この先の中国経済はどうなるのだろうか?(1)―GDP減速の本当の理由― 2018/11/9

3か月ごとに公表されるGDPの伸び率は、第3四半期、前期比1.6%、前年同期比6.5%となりました。前年同期比は第1四半期6.8%、第2四半期6.7%、前期比が第1四半期1.5%、第2四半期1.7%でした。このように、前年同期比が期を追うごとに、0.1%ポイントずつ低下しています(表参照)。

毎月公表されるPMI(購買担当者指数:各業種の統計的に有意な条件の下で選んだ購買担当者(一般に原材料や部品の調達を担う人を指すが、企業によって職位や名称は様々)に対して、製造状況・受注状況・販売状況、雇用状況などについてアンケートし、それを数値化したもの。50が中心。50の場合、業況は不変、50未満の場合は悪化、50より大の場合は改善)、10月製造業は50.2で50をかろうじて上回ってはいますが、低下傾向が続いています。

前年同期比のGDPの第2・第3四半期は、2013年以来ほぼ低下傾向が明瞭といってよく、今は減速傾向に入ったとみてまちがいなさそうです。

ただ、留意していただきたいことが一つあります。最近上梓した拙著でも指摘したことなのですが、伸び率が低下するということと、GDPが減ることとは同じことではありません。数字の率というものは魔物の一種です。

私は最近太り出してしまい、大台の一歩手前、行きつけのお医者さんは今週の月曜日の夕刻に行った時、「1年前の今頃は、意識的に摂生していた効果もあり、今より4キロも少なかったのですけどね・・・・」と、パソコン記録されたデータを見ながらおっしゃるのです。

4キログラムですが、昨年の今頃は体重の6.1%だったのですが、今は5.8%でしかないのです。率だけ見ますと、0.3%ポイント低下していますので、まことに喜ばしいことなのですが、体重はこんなに増えています。本当はちっとも喜ばしくはないことなのです。

率だけ見ると、中国のGDPは低下していますが、実際の金額はというと、2018年第3四半期のGDPは実質214,339憶元、去年の同じ時期を12,990憶元上回っているのです。この額を同じ時期の率が0.3%ポイント高かった2017年の第3四半期201,349憶元と2016年の188,441憶元の差12,908憶元と比べると、81憶元も多いことがお判りでしょう。率は下がっても、絶対額は大きく増えたのです。

これはさておき、今期のGDPが低下した理由について、多くの人たちは、米中貿易紛争の負の影響だと、合唱団のメンバーの口のように、そろえて言ってますよね。それ、本当でしょうか?

立派な観念論で、当てずっぽうの予想論ですね、これは。少しは、当たっている可能性はありますが、まだなにも理論的・実証的根拠を示した主張もにお目にかかったことはありません。たぶん、そうかもね、という日常会話の常套句のレベルとって良いでしょう。
 
では、GDPが減速した理由を言ってみろ、と来そうですからいいます。今度はグラフ(データ出所は国家統計局)を見てください。

このグラフは、中国のGDPの先行指標とされているPMI、新規機械受注、輸入とGDPの動きを示すものです。まず見方を説明します。

曲線の色ごとに区別してありますが、赤はGDP(数字はグラフの右軸)、黒はPMI、黒の点線は新規機械受注、緑は輸入を示す。これらを2016年第1四半期(2016年3月)から、2018年第3四半期までグラフ化しています。PMI、新規機械受注、輸入、この三つの線は同じ動き方をしています。

また、グラフにあるPMIとGDPの線脇に付けた模様は黒と赤に分かれ、黒はPMIの底と山、赤はGDPの山と底、赤と黒の▲はPⅯIの底とGDPの底を意味します。同じ模様は、PMIとGDPが対応関係にあることを意味します。●には●が、■には■がそれぞれ対応関係にあり、黒と赤それぞれに同じ模様はありません。

同じ模様は対応関係、言い換えますと、ある模様の黒の後に、黒と同じ模様の赤が来るのです。黒はGDPの先行指標のPMIですので当然です。そして、同じ模様同士の間隔は大体9か月です。このグラフによると、GDPは9か月遅れて、先行指標の代表格であるPMIと同じ動き方をすることがお分かりでしょう。火を見るよりも明らか、というのはこういうことを指していうのではないでしょうか。

ここでやっと、2018年の第3四半期に、GDPが減速した理由についてお話しする段階に至りました。それはPMI、2018年第1四半期の底が、今この第3四半期に現れた結果とみることができます。ところが、この時間的な間隔は約半年にすぎません。従来は9か月間隔でしたから、やや早い気がしませんか?

それもそうですが、その早まった原因としては、米中貿易紛争の負の影響が現れたとも考えることができましょう。でも、これが米中貿易紛争の影響だと、実証したことにはなりませんけど。

わたしの結論!

<今見られる中国経済の減速は循環的なものであり、米中貿易紛争の影響があるにしても二次的な理由でしかない。>

次の循環はグラフの上に縦に引いた線の右側、黒と赤の点線に沿った予測領域に書いたものとなるはずです。

しかしです。もし本当に米中貿易紛争の悪い影響が現れた場合、GDPは青の点線のような動き、つまりはしばらく低下をするかもしれません。

もし、そうなったときは、実証作業に取り組み、この場でお伝えしたいと思います。

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プロフィール

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愛知大学教授

専門分野/中国経済、とくに農村経済問題、中国食品安全問題など。

愛知大学大学院中国研究科長、現代中国学部教授。

長年、中国各地の農村経済問題を中心とするフィールドワークに従事、毎年、合計すると2か月間は中国へ渡航。そのたびに増える名刺は省別にファイルしています。

中国へ行った際、必ず訪ねるところはスーパーの食品売り場です。その土地の経済やくらし、食文化などの断片を教えてくれる宝庫ですから。

豊富な資料と足を駆使して、変貌しつつある現代中国経済を正面から取り上げてまいります。

著書/『国際社会調査―中国・旅の調査学』『中国経済の構造転換と農業』『農民も土も水も悲惨な中国農業』『新型世界食料危機の時代』『中国社会の基層変化と日中関係の変容(共著)』『日中食品汚染』『デジタル食品の恐怖』『新次元の日中関係(編著)』『チャイナ・トリックス』など。

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