「東海テレビ ドキュメンタリーの世界」 2017/8/25

『死刑弁護人』より。「東海テレビ ドキュメンタリー特集」は、9/2(土)より名古屋シネマテークにて開催

気がつけば8月も終る。2017年もあと4ヶ月。早い…。仕事の常として、今は10月の上映作品を固めつつ、お正月あたりまでをゆるく編成している。お正月映画はすでに決まっているので、多少気が楽ではあるが…え?お正月に何を上映するか?それはまだ内緒笑)。

折り返し点はとっくに過ぎたが、この機会に2017年のこれまでを振り返ってみると、当館としては、と言うよりもミニシアター界としては、やはり『人生フルーツ』の予想を超えた大ヒットがエポックだろう。全国での動員数が現在、約18万人。そこそこの都市の人口なみの数字だ。当館でも、現時点でドキュメンタリー映画としては最高の入りを記録している。

いったい何がこんなにも人を引きつけたのだろう?正直に言うが、最初に見たときは確かにいい作品だと感じたし、ヒットの可能性もあると思った。しかし、ここまでのことになるとは。上映していて感じるのは、とにかく口コミが強いということだ。それも、一度見た人が、友人や家族と一緒にもう一回見たいと、さらに観客を連れてきてくれる。普通のヒット作は短期間でお客の波は引いていくが、『人生フルーツ』は人が人を呼び、いつまでも途絶えない。

ある人は「主人公夫婦のロハス的生活がいい」と言う。またある人は、「ここに理想的な歳のとり方がある」と言う。自然との共生、慎ましいが心豊かな生活、精神的にも肉体的にも健康に歳老いていくこと。そうした要素が、今この時代にとても大事のものとして意識されていることが、ヒットの大きな要因ではあるだろう。

だが同時に本作は、なぜ主人公夫婦が、このような生活に辿り着いたのかという背景も丁寧に描いている。そこには、第二次大戦という庶民にとっての大惨事があり、また戦後の高度成長期の中での夢と挫折がある。日本の戦中・戦後を生きることで骨身にしみた実感から、彼らの「今」は紡ぎ出されているのだ。それゆえに本作は人間と時代、社会と歴史を見つめた表現だけが持つ厚みを有している。それが、見る人の心に深く染み込んでいく駆動力となっていることは確かだ。

さて、そうした人間と時代、社会と歴史への眼差しは、本作を制作した東海テレビのこれまでのドキュメンタリーにも共通する要素だと思う。しかもそれは、他のメディアやドキュメンタリー映画作家が取り上げるのを躊躇うような対象、題材にも積極的に向けられてきた。

ヤクザ組織に密着した『ヤクザと憲法』(すでにこのタイトルが多くを物語る)、戸塚ヨットスクールの現在を撮った『平成ジレンマ』、激しいバッシングを受けた光市母子殺害事件の弁護団を追った『光と影』などがその好例だ。また、表舞台に立つことなく一途に自分の信じた道を行く人々を対象に、やはり人間と時代、社会を切り取ったものもある。『ホームレス理事長』はその典型的な快作(怪作?)だった。

今回、名古屋シネマテークでは、東海テレビ制作のドキュメンタリー全21作品を一挙に上映する。これを見れば『人生フルーツ』が一朝一夕に生まれたものでないことが分かってもらえるだろう。それだけ彼らの作品は面白かったし、おそらくこれからも進化していく。『人生フルーツ』に心うたれた人は、ぜひ他の作品も見てください。

『人生フルーツ』より。本作も「東海テレビ ドキュメンタリー特集」にて連日上映。
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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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