「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に行ってきましたB 2018/1/13

1988年に名古屋シネマテークで4夜に渡って行われた小川監督のトークをおさめた書籍。蓮實重彥氏の追悼講演も収録。発行=名古屋シネマテーク

 2回に渡り山形国際ドキュメンタリー映画祭の話をしてきたが、

「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に行ってきました。
「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に行ってきましたA

この映画祭のことを書くならば、どうしても触れねばならない人がいる。日本のドキュメンタリー映画史に聳え立つ巨人・小川紳介監督のことだ。

 60〜70年代には三里塚で成田空港建設反対闘争のドキュメンタリー映画を連作した小川監督は、次第に闘争から現地の農民の生活や歴史に興味を移し、それを極めようと1974年に山形県上山市にスタッフとともに移住した。そこで農業に従事しつつ、『ニッポン国古屋敷村』(82年)、『1000年刻みの日時計ー牧野村物語』(86年)という土地・風土・歴史に根ざした雄大なスケールの2作を発表し、ベルリン映画祭など海外でも大きな注目を集める。とりわけ後者では、田村高廣らプロの役者陣が出演するドラマ部分を入れ込み、ドキュメンタリーとドラマを自由闊達に往来する独創的な作風で見る者を驚かせた。

 山形への移住当時は“三里塚から赤い鳥(反体制の奴ら)がやってきた”と白い目で見られた小川たちだが、根気良く人間関係を構築し、また彼らの映画が国内外で高く評価されたこともあって、次第にその地で信頼を得ていった。そんな頃、山形市は1989年に市制百周年を迎えるに当たり、何らかの目玉となる事業を模索していた。そこで、「国際ドキュメンタリー映画祭」を開催すべく奔走したのが、小川だったのだ。

 つまり小川紳介と彼のスタッフ集団・小川プロが拠点を山形に移住していなかったら、この映画祭はなかったと言っていい。代わりに別の地で開催されたかもしれないが、今に至るまで続いたかは分からない。小川は、1992年に55歳で世を去ったが、彼が蒔いた種は、今も「ヤマガタ」に息づいている。日々発行される映画祭新聞「デイリー・ニュース」をボランティアが制作することにこだわったのも小川だ。参加監督へのインタビューを中心に構成される「デイリー」に、専門家ではなく一般市民や映画ファンを起用することは、彼らに責任と同時に「映画に自ら近づいて、何かを発見することの楽しさ」を植え付けたと思う。結果、初期のボランティア・スタッフがその後の映画祭運営の強力なスタッフとなっていったし、ボランティアによる「デイリー」の編集・発行は今も続く。

 そして、もうひとつ。生前から小川の作品はアジアのドキュメンタリー映画の作り手に大きな刺激を与えていた。小川自身、アジアの映画作家たちに注目し、「ヤマガタ」がそうした作り手の交流の場になるよう力を尽くしていた。それが「アジア千波万波」という企画として継続されていることは言うまでもない。そして、その部門のグランプリは「小川紳介賞」と命名されている。

 さて、小川が世を去って、もう26年が過ぎた。気がつけば自分も、小川の生きた年齢を超えてしまった。あの行動力と破天荒な創造力の100分の1も持ち得ていない我が身を嘆かわしく思いつつ、時々、彼が生きていたらと想像することがある。映画大学ドキュメンタリー学科の教授におさまっていたりして。小川本人は、かつて当館でのトークで「小川研究室?笑っちゃうね。高崎経済大学や三里塚の闘争の現場にいて、それを撮ったことで今の僕たちがいるんだからさ、国の作る文化に加担なんてしたら、最低だよ」と語っていたが、さてどうだろう。いや、そんなつまらない想像よりも、やはり彼の新しい映画が見たかった。『1000年刻みの日時計』の世界をさらに推し進めた、リアリティ満点のホラ話のような、それでいて反骨に貫かれたドキュメンタリーが。それを「ヤマガタ」で見られたら、最高だ。

小川作品は長年DVD化されていなかったが、2016年全20作品がDVDで発売された。写真は『1000年刻みの日時計』のパッケージ(発売元=ディメンション)。ぜひ見てほしい。
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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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