らく偶然の機会に、珈琲は世に出たものと思われます。

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いかがでしょうか?

大戦後当時、食べるだけで、生きていくだけで精一杯だった時代に、コーヒーを通じて心のゆとりを持つことの大切さを、物の大切さが書かれています。また、コーヒーを少しだけ掘り下げることによって、物の本質が見え、心が豊かになるという思いも見て取れますね。

物を創りだすのは技術ではなく、珈琲に対する思い(愛情)が創りだすのです。それにはまずは珈琲を知るところから始まり、知るとコーヒーに対する考え方、接し方、味までもが変わっていくといっているようです。

昭和29年発行、「珈琲」
昭和34年発行、「珈琲の研究」

その後、数十冊ものコーヒー本を出版しますが、いずれもとても参考になる本ばかりです。

昭和29年、近代社発行
「珈琲」
昭和34年には健康ノ友社発行
「珈琲の研究」
特に、「珈琲の研究」の序章でもある「コーヒーの概念」がとても参考になり面白いです。

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「コーヒー概念」
前略〜
コーヒーは何気なくたてられるものでる。しかし、真によくたてられたコーヒーは、そのたてる人によって各々異なった性格を表すもので、また、同一人の場合であっても、動揺する心境でたてられたものは、必ず動揺した気分を現すものであるということは、少し経験のある者なら誰でも気づくことである。

このようなコーヒーの性格は、ほとんど自然物に近い、しかし、非常にデリケートな素材に加えられる人工が、その飲料に直接反映するために生ずる当然の結果であって、コーヒーの素質は、物質として持っているその要素の結合が、熱湯中に分解する瞬間、人の心と相通じて、液体の中に己を表示しているのである。それは厳密な意味で、科学的な、また、物理的な結果であると同時に、芸術的な要因を含んでいると言ってもよい。

一見単純な手段によって(※補足・・・布ドリップコーヒーの手法を言っている)、人間が即座につくり、しかも最高の歓びを持って用いることのできる飲み物として、コーヒーが持っているこのような特性は、すべての飲み物の中で、まったく類似のない自由性に富んだものである。それは単に製品というよりも、はるかに生けるもののように、己を表示することを瞬間に知っている。

少しも既成概念に捉われないこの特性こそ、コーヒーのもつ最も近代的な素質によるものでなければならない。コーヒーが単なる理解ではなく、直観的に近代人愛好されるものとなったのもそのためである。そしてそれ故にこそ、コーヒーは万人の間に伸び行き、その親和力となり得たものであった。〜

井上誠氏の珈琲本数々

いかがでしょうか?

まさに人生訓とでも申しましょうか、珈琲哲学とでも申しましょうか・・・。私の尊敬する、今は亡き襟立保博氏は、

「その人の人間性が味となるのですよ! まず、美味しいコーヒーを創れるようになるには、まず、人格、人間形成を磨いてください」

とお弟子さんに言ったそうです。私自身、珈琲の道を何十年も進んでいくと、その言葉の意味がだんだんと重みを増し心に刻まれてきます。先人たちの残してくれた珈琲の名著本は多くのことを教えてくれます。

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プロフィール

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日本コーヒー文化学会 理事、日本スペシャルティーコーヒー協会会員(SCAJ)、SCAJ公認 コーヒーマイスター(NO.169)、前・金沢大学講師 (文部科学省公認)

1977年岐阜県瑞浪市に「待夢珈琲店」開店、コーヒーの歴史書や専門書を読みあさり、独学で焙煎を覚え、自家焙煎の珈琲専門店をスタートさせる。

その後、世界のコーヒー産地を自らの足で回り、納得のいく優良な豆を買い付け、良質で新鮮な体に良いコーヒーを提供しています。

また、現在、中日文化センターの珈琲教室をはじめ、基礎クラスから専門クラスまで12講座をこなしています。

産地歴訪はエチオピア3回、イエメン4回、ブラジル、インドネシア、ケニア、タンザニア、ペルーなど。

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