【第3回】「大島弓子」は何を夢見る?少女の妄想を描ききる! そのインパクトは何だったのか 2018/11/8

こんにちは。少女漫画を愛する還暦男、兼岩孝です。

★「花の24年組」萩尾望都、竹宮恵子、山岸涼子…そして大島弓子


「大島弓子」は、先回・先々回に取り上げた萩尾望都・山岸凉子と並ぶ「花の24年組」と呼ばれる、少女漫画に革新をもたらせた漫画家の一人。このグループには、他にも竹宮恵子・樹村みのり・山田ミネコら、語るべき少女漫画家が林立しています。

(過去記事)
【第1回】この出会いが私の人生を変えたのだ!『ポーの一族/萩尾望都』
【第2回】『アラベスク/山岸凉子』はスポ根漫画であるか?

ただ、彼女らが住んでいたり、集っていた「大泉サロン」に、大島弓子が出入りしていたという記述は(私の知りうる限り)ありませんので、彼女と他の「24年組」の交流は作品を通じてのものだと考えられます。彼女は多くの作家、(漫画家という枠にとらわれない多様なジャンルの作家)に大きな影響を及ぼしています。今回は、大島弓子の幾つかの作品に絞って、語っていきましょう。

※「花の24年組」とは、昭和24年前後の生まれで、(大島弓子は昭和22年生まれ)少女漫画に新しい作風や、従来の枠を超えた自由なテーマで描き出した70年代から活躍した少女漫画家達の総称。同年代でもデビューの早かった一条ゆかりや、池田理代子は含まれない。まあ、マンガ愛好家にとっては、便利な“くくり”なんですが・・・

★「綿の国星」は、マンガ版「吾輩は猫である」か?

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「綿の国星」は、1978年に、「月刊LALA」5月号に掲載され、その後1987年に至るまで、23作品が発表されています。いやあ、この第1作を読んだときの衝撃つたら無かったよね。擬人化された子猫が主人公で、作中では巻き毛の女の子(但し、耳だけは猫耳)として描かれているし、「大きくなったら人間になる」と主張する設定、ともかく、漫画でなくては描けない作品でした。(また、この作品が、最近流行の猫耳キャラの嚆矢であるとも言われています。)

何だ、マンガ版の「吾輩は猫である」じゃないですか?と問われれば、その通りです。ただ、彼女を取り巻く人間や猫が、作中の視点では全く同格であり、「猫の視点を借りて、人間を描写する」ではなく、人間も猫も、その色々な関係性の中で物語を紡いでいく作品です。登場する人も猫も、悩みを持ち続けながら、お互いの関係の中で変わっていく(単に成長する、とは書きたくない!)物語です。

また、「綿の国星」では、その視点が、人間界と猫界を縦横無尽に行き来します。さらには 相互のコミュニケーションの限界が話を動かしていきます。そんな切り口が「吾輩は猫である」から、大きく足を踏み出しているな、と感じられます。更に、改めて再読すると、この主人公の猫の妄想「いつか、私は人間になるんだ」は、多くの少女(と少年たち)の抱える「現実世界と自身の空想」の乖離を描き切っているなあと改めて感じたりしました。

★大島弓子マンガのちょっと変わった登場人物たち

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彼女の描く登場人物(登場猫も)は、どこか変わっています。他人との差異に悩んでいたり、自分の願望に振り回されたり、思春期特有の悩みを(自覚する、しない別としても)抱えた登場人物ばかりです。

デビュー直後は、どちらかといえば王道的な「少女漫画」であったのですが、その後大島弓子が作り出す主人公たちは、その抱える劣等感やら夢やら妄想を、どんどん肥大化させていくことになります。多くの少女(と少年たち)の抱える「現実世界と自身の空想」の乖離を描き続けて行くのですが、この作品「綿の国星」以降、ちょっと一皮向けた(上から目線の言い方ですいません!)ある意味、肩の力の抜けた、悩みが相対化された表現に移ってきたように感じられます。そして、後年のエッセイマンガ「グーグーだって猫である」に描かれている、寂しいけれど「暖かい」、悲しいけれど「ほっとする」作品に引き継がれて行くように感じられます。

