「大坊勝次さんと珈琲の話でも・・報告」 2017/9/22

大坊勝次氏

いつもありがとうございます。

7月31日、待夢珈琲店で旧 大坊珈琲店店主 大坊勝次さんの講演会を催しました。8月1日は名古屋栄中日文化センターの珈琲教室まで来ていただき抽出の講義をしていただきました。とても充実した2日間の時を頂きました。

7月31日、大坊さんの講演を待夢珈琲店で行うのは2年ぶりで,今回で3回目の講演となります。最近珈琲教室に入会された方限定でしたので、今回参加された40名の生徒のほとんどは大坊さんの珈琲を始めて飲む方ばかりでした。

表参道の交差点近くに38年間変わらぬスタイルで営業を続けた「大坊珈琲店」が、ビルの取り壊しにより惜しまれつつ閉店したのが今から3年半前の2013年12月でした。

38年間、豆選びから、手回し焙煎、ブレンドを行い、ネルドリップで一滴一滴点て淹れる珈琲は、まさに「珠玉の珈琲」として多くの方々に感動を与え愛された店として全国に知れ渡った名店でした。

今回、今では飲めなくなってしまった「幻の珈琲」を瑞浪で再現され皆さんにお飲みいただいたのです。

一滴一滴淹れる点滴抽出

会は、夜の7:00から新店舗で、大坊さんの淹れるコーヒーをお飲み頂くことから始まりました。当日は一人前20gの豆を使い100cc抽出する少し濃い目のブレンドをお飲み頂きました。

一回の抽出で4杯分を淹れるのですが、基本、点滴抽出(一滴一滴お湯を注ぐ)ですので淹れるのにとても時間がかかります。豆を挽き、ネルフィルターの水気をタオルで取り除き、お湯の温度を適温に合わせ、一滴一滴淹れていくのです。出来上がるまでしゃべることも、微動だにすることもなく全神経を集中して淹れるのです。

抽出を見学した人は、そのまさに全身全霊をかけた真のプロの気力と体力と技術の過程を、息を殺しながら見ているのです。一杯のコーヒーが出来上がるまでに、作り手と飲み手が互いに緊張感の中でコーヒーに対しての互いの気持ちを一つにする瞬間、相互の思いと理解の間にのみ生まれる感動のコーヒー。まさに珠玉のコーヒーなのです。

スタッフも合わせ48人分のコーヒーを淹れるのですから、12回は抽出しなければいけません。微動だにせず、約1時間連続で抽出し続けるその技術と体力と魂(根性)は決してアマチュアにはできないプロの世界なのかもしれません。その抽出の姿や所作の美しいことといったら、私達プロの珈琲屋でも憧れてしまうほどです。

出来上がったコーヒーは、各人がテーブルに持って行きいただきました。濃いのに、苦いのに、スッキリして甘いコーヒーなのです。口々に「美味しい」という言葉が飛び交っていました。じつは、淹れる過程であれだけの手間と思いを目の当たりに見れば、出来上がったコーヒーはどんな味でも(もちろん素晴らしい味なのですが・・)美味しくなってしまうのです。

コーヒーは嗜好品の飲み物なので、誰もが美味しい珈琲は存在しないと常々私は言っていますよね。当然大坊さんのコーヒーにも言える事なのですが、何故か全員が「美味しい!」というのです。じつは、コーヒーは舌だけで味わうものではないのです。一杯のコーヒーになるまでの思いに触れた時に、その思いが旨味となって加味されるのです。

大坊さんのコーヒーの抽出のお姿を見るだけで、飲まなくてもその時点ですでに「美味しさは」決まってしまうのです。その思いを持って飲むのですから結果は決まっているのです・・・美味しい!

それが名人と謳われ、多くのコーヒーファンに支持されてきた「大坊スタイルの珈琲」なのです。私にやれと言われてもとてもできません。

手廻し珈琲焙煎機

抽出だけではなく、焙煎に於いても大坊スタイルなのです。大坊さんの使っている焙煎機は手廻しの焙煎機で、通称サンプルロースターといわれている小型の焙煎機です。昔の自家焙煎珈琲店を目指した人のほとんどの方がこれを使って焙煎を覚えたものです。その後、機械式焙煎機に移行するという方がほとんどです。

しかし、大坊さんはこの手廻しのサンプル焙煎機を使い続け、一日5時間、38年も回し続けたのです。こんな方は大坊さん以外世界にはいないと私は思っています。要するにギネス記録といってもいいでしょう。手廻し焙煎機を使った事の無い方は分かりませんが、一日1時間回すことも大変な労力の代物なのです。それを毎日5時間、38年・・・、とても考えられません。

この焙煎機を使えば美味しくなるというものではありません。むしろ、技術と経験がいる焙煎機で、普通の人が使うと美味しい珈琲ができ難い焙煎機なのです。自分の手で回し続け、焙煎にすべての思いと時間と技術と労力を使って煎り豆にするのです。

