【地名の由来24】名東区「一社」と「上社」は何故読み方が違う? 2013/1/4

白い矢を祀った矢白神社(貴船神社)

再び話題を名古屋の地名に戻します。

地下鉄東山線の「本山駅」を過ぎてさらに東に向かうと「一社駅」に着きます。そしてその次が「上社駅」です。この「一社駅」と「上社駅」ですが、同じ「社」を使いながら、「一社」は「いっしゃ」、「上社」は「かみやしろ」と読んでいます。隣同士でこのように違う読み方をするのには何か理由があるのか…? 今回はその謎解きをしてみましょう。

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まず「一社」ですが、これは一見、一つの神社があるように思ってしまいますが、真実は全く異なっています。明治11年(1878)、ここにあった「一色(いっしき)村」と「下社(しもやしろ)村」が合併されたとき、双方から「一」と「社」をとって「一社」としたに過ぎないのです。いわば合成地名の代表的なものになるのですが、こういう地名は要注意です。

この地域は中世においては「社(やしろ)郷」と呼ばれていましたが、後に「矢白神社」を中心に「上社(かみやしろ)村」と「下社(しもやしろ)村」ができたといわれています。この「矢白神社」は「やはく神社」ではなく、「やしろ神社」と読むことになっています。そこにはこんな伝承が残されています。

昔、旱魃(かんばつ)のとき武内宿禰(たけのうちのすくね)がこの地を通りかかったという。困っている村人を見て「白鷹の羽で作った白い矢を御祭神として祀れ」と言って白い矢を渡したという。

村人は早速祠を作り、いただいた白い矢を祀った。その矢に一心に祈ると、どこからともなく清水が湧き出て田畑を潤してくれたのだという。人々は大いに喜んでこの祠を「矢白(やしろ)神社」と呼び、村の名も「ヤシロ」と呼ばれるようになり、そこから「上社(かみやしろ)」「下社(しもやしろ)」という地名が誕生したのだという―――。

いったい「矢白(やしろ)」が先か、「社(やしろ)」が先か、問題は微妙ですが、その2つをうまくつないだ絶妙な話であることは事実です。なかなかの想像力であると言っていいでしょう。名古屋人にはこのようなユーモア溢れるイマジネーション力があるように思えます。そういえば、この近くに「極楽」というまたまたユニークな町名があることもご存知の通りです。

この「矢白神社」は今は名を変えて「貴船神社」となっています。京都の貴船神社にならったものですが、貴船神社も水に深くかかわった神社で、そのような趣旨でこの貴船神社としたものと思われます。

ちなみに「貴船神社」は「きふね神社」と読み、「きぶね神社」ではありません。水はやはり「澄んでいる」方がよく、「濁った」水は敬遠されるからです。これもちゃんと理屈が通っていますね。

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プロフィール

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ノンフィクション作家

1945年長野県松本市生まれ。東京教育大学(現筑波大学)、同大学院博士課程修了。筑波大学教授、理事・副学長を務めるも、退職と同時にノンフィクション作家に転身。

柳田国男研究をベースに、学問の狭い枠を超えた自由な発想で地名論を展開。最近出した『名古屋 地名の由来を歩く』(ベスト新書)、『地名に隠された「東京津波」』(講談社+α新書)はそれぞれご当地でベストセラーに。新著『名古屋「駅名」の謎』が好評発売中。

その他、「地名を歩く」シリーズでは「京都」「東京・江戸」「奈良」編、「駅名の謎」シリーズでは「大阪」「京都奈良」「東京」がある。テレビ・ラジオなどでも活躍。博士(教育学)。

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