★ちょっと寄り道を・・・

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「綿の国星」以降、様々な形で、猫やら様々な動物が擬人化された作品が増えていくように感じられます。擬人化された「ゴキブリ」と食事を共にするシーンに驚かされた「猫十字社」(これが作者のペンネームです。)の「黒のもんもん組」という作品やら、果ては、擬人化された文房具なんて作品もあったような・・・(すいません、勿論、こちらは筒井康隆の「虚構船団」でした。マンガじゃ無かった・・・けれど、作者は本当にマンガで描きたかったのでは、というのは私の妄想です。)

そして、もう一つ、この「主観を絵にする」という手法で生まれた作品を紹介させて下さい。高野文子の「田辺のつる」という作品です。大友克洋的な作画(緻密に書き込まれた立体感あふれる登場人物達です。)の中に、ただ一人、登場する主人公の少女(勿論、田辺の「つる」さんです。)は、かつての「きいちのぬりえ」的な2次元的な表現をされています。

ネタばれですが、少女時代に意識が戻ってしまった老婆と、他の人との関係性を描いている作品です。最後の数ページは、本当に切なくて、でも、まったりするんです。この作品が収録された高野文子最初の作品集「絶対安全剃刀」は、1982年出版にも関わらす、いまでも新本として書店で見かけることがあります。即買いをお勧めします。

★大島弓子の与えたインパクトについて −吉本ばなな「キッチン」を考える−

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ともかく、70年代・80年代では大島弓子は、決して目を話せない作家でした。彼女の影響は、単にマンガ界に留まらず、多くのジャンルで影響を与えていきます。

一例を挙げてみましょう。1987年に、「吉本ばなな」が発表した「キッチン」という作品です。「吉本ばなな」は、この作品で『海燕新人文学賞』を受賞、その後は独特の作風を有する小説家として一世を風靡していきます。彼女の父親が思想家・批評家・詩人である「吉本隆明」であったのも話題も呼びました。(彼は、その後80年代にテレビやアニメ・マンガを含むサブカルチャーを論じていきますが、この背景には娘「吉本ばなな」の影響があったように私は感じています。)

「吉本ばなな」というすっ飛んだペンネームからも、その後「ばなな現象」として語られる一大ブームを引き起こしますが、彼女の商業誌デビュー作で、海燕文学新人賞受賞作品の「キッチン」には大島弓子の諸作品の影響を論じる声が多かったです。とくに大島弓子の「7月7日に」という作品の類似性には非常に大きなものを感じました。

孤児である主人公が、女装の男性が切り盛りする(擬似?)家庭に引き取られ(『拾われる』と表現される)、新たな人間関係を構築していくストーリー等は、大島作品と同一な枠組みの中で進められていると感じられました。一部の論者からは、「引き写し」であるとか「盗作・剽窃」といった非難が投げかけられています。但し、それは「文壇?」という主流の流れの中では全く検証されることなく(と私には思われます。)、この関係性の深く問われる事は、ありませんでした。当時、私は文学界の多くの論者のアンテナには「少女漫画」が、引っかかってはいない現状に、憤っておりました。

当の吉本ばなな氏は、「私の精神の血と肉をつくってくれた人々」として大島弓子について語っており、彼女の影響を認めています。

私としては、あらためて「キッチン」を読み返すと、単にジャンルの違いを超えた咀嚼と、新しい創作活動の結果と読み取りました。ただ、こういったジャンルを超えた、いわゆる「本歌取り」とか「オマージュ」であるとか、あるいは「パロディ」等に関しては、もっと、しっかりと語られ、評価されるべきだと考えています。

★本歌取り・剽窃・オマージュ・インスパイアー・リスペクトあるいはパロディ

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また、彼女の作品に「F式蘭丸」なる傑作があります。このF式とはフロイト式を意味しており、主人公の空想の登場人物が、現実世界に登場してしまうという作品です。これに対して「いしかわ じゅん」なるギャグマンガ家の作品に「私案FF式蘭丸」という漫画があります。この場合の「FF式」とは、石油やガスストーブで外気を導入して燃焼し、室内の空気を汚染させないヒーターの形式の事ですが、内容はともあれ、この題名に大島弓子さんへの賛辞(あるいは、パロディ・“おちょくり”かもしれません)を読み取ってしまいます。この作品の主人公「蘭丸」は、その後「蘭丸ロック」なる作品で、主人公を張ることになります。

少女漫画という範疇からはずれてしまいますが「いしかわ じゅん」は、私のとっても大好きなマンガ作家であり、主に(99%)ギャグ漫画を描く一方、「プロのマンガ読み」を自称する批評家でもあります。漫画家としてはマイナーな存在であると勝手に、認識しておりましたが、最近(2015年2月から)は、毎日新聞朝刊の4コマ漫画「桜田です!」を連載していました。もう大メジャーではないですか、勿論、中日新聞しか読まない(!)私には知る由もないお話ですが・・・

★「漫画的」は差別用語だったよね!

