珈琲店、喫茶店を開業するために本当に必要なこと〜  Part2 2017/8/19

岐阜県恵那市にオープンした珈琲店「ZI:ZO]

前回記事「珈琲店、喫茶店を開業するために本当に必要なこと〜自家焙煎咖啡「ZI:ZO」開店〜

いつもありがとうございます。
珈琲店、喫茶店を開業するのに何が大切で何が必要なのかを、恵那市にオープンした自家焙煎珈琲店「ZI:ZO(じーぞ)」の開店を例に、前回の続きをお話します。

さてプロの珈琲店として開店するのには、まず珈琲を知らなければなりません。そこで、可知御夫妻には当店の「珈琲教室基本編」にお申込みいただき、毎月一回の6回講座に来ていただくことになりました。

当店の講座は、珈琲の歴史、植物学、体系学、焙煎学、抽出学、カッピングなど多岐にわたります。

手網焙煎

初めは珈琲の焙煎から始めます。コーヒー生豆を焙煎すると珈琲のほとんどが理解できます。

たとえば、コロンビアを焙煎するとします。浅煎り、中煎り、深煎りと変化し、豆の味、香り、様相、色などがそのように変わっていくかをしっかり観察し、同じコロンビアでも焙煎によって全く違う香味のコーヒーになる事を理解します。そこで、コーヒーは国や産地によって苦味やコクが変わるのではなく焙煎によって変わるのだということがわかります。

また、コーヒーは人によって、苦味の好きな方、嫌いな方などなど、好みがまったく違う「嗜好品の飲み物」だということが分かります。そうです!万人に好む味は存在しないのです!

珈琲、酒、タバコは、世界の3大嗜好品といわれています。酒も日本酒の好きな方、ビールの好きな方、焼酎が好きな方などいろいろな好みがありますし、シチュエーションによってその時々に好むものが違います。タバコも数えきれないくらいの銘柄がありそれぞれ自分の好みのタバコを選んで吸っています。嗜好品とはそういうものなのですしそれでいいのです。

しかし、賞味期間が切れていて古かったり、不純物の入ったような質の悪いものではいけませんよね。ですから好みはそれぞれでいいのですが、鮮度など質は良いものでなければならないということなのです。物は、それ自体が上質で良いものであれば自分の好みで楽しめばいいのです。しかし、質が悪いものは好み以前の問題なのです。

焙煎をすると他にもいろいろを発見できます。焙煎したてのコーヒーはいかに香りが良くて味が豊かなのかも実感できますし、焙煎濃度によって、味も香りも全く違った香味になる事も実際に飲んで知ることができます。コーヒーの鮮度や賞味期間も焙煎直後から3週間だということも学ぶのです。

珈琲教室

教室に来るほとんどの方が、コーヒーを美味く淹れる事を勉強に来るようですが、古くて悪い豆を使っていくら上手に淹れても良いコーヒーにはなりません。

何度も書いてきたように、良いコーヒー、美味しいコーヒーを淹れるにはまず素材の豆が新鮮で良質なものでなくてはなりません。その後で、浅煎りや深煎りなど自分の好みということになるのです。コーヒーを自分で淹れて「香りも味もなくて不味い!」と感じたら、まず珈琲豆が悪いのではないかと疑ってください。確かに抽出技術によって香味は違いますが、新鮮で良質な豆ならばどんな淹れ方をしても、香りと味はしっかり出ます。勿論、一般的なお話ですべてではありませんので誤解無きように願います。

私の教室は、そういった実践を踏まえてコーヒーの「基本」を徹底的に理解していただきます。「基本」がすべてといってもいいくらいに徹底的に「基本」を繰り返します。「基本」が身につくと、その後、それを応用して自分流のコーヒーを作ることが出来るのです。

コーヒーはカップのエキスになるまでに多くのチェックポイントをクリアーしなければなりません。その項目が何言一つ欠けても良いコーヒーにはなりません。その項目ごとに一つひとつ基本を実践し舌で理解し修得することが大切です。それを6か月の6回講座で、知識と技術と味覚の修練を同時に修得していくのです。6回の講座を受けると、コーヒーの世界が軽く一周できます。

その後、いろいろな専門的な講座(9講座ほどある)に移行いたします。続けられる方、一回でおやめになる方、長く続けられる方(8年も続けてる方もいる)などいろいろな方がいますが、8割の方が次の講座に進みます。