一般的な機械焙煎のように、観ているだけで少しレベルを調整するだけで出来上がりという訳にはいかないのです。その他、焙煎だけではなく、挽き割り、準備、抽出等、一杯のコーヒーにするまでに手間をたっぷりかけるのです。これほどまでに、一杯のコーヒーに時間と思いをかける方は世界のどこを探しても見当たりません。まさに世界一の真の珈琲達人なのです。一杯のコーヒーに真摯に向かうその人間性のすべてが魅力となり、多くの人を感動させるコーヒーとなるのです。

店がなくなり、今では誰でもが飲めなくなったのは誠に残念ですが、私達の生徒達は、瑞浪にいながらにして大坊さんのコーヒーを飲むことができるのです。なんて贅沢で幸せな事なのでしょう!大坊さんに感謝!感謝!

各テーブルで珠玉の珈琲を頂く
恵那市にオープンした自家焙煎珈琲店ZI:ZOの可知ご夫妻もご満悦
大坊氏の珈琲講話

全員お飲み頂いた後は、会場を待夢珈琲店旧店舗に移し、大坊さんに珈琲の話をしていただきました。私がMCを務め、生徒の聴きたいであろうことや大坊さんが伝えたいであろうことを考慮して質問をしました。大坊さんは一つ一つの質問にとても丁寧に答えていただきました。大坊さんは答えを引き出すまでにも独特の間があります。大坊流の間とでも申しましょうか、コーヒーと一緒でとても味があるのです。

質問によってはお受けしてからお答えするまで数分も要することもあり、その後、出てくる言葉がゆっくりと静かで丁寧で心の奥深くまで響いてくるのです。聴いている人の心に同調するのでしょうか、涙を流しながら聴いている方もいました。一般の方々の質問もお受けしましたので時間超過となり終了時間が9:30分を過ぎていました。その後、本にサインをしていただいたりで、随分遅くなりましたが最後まで嫌な顔一つせず丁寧に対応していました。それぞれの人の心の中には今日の大坊さんのお姿、抽出、コーヒーの味、お話が深く心に留められたと思います。

簡単、便利、早い、安い、のファーストフードチェーン店が幅を利かせている現代の日本において、一杯のコーヒーを通じて本当に大切な事は何か? 一石を投じているように思います。本当に素晴らしい真夏の一夜でした。ありがとうございました!

私が一番目に焼き付いたお姿は、微動だにせずドリップをしている大坊さんの後ろ姿です。人は後ろ姿にその人の人間性やロマンが表れると言いますが、まさにそれです。また来年、是非来ていただきたいとお願いをいたしました。

◎【大坊 勝次プロフィール】
1947年 盛岡に生まれる
1975年 表参道に大坊珈琲店開店
2013年12月ビルの建て壊しにより惜しまれながらも閉店
私家版「大坊珈琲店」出版(限定千部)
「大坊珈琲店」単行本出版
2016年アメリカ ドキュメンタリー映画「ア・フィルム・アバウト・コーヒー」に日本人で唯一出演

◎【ア・フィルム・アバウト・コーヒー】とは?
「究極のコーヒー」とは何か?
コーヒーに人生をかけるプロフェッショナル達の熱い仕事ぶりと哲学を追う世界を席巻するコーヒーカルチャーの'今'を描いたドキュメンタリー。ニューヨーク、サンフランシスコ、ポートランド、シアトル、そして東京。コーヒーカルチャーを牽引する5つの都市で活躍する、今、最も重要なコーヒーのプロフェッショナルたちをカメラは追う。 豆の選定、焙煎、ドリップ、エスプレッソ方法など様々なアプローチで、本質を追い求める姿はまるで求道者のようだ。

中に出てくる「ブルーボトルコーヒー」創始者のジェームス・フリーマンは、自らのコーヒーの原体験の熱い思い、そして、日本の純喫茶への強い憧憬を語る。特に、2013年に惜しまれつつも閉店した、東京・表参道の「大坊珈琲店」。オーナーの大坊勝次がコーヒーを淹れる研ぎ澄まされた美しい所作をスクリーンの中で表現している。 今はなき名店が再びスクリーンに立ち現れます。

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プロフィール

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日本コーヒー文化学会 理事、日本スペシャルティーコーヒー協会会員(SCAJ)、SCAJ公認 コーヒーマイスター(NO.169)、前・金沢大学講師 (文部科学省公認)

1977年岐阜県瑞浪市に「待夢珈琲店」開店、コーヒーの歴史書や専門書を読みあさり、独学で焙煎を覚え、自家焙煎の珈琲専門店をスタートさせる。

その後、世界のコーヒー産地を自らの足で回り、納得のいく優良な豆を買い付け、良質で新鮮な体に良いコーヒーを提供しています。

また、現在、中日文化センターの珈琲教室をはじめ、基礎クラスから専門クラスまで12講座をこなしています。

産地歴訪はエチオピア3回、イエメン4回、ブラジル、インドネシア、ケニア、タンザニア、ペルーなど。

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