特集・連載 考える広場

地方自治の核心とは −沖縄と福島から− 桐山桂一論説委員が聞く 

2017/2/25 紙面から

環境経済学者の宮本憲一さん

 地方自治は民主主義の学校である。中央政府が強大な権力を握らないよう地方に権力を分散させる意義がある。だが、沖縄の米軍基地の辺野古移設問題で裁判所は、国の言い分を丸のみした。地方自治の精神を踏みにじってはいないか。この問題について、環境経済学者の宮本憲一氏に聞く。

◆国と対等、民意を聞け

 <桐山> 沖縄の米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐる判決は大いに疑問です。高裁は「辺野古しかない」。最高裁は「翁長雄志(おながたけし)知事が職権により承認を取り消すことは許されず、違法」との判断を出しました。

 <宮本> 普天間基地は危険で早急に廃止しなければならないが、その代替として沖縄に新基地をつくるのは不当ではないか。米軍基地は占領下で強権でつくられてしまったが、今回は沖縄自身が本来、決定する形でなければならない。沖縄の人にとって正しい選択をしなければならないのです。私はこれまで沖縄の基地の縮小と基地公害をなくしてほしいという運動を続けてきました。辺野古新基地建設には反対という立場です。

 何よりも沖縄の人々が選挙で重ねて反対の意思を示しています。それに反しては自治体の権利を侵害することになります。もう一つは環境の問題です。あそこは素晴らしい青サンゴの群落があるんですね。貴重なものです。生物の種も実に豊富です。ジュゴンの餌場でもあります。環境から言っても、辺野古岬と大浦湾を埋め立てるのは世界的な損失になります。裁判所が承認した沖縄防衛局の環境影響評価(アセスメント)には大きな瑕疵(かし)(欠陥)があります。地方自治の侵害と環境の破壊という二つの問題が辺野古地域に起こっており認めるわけにはいかないと思います。

 <桐山> 裁判所は「前知事の承認を審理判断すべきだ」としています。それでは選挙で民意を問うた意味がなくなってしまいます。県民の合意がないまま、埋め立てを強行すれば「民意より米軍優先」になります。

 <宮本> 沖縄県知事、名護市長・市議会選挙でも辺野古基地建設反対、衆院選、参院選でも反対派が占めた。少なくとも民主主義的手続きで地域の政治的な意見ははっきりしている。これは覆せないと思う。高裁も最高裁の判決も不当です。翁長さんの判断を審査しなければならない。高裁の訴訟指揮からおかしかった。高裁が「辺野古しかない」と言ったのは、裁判所の逸脱だと思います。

 <桐山> 宮本さんは「普天間・辺野古問題を考える会」の代表です。沖縄での抗議行動に対する暴力的な制圧を見ていると、日本国憲法が無視されている。沖縄だけではなく日本の平和、人権、自治、環境にかかわる問題だと述べていますね。

 <宮本> 沖縄には一九六九年の占領中に調査に行きました。沖縄の地域経済、地方財政を調べようとしたのです。当時、沖縄には地方自治が全くなかった。三権は占領軍の手にあり、基地の中に沖縄があるという感じでした。沖縄は歴史的に植民地以下の差別を受けていました。例えば戦前には沖縄県は唯一、高等教育機関がありませんでした。一八八八〜九〇年に地方自治制が敷かれて沖縄県になるわけですが、一九二〇年まで約三十年間、地方自治制度が完全に適用されませんでした。理由は沖縄の民度が低いので旧慣尊重でよいというのです。このような差別が沖縄の近代化を阻害したと思いました。

 復帰にあたって「沖縄の心」が旗印になっていました。平和で基地をなくしてほしい。沖縄の自己決定権、つまり自治ですね。福祉。この三つを掲げて復帰したのに、基地はそのまま残りました。復帰にあたって、沖縄県は建議書をつくりました。基地の縮小、自然の美しい沖縄ですから、公害のない沖縄にふさわしい産業発展をしたいなどの内容からなる建議書です。ところがこの建議書は採用されず、基地はそのまま残った。日本の地域開発をそのまま持ち込んだような振興計画も出されました。沖縄の要望が通って復帰したのではないのですね。政府の振興計画は米軍基地の存続を担保にしたものでした。

