地球温暖化を考える 〜第2話:水素は無尽蔵で二酸化炭素フリーのエネルギー資源〜 2017/6/20

我が国の2014年のエネルギー自給率は僅か6.0%です。

東日本大震災前の2010年は19.9%(2010年)であったので、原子力発電所の稼働停止等により大幅に低下しています。不足する電力を補うため、輸入に頼っている液化天然ガス(LNG)を燃料とした火力発電への移行が原因で、化石燃料への依存度が高くなり、二酸化炭素を中心とする温室効果ガスの排出量も、2010年から約6000万トン増加し、13億6400万トンでした(資源エネルギー庁)。

さて、第1話「地球温暖化を考える 〜第1話:「米パリ協定離脱」将来の地球環境は大丈夫か?〜 」でも触れましたが、『今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする』と示したパリ協定の目標を達成し、地球温暖化に歯止めをかけるための『次世代エネルギー』として水素が注目されています。水素は酸素と反応して(広義の燃焼)エネルギー(熱や電力)を放出すると同時に水に変換されるため、地球温暖化ガスを副生することがないクリーンなエネルギーです。では、現時点での水素の産業的な用途とは何でしょうか?

水素をエネルギー源とした燃料電池自動車(トヨタMIRAIやホンダ クラリティーなど)やロケット燃料などには馴染みがありますが、化学工業、金属加工や食品分野などでも広く利用されています。例えば食卓で馴染みのあるマーガリンは、常温で液体の植物油を固化するために、水素を付加する工程(これを還元といいます)を経て製造されていました。

水素は水素ガス(H2)の形では地球上にほとんど存在せず、水(H2O)を始めとする様々な物質を構成する元素として大量に存在しており、生物の体を構成する主要元素です。もちろん、古代の生物に由来する化石燃料中にも大量に含有されています。例えば天然ガスの主成分であるメタン(CH4)には炭素原子1個に対して水素原子が4個も含まれています。したがって、水素ガス(H2)を手に入れるためには、水素を含む化合物からエネルギーを使って取り出す必要があるのです

工業的には、メタンを高温で水蒸気と反応させて水素を取り出していますが(水蒸気改質)、4個の水素分子(H2)の生成に伴って、1個の二酸化炭素が必ず副生します。同様の原理は、「エネファーム」の愛称で有名になった家庭用燃料電池にも採用されており、水素を発生させながら蓄電しています。

水素の製造:メタンの水蒸気改質法

また、石炭を空気遮断条件下1000〜1200 ℃の高温で加熱して(乾留といいます)、製鉄所の溶鉱炉などで使用される良質な炭素燃料である「コークス」を製造する工程や、食塩から水酸化ナトリウムと塩素ガスを製造する電気分解工程(ソーダ電解)では水素ガスが副生します。いずれも、大量に生産される工業製品の製造過程でまとまった量の水素が副生するので、その有効活用にはメリットがあります。なお、コークスの製造工程と類似の水素製造技術として、バイオマスや褐炭(質が低く商品価値があまりない石炭)の「乾留」も研究が進められています。しかし、水素が副生するあるいは水素を製造する工程で、大量に消費される熱や電力を化石燃料に依存している限り、二酸化炭素の放出を避けることができないので、代替えエネルギーとしての寄与は期待できません。

石炭(褐炭)やバイオマスの熱分解工程でも水素ガスが生成します

さて、中学校の理科で学習した水の電気分解はどうでしょうか?

基本原理は、電解質を含む水に電極から電流を通じることで、陰(マイナス)極から水素ガスが、陽(プラス)極から酸素ガスが得られるというものです。地球上の無尽蔵な資源である水から、純度の高い水素を二酸化炭素などの副生なく取り出すことができますが、水素製造法としての「実用化」のためには、さらなる効率改善が不可欠です。

そして何よりも、電気分解に使用する電力が化石燃料をエネルギー源とした火力発電から得られたものでは、地球温暖化ガス対策の意味がありません。この点は、水力・太陽光・風力などの再生可能エネルギーに代替えして、二酸化炭素フリーで水素ガスを製造すれば解決できます。またこの代替えは、自然環境に左右されて出力変動が大きな(供給量が一定しない)再生可能エネルギーを、水素エネルギーとして「貯蔵する」ことにもなるのです。

