「イスラーム映画祭 2」(後編) 2017/1/13

『神に誓って』より  

――後編では、本映画祭ディレクターの藤本高之さんに、上映作品の見どころを教えて頂こうと思います。

まずは『神に誓って』。この映画は東京では第一回に上映したので、名古屋と神戸の二会場での上映になります。パキスタン映画で、同国とインドで大ヒットした作品です。過激なイスラーム原理主義に走る人々と、欧米が行なっているイスラーム全体を貶めるプロパガンダの両方に対して「それはちがうだろう」とアンチテーゼを提起していて、それを大エンタティメントとして見せているところが、すごい。

この映画のせいで、監督は命を狙われて、国外に3度逃亡したと聞いていますが、それだけ強い思いで作られた作品と言えます。 「イスラーム映画祭」を名古屋、神戸に拡大したのも、『神に誓って』を一人でも多くの人に見てほしいという気持ちがありましたね。

『私たちはどこに行くの?』はレバノンの小村が舞台です。レバノンは、キリスト教、イスラーム教の複数の宗派が各地に分散するモザイク国家と言われています。この村の男たちは、ムスリムとクリスチャンが事あるごとに対立しているのですが、女たちは平和な生活を守ろうと共闘する。彼女たちの行動が痛快で、本当に楽しい映画です。

『敷物と掛布』は“アラブの春”を扱っています。革命の中心地ではなく、その周辺地区に光を当てた、クオリティの高いドラマです。“敷物と掛布”というのは寝具のことですね。安心して眠る状況を手に入れられない人々がいる。革命は、そういう人たちのためのものでは? という監督の声が聞こえてきます。

『泥の鳥』は、バングラデシュ映画です。バングラデシュというと援助されるだけの貧しい国という印象かもしれません。でも、この映画を見れば、いかに芸術性の高い国か分かって頂けるでしょう。ベンガル地方に伝わるバウル音楽がテーマとも深く関わっていて、見どころ、聴きどころです。

『蝶と花』と『改宗』はタイ映画です。タイというと仏教国というイメージがありますが、南部にはムスリムが多く暮らす地域があります。2本ともそうした地域を舞台にしています。『蝶と花』は、闇の仕事を通じて成長する少年の物語で、個人的には今回一番肩入れしている作品です。

『改宗』は、結婚相手がムスリムなので、仏教徒からイスラーム教徒に改宗する女性を描いたドキュメンタリーです。“改宗”がテーマではあるのですが、いろいろな困難の原因は、実はこの旦那の性格にあるんじゃないかと思えるところもあって(笑)、そのあたりも面白い作品です。

『バーバ・アジーズ』。これはアラビアンナイト風の御伽噺で、もう見ているだけで楽しい。映画の完成後に地震で倒壊したイランの要塞都市・バム遺跡で撮影されたシーンがあって、その映像は貴重ですし、とても美しいです。

『マリアの息子』はイラン映画です。ムスリムの少年とカトリックの老神父の交流を描いていて、宗教を超えた関係に心が洗われます。映画には、現実を超えた理想を描いてほしいと思っているのですが、これはその典型です。

『ミスター&ミセス・アイヤル』はインド映画。ここにも作り手の理想が垣間見えます。最上級のカーストにいる女性が、ムスリムの男とバスに乗り合わせる。そこに殺気だったヒンドゥー教徒たちが乗り込んできてムスリムを捕らえていく。主人公の女は、どう行動するか? 描写は繊細ですし、ラストが素晴らしくて、胸が締めつけられます。

最後に東京のみの上映となる『十四夜の月』。インド映画を代表する監督・俳優のグル・ダットが好きなので入れました。女性が顔を隠す習慣ゆえのすれ違いから始まる三角関係の悲恋メロドラマです。白黒の古い映画ですが歌や踊りも満載で、華やかさも面白さも今のインド映画にまったく負けていません! 私生活でもダットを狂わせたワヒーダー・ラフマーンの美しさは必見です!

――どの作品にも見どころあり! ですね。

はい。今、世界は分断されていく方向にあるように思います。先程も言いましたように、映画は理想を描くものだと思っているので、人と人が分かり合い、融和していくことをテーマにした作品を集めたつもりです。あとは、映画を見ることで、その国を旅するように楽しんで頂ければ!

『泥の鳥』より
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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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