特集・連載 考える広場

大学入試の未来形 

2017/2/18 紙面から

藤本淳史さん

 国公立大の二次試験がもうすぐ行われるなど、入試シーズン真っただ中。その大学入試の方法が二〇二〇年度から大きく変わる。時代の変化に伴って社会が求める人材も変わりつつあり、入試にも影響を及ぼす。今の時代、人の何を、どのように選ぶべきなのか。

◆考える過程を大切に 漫才コンビ「田畑藤本」東大卒芸人・藤本淳史さん

 東京大在学中に「内気で小さな自分を変えてみたい」と思い、芸人になることを決心しました。仕事を始めて、受験勉強で得た知識より、自由に考える力や機転が大切だと痛感します。この能力は、今回の入試改革から問うことになる「思考力、判断力、表現力」と重なります。

 一年目でクイズ番組に出演しました。正解が分からない時、前の問題と同じ解答をして笑いを取りました。でも、スタッフの方に「君にはボケではなく、賢い解答をしてほしいんだよね」と言われました。どう行動するのが正しいか考える「判断力」。入試で要求されていれば、持てていたかもしれません。

 明石家さんまさんが番組で、コンビ名をわざと逆にして「藤本田畑」と紹介してくださったことがあります。「どっちでもええやん」と言われ「そんなことないですよ」と答えます。それが正しいと思っていました。でも数カ月後に、はっと気がつきました。正解は「はい、名前はいいので僕の学歴だけでも覚えて帰ってください」だったのです。これは、僕らが漫才の最初にいつも言うセリフで、さんまさんはネタまで知った上で話を振ってくれていました。「思考力」が足りなかったです。

 センター試験改革に賛成です。現役時代、東大に挑戦できる力をつけても、この試験は不安でした。マークシートには部分点がありません。論理を積み上げて選択肢を絞っても、最後に間違えたら零点。これでは実力があるのに失敗する人が出てしまいます。もっと柔軟な試験にしてほしいですね。記述式にして、最終的な解答がずれていても、過程を評価するとか。問題の中で、一問だけ選んでじっくり解答させ、個性を見るというのも面白いです。

 ただ、知識問題が全くないのは良くないです。「思考力」の土台には、暗記科目の知識が必要なはずですから。詰め込みながらも「なぜ」を考えさせる教育が理想です。センター試験の直前、暗記科目の代表とも言える世界史を一カ月で五十点から八十三点にまで上げました。でも番組で最近の試験を十数年ぶりに受けるとまた五十点に。考えながら学ばないと、記憶は持続しないような気がします。

 「センター試験」の名前が消えるそうです。懐かしい思い出の名が受け継がれなくなる。それは少し寂しいですね。

 (聞き手・中川紘希)

 <ふじもと・あつし> 1984年、京都府生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。東京大工学部を卒業。2008年に漫才コンビ「田畑藤本」を結成。「NHK高校講座」に出演中。

◆各校の特色 反映して 全寮制国際高校代表理事・小林りんさん

 大学入試のあり方によって、初等中等教育は大きく影響を受けます。そういう意味で、数ある教育改革の中でも、大学入試改革は要だと思っています。生徒が大人になったときに必要な資質をより反映できる入試になってほしいですね。

 まずセンター試験に代わる新試験については、基礎学力を測る意味で必要だと思います。ですが今のような一発勝負では、実力が出せない人もいる。複数回化することに賛成です。

 さらに重要なのは各大学の個別試験です。東京大のほか、多くの大学が推薦やAO型の入試枠を広げていますが、必然の変化でしょうね。ものすごい速さで社会が変わる時代に対応できる人材を育てるには、既往路線を踏襲するのではなく自ら考え判断する力が必要です。

 ただAO入試の場合は、従来型のマークシート方式などよりも多くの労力と、それに伴う人件費など金銭的負担が、大学にかかります。導入するならば、選抜する側のキャパシティービルディング(能力強化)も必須だと思います。