水の電気分解の概念図

ところで、水(H2O)に強力な熱を与えれば水素と酸素に分解することもできますが、数千℃まで加熱する必要があり、エネルギー効率的には現実味のない方法です。水はそれだけ安定で優れた物質ということになります。ところが、そこに触媒(特定の化学反応を進行しやすくする反応加速剤で、触媒自体は反応の前後では変化しません)を作用させることで、1,000 ℃以下でも水素ガスを取り出すことができるようになってきました(小貫薫ら、表面科学 2015, 36, 80-85)。さらに効率の良い触媒が開発されて、より低い温度で反応できるようになるとともに、太陽光などの再生可能な熱源を使用するようになれば実用化が視野に入ってくると思います。

もう一つ研究が盛んに進められている方法として、「光触媒による水の分解」があります。ソーラーパネルを使って電気エネルギーに変えるのではなく、金属触媒を利用して太陽光エネルギーを直接水素にする方法です。まだ基礎研究の段階で、太陽光エネルギーからのエネルギー変換率が低いため太陽光発電にはかないませんが、飛躍的に反応効率を改善する触媒の開発が期待されています。

化石燃料と水に絞って、現在実施されている、あるいは開発中の「水素を取り出すための方法」をいくつか紹介してきました。地球温暖化ガスの削減を考えると、水を水素源として、再生可能エネルギー、あるいは深夜電力などの余剰エネルギーを使って、それもできる限り少量のエネルギーで水素を製造できるようにする技術開発が極めて重要です。現在、世界中、産官学を問わず多くの研究者が、将来のエネルギー源確保と地球環境の保全を目指して、様々な方法や反応の開発にしのぎを削っています。

欲を言えば、水素自体を輸送することなく、必要とする場所で、水などの安全で安定な水素源から水素を取り出すことができれば申し分ありません。水素は最も軽い(原子量が小さい)元素で、エネルギーを投入してマイナス252.6 ℃まで下げると液体水素になります。しかし、液体水素も密度が低く(水の約14分の1)かさばります。さらに極低温にするために大量の電力が必要になるとともに、容易に気化してしまうため、専用の真空容器(魔法瓶)を使用しても貯蔵中の蒸発ロスは避けられません。では圧縮水素はどうでしょうか?

トヨタMIRAIとホンダ クラリティーはそれぞれ700気圧水素タンクを2本搭載しており、合計で120~140リットルの700気圧圧縮水素を充てんできます。これでガソリン車とほぼ同等の走行可能距離をはじき出しているのです。仮に、水素ステーションで700気圧水素タンクを使って貯蔵した場合には、ガソリンの2倍以上の高圧貯蔵タンクが必要になります。したがって、常温で液体あるいは固体であり、分子内に水素原子をたくさん含有している、水(H2O)をはじめとする無機・有機化合物を水素輸送体(キャリア)として、オンサイトで水素を取り出す技術の開発が近未来の水素社会では重要になります。

水から水素を取り出す、すなわち、水を水素キャリアとして利用するために研究が進められている3種類の方法を紹介しましたが、水以外の様々な物質も水素キャリアとして有望です。例えばアンモニア(NH3)も水素含有比が高い良好な水素キャリアで、電気分解で水素と窒素を取り出すことができます。さらに最近では、アンモニアから水素を簡便に取り出す方法として、岐阜大学 神原信志 教授による常温・無触媒で大気圧プラズマを利用した手法や大分大学 永岡勝俊 准教授による酸化ルテニウムという金属触媒を利用する手法(科学技術振興機構) も注目されています。

次回、「第3話」では、私たちの研究グループが進めている「機械エネルギーを利用して水から水素ガスを製造する新反応」や「有機化合物から水素を効率良く取り出すための方法」と地球温暖化ガス削減に向けた基礎研究について紹介します。




岐阜薬科大学 佐治木弘尚教授
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