動画コーナー
遠州灘の海鳴・波小僧
2016/1/1
砂浜に出ると、三つの波音が、競うように園児たちに話し掛けていた。
寄せる波は荒々しく声高。引く波は優しくささやくよう。遠くから低く響く海鳴りは、ネコが喉を鳴らす音に似ている。「ねえ遊ぼうよ、遊んでよ」。人懐っこい笑顔を浮かべて子どもたちを誘う「波小僧」の姿が、ふと見えた気がした。
遠州灘の海鳴りは、小さな妖かしの波小僧が奏でる。はるか昔、漁師の網にかかった波小僧が、逃がしてほしいと懇願した。「雨と嵐をお知らせしますから」。海に戻すと、ほかの海にはない独特の海鳴りが聞こえるようになった。「東南から聞こえる時は雨」「極端に東なら台風」。天気の変わり目を早めに知らせ、漁師を助けてきたという。
浜の近くにある、あすなろ幼稚園の園児たちは、海と大の仲良し。「今日の海はご機嫌だね」「波が怒ってるみたい」。波小僧の声を全身で受け止める。この子たちには、海鳴りや波音が古里の音。大人になろうと、心の奥から消えることはない。