 <桐山> 明治憲法に地方自治の規定はありませんでした。日本国憲法での地方自治の位置付けはどのようなものですか。

 <宮本> 地方自治は三権分立に加えて、もう一つの民主主義の柱です。四権ですね。とくに知事公選になったことは、すばらしいことです。戦前は内務省の任命で知事を置いていたのですから。しかし保守党の政府は中央集権を維持したいので、戦前のように機関委任事務を置き、同時に国庫補助金制度を残しました。この二つのためにせっかくの地方自治制の自治権の行使が制約されたのです。

 七〇年代半ばに大阪府財政について調べたことがありますが、60%が機関委任事務でした。これでは都道府県は出先機関になり、中央の役人が天下りしてくるのも当然でした。このような制度が東京一極集中の弊害を招いたので、九三年に国会は全党一致で分権改革を決め、地方自治法を九九年に改正したのです。機関委任事務は廃止され、法定受託事務となり、本来、地方に任せた方が有益な事務を委託することにしたのです。辺野古判決は法定受託事務の公有水面埋立法を昔の機関委任事務のごとく判断しており不当です。

 <桐山> もともと国と地方は対等であるという精神でしたが、九九年の改正でそれがはっきりしたわけですね。

 <宮本> 欧米では地方自治は基本的人権だと考えられているのです。住民が地方行政に参与する。住民自治なのですね。それが根幹で、それに基づいて地方分権=団体自治があるのです。

 <桐山> 東日本大震災の被災地で復興がうまく進んでいないのと関係しますか。

 <宮本> 福島の原発問題は戦後最悪の公害だと思いますが、住民が強制的に避難せねばならない事態が起こったことは、足尾鉱毒事件以来のことです。故郷を捨てさせられた住民自身が本来、復興の主導権を持つべきです。政府は間もなく避難指示地域を解除しそうですが、きちんと除染をして、どういう町づくりをするかについて住民が計画に参画しなければなりません。

 <桐山> 東北の被災地も土木建築が優先し、老人医療や福祉は遅れてしまった。

 <宮本> これは平成の大合併とも関係します。旧町村には支所が置かれたが、多くの職員を減らしてしまった。過疎化がいっそう進んでいくし、福祉のサービスも一気に落ちていった。現場に人がいないわけですから…。平成の合併は、過疎化を進めることになった。

 <桐山> 原発の問題もある。

 <宮本> 法制的に原発の承認権があるわけではないが、地方自治法の本旨からすれば、軍事基地や原発ができるということは、地域の産業や福祉・環境を基本的に変える問題。事故や公害があれば生活や健康、生産にも影響が出る。そういう事業の立地は自治体が承認権を持たねばおかしい。原発や基地を置くのは自治体にとっては死命を制する問題です。自治体の判断が最優先されるべきで、地方自治の本旨がいまだ認められていないと思います。

 <みやもと・けんいち> 1930年、台北市生まれ。元滋賀大学長、大阪市立大名誉教授。公害問題や環境問題に積極的に取り組み『戦後日本公害史論』を発表。2016年に日本学士院賞を受けた。著書は他に『維持可能な社会に向かって』など多数。

 <機関委任事務> 地方公共団体の首長らが法令に基いて国から委任され、「国の機関」として処理する事務。この事務には地方の条例制定権が及ばず、地方議会の関与も制限された。公選された首長を国の下部機関と位置づけるに等しいこの制度は、地方自治の精神を阻害するものとして批判が強く、1999年に「地方分権一括法」の制定によって廃止された。これにより国と地方が対等な関係になったとされる。

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