<クルマ革命>第1部・自動運転の衝撃(1) 概念変えるITの巨人 

2017/2/17 朝刊

街中を走り回るグーグルの自動運転車。小さな車体に世界の注目が集まる=1月12日、米シリコンバレーで(岸本拓也撮影)

 米サンフランシスコ南部シリコンバレー。IT企業が集積する街で一月、パソコンのマウスのような形をした一台のクルマを追った。米IT企業大手グーグルが公道でテストする自動運転の試作車だ。

 人工知能(AI)がセンサーや地図の情報を基に、自ら状況を判断する完全な自動運転車。運転席の男性はハンドルを握らず、アイスコーヒーを飲んでいた。だが「曲がる」「止まる」は無論、車線変更も実に滑らか。道路の右脇を走る自転車を追い越す時は、すーっと左に寄って安全な距離を取った。

 「近所で最新技術に挑戦しているのはすごい。早く乗りたい」。地元の金融業マイケル・ファボツィ(50)は完成を待ち望む。

 株式時価が総額六十五兆円と、トヨタ自動車の三倍に上るグーグル。「ITの巨人」が自動運転の開発を始めたのは八年前だ。AIや情報処理の進化で開発は加速し、現在、米国内四カ所で約六十台が公道テストを繰り返す。走破距離は実に地球百周分に当たる四百万キロ。試乗した日系自動車メーカー幹部は「技術の完成度は高い」と舌を巻く。

 トヨタなど既存メーカーはこれまで環境や安全、燃費競争にしのぎを削る「いい車づくり」で、二百兆円規模の市場を築き上げてきた。だが、グーグル自動運転車部門を率いるジョン・クラフチック(55)は言い切る。「われわれはいいクルマではなく、『いいドライバー』を構築したい」

 車づくりの概念を変えるのは、自動運転にとどまらない。車体の不具合の予知など、ネットで車両から得られる膨大な走行情報を活用したサービスも、その一つ。「自動車が巨大なスマートフォンになる世界を創り出す」。昨年四月に新会社を設立したトヨタと米マイクロソフトは、そんなメッセージを発信した。

 車は約百三十年前に誕生し、画期的な移動手段として人々の生活スタイルや街づくりを変貌させた。自動運転の技術は再び社会の姿を変える可能性がある。

 その変革の主導権を握ろうと、IT企業に加え、電機大手も攻め入る。さらなる開発競争に向け、生き残りをかけた既存の自動車メーカーの連携・再編も急速に進む。激変する業界の風景を映し出したのは、一月に米国で開かれた世界最大の家電見本市だった。

 (敬称略)

◆自動運転の衝撃

 昨年より二割増となった展示スペースには、自動運転機能などを搭載した最先端の実車がずらりと並ぶ。カナダの携帯電話メーカー「ブラックベリー」や、中国のネット検索大手「百度(バイドゥ)」は、自動運転に活用可能な自社技術の宣伝に躍起だった。

 米ラスベガスで一月に開かれた世界最大の家電見本市「CES」。自動運転や人工知能(AI)、それらの開発に不可欠なセンサーや画像認識など、クルマに関連する出展企業は過去最多の百三十八社に上った。「今や、自動車ショーですね」。今年初めて参加した日産自動車の社長、カルロス・ゴーン(62)は基調講演で会場の笑いを誘った。

 かつてテレビやスマホだったCESの主役は今、クルマに変わった。十年ぶりに参加したホンダは、ソフトバンクグループと共同開発した自動運転の試作車を発表。「幅広い技術に一社で対応するのは不可能。あらゆる企業と戦略的な連携を図る」。商談の輪が広がる会場の一角で、本田技術研究所社長の松本宜之(よしゆき)(59)は話した。巨額の開発費を削減できる利点もある。

 自動運転、ITでつながるクルマ、ライドシェア(相乗り)…。自動車業界はIT企業参入でクルマづくりの環境が一変した。生き残りのため各メーカーは「自前主義」を捨て、異業種連携を加速する。トヨタ自動車は米マイクロソフトや米ウーバー、日産は米航空宇宙局(NASA)と提携。ホンダも自動運転開発で米グーグル傘下の「ウェイモ」と提携協議を始めた。

 だが、ウェイモとの交渉を担う松本は「相当なスピードが求められる。今までの自動車産業とは別次元」と、開発にかける時間軸の違いを痛感する。

 これまでの自動車業界は技術をこつこつ積み重ね、改良を加えていく「擦り合わせ型」。トヨタは水素と酸素から起こす電気で走り、水しか排出しない画期的な燃料電池車「ミライ」の開発に二十二年かけた。だがIT業界は、例えば一年半の間に同じコストで情報処理能力が二倍に進化する世界。自動運転の開発でも運転支援のレベルから段階的に進もうとする自動車メーカーに対し、IT勢は一足飛びに完全な自動運転を目指すイメージだ。

 AI開発を進めるトヨタの坂井克弘(43)も、スピード感の違いに戸惑った一人だ。昨年六月から自動車産業発祥の地・米ミシガン州の「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」でIT転職組と机を並べる。会議時間はトヨタ時代の三分の一。会議資料もパソコン上で仲間と意見交換しながら作る。「とにかく時間を効率的に使う。フットワークも軽い」

 完全な自動運転による究極の「ぶつからないクルマ」が実現すれば、車体の強度や安全装置をはじめ自動車メーカーが培ってきた技術の蓄積は、不要になりかねない。グーグルが実用化のめどとする二〇二〇年まで三年を切った。日産のゴーンは今後十年の自動車産業を、こう予測する。「過去半世紀で起きた以上に変化する」

 (敬称略)

リンク:動画「グーグル自動運転車−米シリコンバレー」https://youtu.be/MhnH3LeA7Sw

PR情報
  • 会員登録
  • ログイン
今日の天気(05:00発表)
名古屋
晴れ時々曇り
12 ℃/--
東京
晴れ後曇り
13 ℃/--
大阪
晴れ後曇り
11 ℃/--
  • 現在、渋滞情報はありません。
  • 登録路線が未設定です。
  • 公式 Twitter はこちら
  • 公式 Facebook はこちら
東京新聞 電子版
中日販売サポート
東海テレビ 庄野アナと 新聞を音読してみよう!
平和の俳句 作品募集中
中日防災ナビ
こどもウイークリーのこーなー
過去の企画・特集