地球温暖化を考える 〜第1話:「米パリ協定離脱」将来の地球環境は大丈夫か?〜 2017/6/12

地球温暖化』という言葉は、テレビ、新聞、インターネットなどで毎日のように報道されています。2017年6月1日には、「トランプ大統領が、パリ協定からの米国の離脱を表明した」というショッキングなニュースが世界を駆け巡りました。パリ協定は第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)の中で、2015年12月12日に地球温暖化抑制を目指して採択された国際協定で、地球大気の保全を大前提として、全ての加盟国が温室効果ガスの具体的な削減目標を定めています。

ところで、地球を取り巻く大気とはどのようなもので、どんな役割を果たしているのでしょうか?

(1)生物に不可欠な酸素と植物の光合成の原料となる二酸化炭素を保持している。
(2)有害な宇宙線や紫外線を吸収する。
(3)地球の平均気温を生物に適した約14 ℃に保ち、気候変動を緩和する。

などなど、私たち生物が生きていくためには不可欠な存在で、窒素(約78%)と酸素(約21%)が約99%を占めており、残りの約1%は、アルゴン(約0.9%)や二酸化炭素(CO2)など様々な気体で構成されています。なお「地球大気の二酸化炭素濃度は年々上昇しており、月別平均濃度が平成2015年12月に初めて0.04%(400 ppm)を超過した」と環境省地球環境局が発表しています(環境省地球環境局)。

大気中に微量含まれる二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロン類などの気体は、太陽光で暖められた地表面から宇宙空間に向かって放射される赤外放射を吸収し、それを地表面に再放射するため温室効果ガスと呼ばれています。この作用で大気は暖められ気候が温暖に保たれますが、温室効果ガスが人為的に急激に増加して限度を超してきたことで「地球温暖化問題」が生じているのです。

温室効果ガスの中でも特に排出量が多い「二酸化炭素」が注目されています。二酸化炭素は私たち生物の呼吸やゴミの処理などでも排出されます。産業革命以降、化石燃料を大量に使用するようになったことや森林破壊などにより、大気中への二酸化炭素の排出量は飛躍的に増大しています。一部は光合成や海洋水に溶解して吸収されますが、吸収しきれない残りが大気中に蓄積します。二酸化炭素は化学的に安定で分解されにくいため、排出量が増えれば大気濃度は確実に上昇します。産業革命が始まる前の1750年と比較すると、現在の二酸化炭素濃度は約1.4倍になっています。

また、世界の平均気温は、過去100年間で約0.7 ℃上昇したことも判っています(気象庁ホームページ)。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(2014年)では、二酸化炭素を始めとする温室効果ガスが現状のまま排出され続けると、2100年の平均気温は最大で4.8 ℃上昇すると警告しています。

ところで恐竜時代は、約6,600万年前の巨大小惑星の衝突による生物の壊滅的な被害で幕を閉じましたが、さらに地球の歴史を遡ると、約2億年前の大陸規模の巨大な火山爆発により、地球の生物種の約80%が絶滅しています。これは、火山噴火で「二酸化炭素や他の温室効果ガスが大気中に吐き出されたことによる気候変動が原因である」と考えられています。地球規模で発生した過去の歴史を踏まえて、近年の地球温暖化問題が、2億年前と同様に、地球上生物の大量絶滅をもたらす引き金となる可能性を警告する学術論文も報告されています(Nature Communications, 2015, 6, 7980)。

温暖化を防ぐためには、地球環境に大量放出されている二酸化炭素の削減が必須です。排出量をこれ以上増やさないために、産業界はもちろん個人の生活においてもエネルギーの節約に努めるなど、スケールの大小にかかわらず様々な取り組みが重要です。地球の未来が関わるこの問題に関しては、国、地方自治体をはじめ様々な団体が施策や啓蒙活動に真剣に取り組んでいます。

例えば岐阜県では、平成28年3月に発表した「第5次岐阜県環境基本計画」で「地球温暖化対策」と「環境社会を担う人材育成」などを大きく掲げて、その一環として「環境学習副読本」を全県の小学5年生を対象に配布するなど、次世代を担う児童の地球環境に対する意識向上に努めています。

しかし、この点はまだまだ難しい問題を含んでいます。まず、70億人を超えた世界の人口を産業革命前の7〜8億人に戻すことは不可能です。人は生活していくために多かれ少なかれエネルギーを使い二酸化炭素を排出するため、過剰な人口は地球温暖化問題を考えるに当たり深刻な問題です。したがって、万人の意識向上と努力は地球環境を守る上で必要不可欠です。