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吉本ばななの「キッチン」を評するときに、「漫画的な記述」とか「漫画的な省略」という言葉を聞いたことがあります。かつて「漫画的」という言葉は、本当に差別用語でした。子供だましの、とか、一段と低い格付けをするための差別用語でした。ましては「少女漫画」は、その中でも一段と低い扱いをされてきました。

しかし、この「漫画的」なる評価は、大島弓子の愛読者、あるいは「24年組」の追随者にとっては極めて適切かつポジティブな評価なんですが、これを正確に説明しようとすると、大変難しいのです。吉本ばななの文体は「漫画的」ですし、文章の間合い等は、正にマンガのコマ割を感じさせます。ただ、それを言葉で伝えるのは本当に困難です。これと同様な障壁は、多くのマンガ作品の絵を語る上で感じるものと同等なものかも知れません。

例えば、大島弓子さんの絵柄を語る場合に、何故「儚げ」であり、少女独特の悩みを描ききっているのか、均一な細い線で描かれる儚げな人物や、線を重ねて表現される瞳の奥の透明感等を言葉で語るのは、大変に難しいものです。最終的には「一度、読んでもらえば判るから!」等と投げ出しでしまいそうです。

少なくとも、大島弓子はじめ、「花の24年組」らの革新者は、ストーリーやキャラクター設定のみならず、絵的にも多くの革新と個性を表現してきました。

★大島弓子を語る上での3つの着目点

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ここでは、彼女の作品について語っておかなければならない事を述べておきます。

着目したいのは、先ずその題名です。「綿の国星」だって、題名から内容は想像できかねます。綿は、子猫の綿毛だろうなとは思いつつも、「綿の国」なの、星って何、ひょっとして「綿の・国星」なの・・・題名から内容を推測できない作家なのです。大島弓子は!

次に、気をつけて欲しいのは、そのセリフの難解さ(魅力?)です。「世間に後ろめたさを感じている男色家」が理想の男性像であるという主人公の「バナナブレッドのプディング」なる作品の始まりから数ページ、主人公の理解しがたい自己紹介や先生・友人との会話に拘ると、後が読めません。ここは、ぐっと我慢して無心に読んでおけば、後になって漠然とした解釈が訪れてきます。真面目に読み取ろうとすればするほど、大島弓子の面白さはするりと手の指の間から逃げていきます。先ずは、ありのままに・・・(ここにも、ばななが出てきました!)

もう一つ述べておきたいのは、彼女が無類の猫好きである点。「綿の国星」だけではなく、彼女自身の飼い猫「サバ」とか「グーグー」とかのリアルな猫に関して、本当にファンタジーなコミックを描いています。ここから、大島弓子を読み込んでいくのも面白いかも?

幸い、彼女の著作は電子書籍として網羅されている模様です。彼女の作品に、是非触れてみて下さい。

★余談ですが・・・

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最近話題の「カメラを止めるな」見てきました。大変面白かったですよ。何やら舞台との相似が問題となっているような・・・今回、話題に取り上げた議論にも通底するような気がします。ジャンルを超えた作品の相似は難しいですね。本家とパロディの関係とかを含め、きちんとした議論がなされるべきでしょう。

ところで、次回は全く私の趣味で、「千明初美」について語ってしまう予定です。
あくまで“予定”ですが・・・

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少女漫画愛好家・土木技術者

1955年、名古屋生まれ。東京で2浪中に出会った少女漫画に溺れる。大学入学後、SF研兼漫研(略称SM研)を始める。卒業後、某地方自治体で土木技師として勤務。橋を作ったり、自転車施策に取り組んだり、結構真面目に働いてきたつもり。

退職後は、少女漫画偏愛主義者を自称し、「大ナゴヤ大学」なるところで少女漫画偏愛主義講座などを開催。

得意技は、色んな試験(入学試験とか昇任試験とか…)に落ちる事。後、本やら物やら収集癖がある割には、壊したり、無くしたり、人にあげたり売っぱらったりと、コンプリートに至ったためしがない。

座右の銘は、(今、思い立ちましたが)「コンプリートは目指さない!」かな?現在は、昭和土木株式会社にて、真面目に仕事をしております。

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