 私が代表理事を務める「インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢」の入学選抜は、一次が学業成績などの書類と小論文、二次は面接です。より重視しているのは小論文ですね。生徒の考え方を知ることで、問いを立てる力、多様性を活(い)かす力、困難に挑む力の三つの資質を見ています。私たちの学校のように受験生が数百人規模ならば、生徒の資質をじっくり見極める入試が可能です。ではそれが数千人、一万人規模でもできるのかなど、いろいろ課題はありますね。

 入試は、大学は何をするところなのかという問題と直結しています。私は、リベラルアーツ(教養)と同時に、エンプロイヤビリティー(雇用される能力)を身につける必要があると考えています。でも、これは唯一の解というわけではありません。学校ごとに違うでしょう。だからどんな教育をしたいか、どんな人材を集めたいかをもっとはっきり打ち出してもらいたいと感じます。それに適した試験の形が、おのずと決まってくるはずです。必ずしもAO型でなくてもいい。たとえばぶっとぶほどプログラミングが得意な人を選ぶなど、大学の特色を出す。そのほうが生徒も、将来を見据えて進路を選べるのではないでしょうか。

 (聞き手・中村陽子)

 <こばやし・りん> 1974年、東京都生まれ。スタンフォード大大学院修士課程修了。モルガン・スタンレー、国際協力銀行、国際児童基金(ユニセフ)などで勤務後、学校設立発起人に。2014年に開校。

◆分野別に能力評価を 東京大教授・本田由紀さん

 思考力など多様な能力を丁寧に評価しようと提言している文部科学省の入試改革案は、実現が難しいと思います。

 まず、試験を実施する大学教員の負担が大きい。小中学校の教員と同じく、大学教員も忙しくなっています。さらなる負荷をかけて、どう「多様で丁寧な」選抜ができるのか。

 加えて、学力以外の選抜基準が採用されれば批判が大きくなるでしょう。日本では「学力試験での競争が最も公平だ」という考えが根付いています。そんな中、「コミュニケーション能力」のような振る舞いの派手さや、裕福な家庭だけでできる経験が面接で評価されるようになると不公平感が生まれます。

 では、現状を変えるにはどうするか。センター試験のように基礎学力を問う試験は必要です。設問は従来通り選択式。採点者を確保できないまま記述式を導入しても、無理に見合った効果が得られると思いません。ただし、一点刻みの競争を緩和するため、ABCDぐらいのおおざっぱな判定にする。

 その上で、各大学各学部が専門分野に即した記述式の入試を実施する。内容は学習指導要領の範囲内ですが、その分野に必要な基礎知識や関心、適性を問う。自分の専門ですから、教員の負担もそんなに大きくはない。受験生が多い私立大では難しいかもしれませんが。

 この改革案の肝は「分野別」ということです。日本では「誰がより優秀か」という一つの縦軸の中で過剰な学力の競い合いが生じています。その割に労働生産性は低い。実は、さまざまな分野の仕事を具体的な力で遂行できる人材が足りていないのです。こういう状況を変えるためには、上へ上へと向かう縦軸を横に倒して分野別に切っていく必要があります。入試で異なる適性を確かめ、大学でそれぞれスキルや知識を身に付ける方向に変えることです。

 実現するには、労働現場が専門性を評価できるよう変わらなければいけません。受験生たちも、何をやりたいのか若いうちから考えておくことが必要になります。狭く決める必要はありません。「だいたいこれに関わるもの」ぐらいに、膨らみをもって考えればいいのです。中学・高校で得た基礎知識をやりたいことにどうつなげていくか、考える機会にもなるでしょう。

 (聞き手・高橋雪花)

 <ほんだ・ゆき> 1964年、徳島県生まれ。香川県育ち。2008年から東京大大学院教育学研究科教授。専門は教育社会学。『もじれる社会』『社会を結びなおす』『軋(きし)む社会』など著書多数。

 <大学入試改革> 政府の教育再生実行会議は2013年、大学入試センター試験に代わり、基礎レベルと発展レベルの2段階からなる新テストの導入を提言した。その後の議論で、発展レベルの「大学入学希望者学力評価テスト」は20年度から実施。知識偏重からの脱却を狙いに、記述式問題を一部導入する。基礎レベルの「高校基礎学力テスト」は学校の指導改善に生かすのが目的で、受ける学年や回数、難易度を学校が選べる。19年度開始。

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