可知さんご夫妻は、基本編、ドリップ技術編の2講座、一年近く通いました。その間に開店に向けた心構え、店の構想、意義などを授業の後に毎回数時間お話しました。

アールデコをテーマにした店創り

そうして、いろいろなコーヒーを淹れられる技術を修得して初めて、どんな店にするのかの具体的な話に着手していくのです。どの場所で、何のためにするのか、何をメインに提供するのか、どんな店にしたいのか、どのくらいの規模の店にするのか、どのくらい資金があるのか、などの話などをして、一つ一つクリアーにしていきます。

その中でも最も重要で最初に決めることは「なんのためにするのか?」なのです。他にすることがないからする、儲かりそうだから、楽そうだから、格好いいから、コーヒーが好きだから、などなど、人によっていろいろな理由があります。しかし、ほとんどの方が自分の楽しみのためなのです。

自分が楽しむためにお客がそちらからわざわざやって来てくれるのですよ!よっぽどそれに見合ったものを用意して提供しなければ失礼ですしそんな都合のいいことは続くわけがないですよね。

自分が楽しむのではないのです。来てくれる方を楽しませるのです。それには、何を提供してどういう店にすればよいのか?なのです。先ずその意識を持つことからの始まりなのです。

ZI:ZOの場合ですと、場所は岐阜県の恵那市の市街地で、場所は13坪で駐車スペースは6台ほど確保、夫婦二人で回していく規模のスペースとメニュー構成での営業。場所的にも規模的にもご夫婦でするにはちょうど申し分のない条件でした。それも自宅に隣接しているということです。なかなかこれ以上の条件はありませんね。

スペースが決まれば、次に「何を提供するか?」です。先ず私が提案したのは、恵那市に今までなかった珈琲屋です。他にあるのなら役割をその店に任せればよいのですから、わざわざ始めなくてもいいのです。

それを踏まえて、まずはターゲットとコンセプトを決めることです。可知さんご夫婦はもうすぐ70歳近くになりますので、ターゲットは同じ高齢者になります。高齢者の方に来店いただける店創りを目指すことにしました。コンセプトは、高齢者が一番興味のある「健康」をテーマにしました。「健康」というテーマからいろいろな発想をして書き出し、実際にできるであろう物を決めていきます。それが決まれば後は詰めていくだけなのです。

まずは内装や外見等は、年配の方が落ち着ける雰囲気のアンティークな店にするために、その道のプロのデザイナーに頼んでデザイン、レイアウトをしていただきました。テーマはアールデコ調です。じつはこのデザインを間違えると何とも大衆食堂のような店になってしまうので、やはりベテランでセンスの良いプロに頼まなければいけないのです。メニューはいくらでも変更することができても、このデザインとレイアウトだけは造った後に造り替えることは容易にできませんし、取り返しがつきませんので要注意です。

内外装のデザインが決まれば後はメニューです。他の店にない、この店に来なければ飲めないメニュー??そこでテーマの「健康」が重要になってくるのです。珈琲店を創りたいとのことでしたので、「健康な珈琲」が即テーマになりました。健康な珈琲とは新鮮で良質な珈琲ということになります。

富士ローヤル1kg焙煎機

そこで可知さんの旦那さんに「自家焙煎」を提案しました。「そんな難しいことが俺にできるのか?」確かに十数年昔だったら何年もかかりましたが、今はとても優秀な焙煎機があり、温度計等が各所についていて、PCにつなげればコンピューターで管理ができて、ある程度同じコーヒーが繰り返し焙煎できます。

確かに、焙煎道を究めようと思ったり、沢山の豆のそれぞれの特徴を知り生かす焙煎となると数十年かかりますが、4種類程度の豆の焙煎をある程度濃度を決めて仕上げるのなら、数か月必死に勉強すれば、とりあえず健康で美味しいコーヒーが焙煎できるようにはなります。他の喫茶店やコンビニやファーストフードで提供しているコーヒーよりもはるかに香りも健康にも良い美味しいコーヒーになります。

提供するコーヒーはこうして自家焙煎の健康コーヒーに決定しました。健康コーヒーのもう一つの目玉として、今後日本でも需要を伸ばすであろう「デカフェ・コーヒー(カフェインレス)」も加えてそれを地域の方々に知っていただくという役割も持たせました。こうなるとすべては「健康」をテーマにするのですから当然「全面禁煙」としました。

