堀禎一監督のこと 2017/7/26

『夏の娘たち〜ひめごと〜』より。本作は、東京、名古屋で8/4まで上映。関西でも公開予定。

かつて2000年から04年にかけて、「新ピンク零年」というピンク映画の特集シリーズを上映したことがある。

名古屋の大手興行会社に勤務しているピンク映画好きの青年・森裕介さんから、企画が持ち込まれたのがきっかけだった。ちょうど、瀬々敬久やサトウトシキら「ピンク四天王」と呼ばれた監督たちが世に知られ、その次の世代が頭角を現わしてきた頃だ。そうした若手監督たちの作品を何本か見てみたら、確かに面白い。これは成人映画の専門館に行きずらい映画ファンにも見てもらわねば!と、森さんとともに五回にわたって企画し、上映した。ピンク映画の製作会社として知る人ぞ知る名門「国映」が、毎回手厚く協力してくれ、上映の度に監督や俳優たちを多数送り込んでくれた。最初の頃は、狭いステージいっぱいにゲストが並び、誰が誰なのか分からず焦ったほどだが(笑)、それも今では懐かしい思い出話になった。
 
たしかその五回目のことだったと思う。例によって何人かのゲストがステージに並ぶ中に、一人の新人監督が紛れ込んでいた。その人の監督作品は、プログラムの中には入っていないし、告知もしていない。言わば、押しかけ舞台挨拶…。たまたま大阪を舞台にした2作めの脚本を現地で脚本家と練っていたところ、名古屋で先輩監督たちの舞台挨拶があると聞き、冷やかしに来たのだとか。だが見たところ逆に先輩たちから冷やかされ、舞台に上げられた感があった。照れながらも、新作への決意を滲ませた新人監督は、堀禎一という名だった。

それから早10年以上の時が流れてしまった。あのときの新人監督は、ピンク映画はもとより、『妄想少女オタク系』(07年)などのコミックの映画化や、静岡県の集落を定点観測的に見つめたドキュメンタリー『天竜区』シリーズの連作など、精力的に映画を作り続けていた。なかなか見る機会がないまま過ごしてしまったが、この初夏、突然、新作『夏の娘たち〜ひめごと〜』を上映しないかとの連絡が入った。いや突然でもなんでもない。東京のポレポレ東中野で新作が公開され、それに合わせ監督作品13本の特集上映が企画されていたのだ。配給担当の方が言った。「堀が、シネマテークでやりたいと言ってまして…」と。あのとき、舞台挨拶しか出来なかった監督の映画を、ようやく上映する日が来た!堀監督自身、初日に来てくれることも決まった。これで、ようやく'普通の”舞台挨拶が出来そうだ。ポレポレでの上映も連日盛況と聞こえてきた。今回は、新作含めて3作品の小特集だが、監督と相談して『天竜区』シリーズもいずれ…そう当館スタッフとも話していたのだ。だが…。

すでにご存知の方も多いに違いない。7月18日の早朝、堀監督は、くも膜下出血のために、突然に、本当に突然に、いなくなってしまった。享年47歳。まさに、これからというところでの急逝だった。我々としては、間に合わなかった…という以外に言葉もない。だがしかし、映画は残り、スクリーンに映しだされれば、瞬時に生き生きと過去の時間を再生させる。残された者は、それを見るしかないのだ。新作『夏の娘たち〜ひめごと〜』は、タイトル通り登場人物たちの秘めた思いを、眼差しの交差や、立ち居振る舞いで絶妙に見せる秀作だ。そして、あの時、脚本を練り上げていた初期の代表作『草叢』の上映もある。追悼、ではなく、新しい才能の発見として、ぜひ見ていただきたい。

『夏の娘たち〜ひめごと〜』ポスター。デザインは、やまだないと。
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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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