だからといって、文明社会から受けている恩恵を放棄して、温暖化ガスを排出しない生活に戻すことは基本的に困難です。身近な例を挙げれば、冷暖房、照明、移動、入浴、調理、娯楽などに費やす生活エネルギーを、個人や組織の努力でセーブすることはできますが、完全に使わないとなると不可能ではないでしょうか?実は、先に述べた「パリ協定」でも「今世紀末時点における世界平均気温の上昇幅を、産業革命以前の平均気温の2 ℃未満に抑える」と目標を掲げていますが、現在提示されている各国の地球温暖化ガス排出量削減目標がすべて成し遂げられても、この目標は達成できないことも明らかになっています。

この点を踏まえて、パリ協定では『今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする』とした目標も掲げています。つまり、既存技術の進歩や新しい科学技術の開発により、地球温暖化ガスを増やさない様にして、その上で産業や生活の質も極力下げない様にすることが、次の重要な課題です。二酸化炭素を排出する化石燃料に代えて、二酸化炭素の排出を極力抑えた、あるいは排出しない新しいエルギー地球温暖化ガスそのものを分解する新技術の創世が必須なのです。

二酸化炭素の排出を極力抑えた、あるいは排出しないエネルギーの一つで、既に実用化され、我々がその恩恵を受けてきたものとして原子力発電があります。原子力発電は二酸化炭素フリーということだけでなく、化石燃料に大きく依存していたエネルギー源の多様化などを目的として導入が進められてきました。しかし、主な燃料として使用される天然ウランは枯渇が心配される有限の資源であり、使用後の放射性廃棄物処理問題とともに、2011年の東京電力福島第一原発事故に代表されるように、放射性物質の放出と拡散を含む大災害に直結する危険性があるため、安全性懸念などその利用には難しい問題が残されています。さらに2011年以降、原子力発電所の停止により発電燃料の化石燃料依存度が高くなった結果として、地球温暖化ガス対策がより困難になるなどの問題も発生しています。

これに対して、資源の枯渇がなく二酸化炭素をほとんど排出しない優れたエネルギーとして、古くより利用されている水力発電に加えて、太陽光、風力、地熱、バイオマス、波力、潮汐などの『再生可能エネルギー』が注目され、資源エネルギー庁の支援のもとで「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」の導入などが進められています。

しかし、再生可能エネルギーには不安定な自然現象や天然資源を利用しているものが多く、またコスト的にも課題を抱えており、エネルギー創出の主力となるにはほど遠いのが現状です(例えば、我が国の2014年度の発電エネルギー源は88%が輸入化石燃料であり、水力と再生可能エネルギーを併せても12%に過ぎません:資源エネルギー庁ホームページ)。この現実を見ると、『今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする』とするパリ協定の目標を達成し地球温暖化に歯止めをかけるためには、バラエティに富んだ新技術の開発が不可欠です。

このような背景から、『次世代エネルギー』として水素(H2)が注目を集めています。水素は最も小さく、最も軽い分子で、酸素(O2)と反応して水(H2O)に変化する(広義の燃焼)際に熱や電気が効率良く生じ、二酸化炭素は一切発生しないクリーンなエネルギー源です。「化学反応式」に拒絶反応を示す方もおられるかもしれませんが、最近では水素ガスを燃料として発電しながら走行する「燃料電池自動車」が発売されるなど、水素と酸素の反応については馴染みが深くなってきているのではないでしょうか。

二酸化炭素を排出しない水素と二酸化炭素排出が不可避の化石燃料

水素は地球表面に存在する様々な元素の内で、原子の数としては3番目に多く大量にあります。しかし、水素ガス(H2)として存在しているわけではなく、水(H2O)を始めとしてアミノ酸や糖類などの有機化合物の構成成分として含有されています。ちなみに人間の体を構成する原子の数を数えると、水素原子は約60%に及びます。つまり、ヒトは過半数が水素原子で構成されているのです。また、地球表面は大量の水で覆われているので、水や有機化合物から効率良く取り出すことができれば、水素は無尽蔵で二酸化炭素フリーのエネルギー資源となるのです。

次回以降の「第2話」と「第3話」では、水素をエネルギーとして利用するために進められている様々な技術革新の現状と、近未来『水素社会』の実現に向けた産官学一体となった取り組みに加えて、私たちの研究室で進めている「機械エネルギーを利用して水から水素ガスを製造する新反応」や「有機化合物から水素を効率良く取り出すための方法」を交えて紹介する予定です。

岐阜薬科大学 佐治木弘尚教授
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