そうして、この日からすべては「自家焙煎の技術の習得」に励む日々となりました。週3回恵那から瑞浪まで、毎朝5時30分くらいに焙煎修行に来ました。と同時に、私が勧めてお貸しした自家焙煎の珈琲本など数十冊読み、来るたびに、その中の疑問を一つ一つ解決しながらの焙煎修行でした。

そうして、徐々というより急速に焙煎のイロハを覚えていきました。焙煎機は富士ローヤルの1kgの焙煎機の導入は決めていました。特注で、焙煎の再現性の良いように電子温度計を2か所、PCにつないで焙煎の経緯が分かるコンピューターソフトもつけていただきました。

ZI:ZO店内

5月になりいよいよ施工に入りました。施工は業者さんがやりますので、その間に、いすや机、電燈関係など自分の好みのアンティークな備品をそろえなければいけません。名古屋や岐阜などいろいろなアンティークショップを廻り予算とイメージにあう備品を購入し揃えていきました。この備品選びも情熱をもって一つ一つを選んでいく事が大切なのです。

店を創る時に皆さんがとても悩む事は、「どういった良い店をつくればいいの?」なのです。実は簡単です。

「自分が入りたくなる店」をつくればいいのです。

お客の立場で考えて、「自分だったらこんな店があったらいいなぁ、入りたいなぁ」と思える店です。

この考えで、自分だったらどんなテーブルで、椅子で、カップで、雰囲気で楽しみたいのかを、すべての項目に当てはめていけばよいのです。こうしていろいろなものをテーマに沿って作っていく事によって初めに抱いた理想の店が出来るのです。

開店の2週間前に焙煎器も設置されて、サンプル焙煎も数十回こなし、備品や内装も出来上がりいよいよメニューを製作して開店日ということになりました。メニューはいろいろな商品があった方がいいと考えがちですが、実はそれが大変な間違いなのです。

ZI:ZO場合でしたら、ご夫婦で、載っているメニュー表のオーダーが同時に入っても、お客を待たせない時間で出来る範囲のメニューにしました。それがお客も店主も納得して継続的に続けていくことができる店となるのです。長く何十年も続けていくにはなるべく「無理な事」は排除するのが長い目で見ると良いのです

7月3日、ようやく開店にこぎつけました。

施工始まりから約2か月、このようにいろいろなコンセプトやテーマを持って実現しようやく開店にこぎつけました。予想よりもはるかに良い珈琲店ができて開店したのですが、実は開店してお終いではないのです。

これからいかにお客に満足していただく店を継続的に運営して愛される店にしていくかが大事ですので、開店前より開店後の方がはるかに大変だということを実感しながら、毎日緊張感を持って諸々の仕事を乗り越えていきようやく皆さんに認められ恵那にはなくてはならない店となるのです。

大坊勝次(左)氏にもお寄りいただきました。右は店主 可知宏一郎氏
大坊さんに「美味しいコーヒーですね!」って言って頂きました・・・お世辞が上手(笑)

開店後、約一カ月半が過ぎました。

可知さんにこの一カ月半の感想をお聞きしたところ、「自分が焙煎し淹れたコーヒーを、お客が美味しいと言ってまた次の日も同じコーヒーを飲みに来てくれたことが一番嬉しかった。この仕事の歓びが少しわかったような気がする」と言われました。そうです、珈琲屋はお客の「美味しかった!」の声を聞きたくて日々仕事をしているようなものなのです。

この言葉は魔法の言葉で、どんな栄養ドリンクより元気とやる気と勇気が出るのです。私も過去この言葉を頂き、何度、カウンターの片隅でうれし涙を流したかわかりません。この喜びを知ればもう大丈夫です。これからZI:ZOはお客様に愛される店になっていく事と確信いたしました。

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プロフィール

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日本コーヒー文化学会 理事、日本スペシャルティーコーヒー協会会員(SCAJ)、SCAJ公認 コーヒーマイスター(NO.169)、前・金沢大学講師 (文部科学省公認)

1977年岐阜県瑞浪市に「待夢珈琲店」開店、コーヒーの歴史書や専門書を読みあさり、独学で焙煎を覚え、自家焙煎の珈琲専門店をスタートさせる。

その後、世界のコーヒー産地を自らの足で回り、納得のいく優良な豆を買い付け、良質で新鮮な体に良いコーヒーを提供しています。

また、現在、中日文化センターの珈琲教室をはじめ、基礎クラスから専門クラスまで12講座をこなしています。

産地歴訪はエチオピア3回、イエメン4回、ブラジル、インドネシア、ケニア、タンザニア、ペルーなど。

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