特集・連載 考える広場

最高裁に「異議あり!」 

2017/3/4 紙面から

瀬木比呂志さん

 安全保障関連法など合憲性が問われる法整備が相次ぐ。夫婦別姓など社会の変化に伴い司法に判断を仰ぐ問題も増えている。司法そしてその頂点の最高裁は「日本の今」に対応できているか。

 <最高裁判所> 三権の一つ「司法」の最高機関。1947年、従来の大審院に代わり発足。大審院にはなかった違憲立法審査権を持ち、「憲法の番人」と称される。長官と14人の判事で構成。長官は内閣の指名に基づき、天皇が任命する。法令について違憲としたのはわずか10件だが、2000年以降は5件と急増している。   

◆国の意向追認、目立つ 元裁判官、明治大法科大学院教授・瀬木比呂志さん

 日本の最高裁は、国の統治と支配の根幹に関わる事案、あるいは社会的な価値に関わる事案において、極めて及び腰です。原発関連や、沖縄の米軍基地移設をめぐる訴訟がその典型ですね。国の意向を追認するだけの判決が目立つでしょう。例えば米国の裁判所は、日本に比べればずっと果敢に、こうした問題に切り込んできました。欧州でも透明化、民主化が進む中で、日本は逆行しているのです。裁判所が、一生懸命権力のほうを見ている。次に気にするのは、マスとしての世論。ですから訴訟の当事者は、実態としてほとんど顧みられていません。これは根深い問題です。

 私は、二〇〇〇年代以降の司法制度改革と言われたものが、改悪だったのではと思っています。肯定的に評価できるのは法テラスくらい。たとえば裁判員制度は、国民の司法参加という目的はけっこうですが、異常に厳しい守秘義務を課すなど、ゆがんだ制度になってしまった。裁判所の権益確保で国民負担が重くなった面が大きいです。

 〇〇年と比べると弁護士の人数が激増し、裁判官も三割増えたのですが、民事訴訟の数は減っています。国民の間に、裁判所に行ってもしょうがない、という認識が広がっているからではないでしょうか。司法への期待や信頼が、低下しているのです。実際、最高裁裁判官の国民審査は、不信任票の割合が上がっています。最新の投票だと平均9%を超えました。

 こうなってしまった要因の一つは人事制度です。裁判所には最高裁を頂点とするピラミッド型の階層がもともと存在しましたが、ここ二十年ほどで支配、統制がさらに進みました。日本は、司法修習を終えた人がすぐ判事補になり、裁判官として昇進していくキャリアシステムをとっています。閉じた組織の中で、トップの意向からはみ出す人をはじき出す人事が続けば、みんな上を向くようになるでしょう。結果として、裁判所全体で権力追随、事なかれ主義の傾向が強くなっているのです。

 事態の改善は難しいですが、真に優秀な弁護士から裁判官を選ぶような法曹一元化を何割かでも本格的に進めれば、空気は変わると思います。

 司法には本来、権力のチェックという重要な役割があります。それがきちんと果たされれば、社会は大きく変わるはずです。

 (聞き手・中村陽子)

 <せぎ・ひろし> 1954年、愛知県生まれ。東京大卒。79年から裁判官として東京地裁、最高裁などに勤務。2012年から現職。著書に『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』『黒い巨塔 最高裁判所』など。

◆政治中枢、踏み入らず 立命館大教授・渡辺千原さん

 司法が立法・行政の憲法解釈(具体的には法令)に対し、独自の解釈を示して介入する傾向を司法積極主義といいます。日本の司法、そしてその頂点にある最高裁は積極的だとは言いにくい。

 第二次世界大戦前の憲法を学んできた裁判官たちが戦後もそのまま務めた結果、実質の変化が少なかったのも理由の一つです。一九六〇年代に自衛隊などの合憲性が裁判で問われる中、司法は政治に立ち入らないという路線を選んで定着させたこともあります。

 何よりも政治からの人事介入を防ぎたかったのでしょう。最高裁長官は憲法上、内閣が指名することになっています。つまり政治的な任用が可能なのですが、これまでは裁判所ムラの中の人事が尊重されてきた。それを守るためには政治の中枢に踏み入ってはならないのです。

 その代わり、政治の中枢に関わらないところでは司法は積極的な判断もしています。四大公害訴訟では法理論的には無理をして被害者の救済に当たりました。最高裁も貸金規制の思い切った法解釈で多くの人に過払い金の返還をさせました。最近は、非嫡出子差別など家族法関連で積極的判決を次々出しています。

 最高裁は今、難しい選択を迫られています。安保関連法のような合憲とは言いがたい法律が成立したり、原発の安全神話が覆る事故が起きたりしました。では、安保関連法や原発再稼働のような政治が絡む問題に最高裁がノーと言えるか。正直難しいでしょう。しかし、今後の最高裁は、国民に信頼されるべく違憲審査権も行使することが求められています。特に、人権侵害については積極的であるべきです。

 国民が司法に期待を持てるような取り組みもすべきです。司法改革をしても、訴訟件数は増えていない。法科大学院も危機的状況です。今こそ、夢のある判決、若者の役割モデルとなる裁判官像が必要です。まず裁判所全体として、専門性を強化する。すべてを最高裁に集約するのではなく、高裁を専門化して現代の複雑な問題に対応し、最高裁は違憲審査をしっかりとする。もう一つは国際化です。国連の人権条約などを踏まえ司法も世界標準化しないと取り残されます。司法はいろんな意味で開かれるべきだと思います。

 (聞き手・大森雅弥)

 <わたなべ・ちはら> 1969年、奈良県生まれ。京都大大学院法学研究科博士課程満期退学。専門は法社会学。「科学と裁判」などが研究テーマ。編著書に『日本の最高裁判所』(日本評論社)。

◆「開かれた司法」願う 東海テレビ報道部長・斉藤潤一さん

 司法と向き合った原点は、名張毒ぶどう酒事件です。一九六一年、三重県名張市で女性五人が毒殺されました。逮捕された奥西勝・元死刑囚(二〇一五年死去)は一審無罪でしたが、二審は逆転死刑、最高裁で死刑が確定しました。〇五年に第七次再審請求審で再審開始決定(後に棄却)が出た時に裁判記録を読み、どう見ても奥西元死刑囚は犯人ではないと思いました。

 「一審無罪」の事実は重いです。調書など証拠にも疑問満載。「再審でも疑わしきは被告人の利益に」という最高裁の白鳥決定(七五年)に照らせば間違いなく再審開始なのに、裁判所はそうしなかった。取材の結果は「重い扉」(〇六年)という番組になりました。

 市民が裁判の実情をもっと知らないといけないと思い、「裁判長のお弁当」(〇七年)という番組が生まれました。「裁判所は取材できない」と教えられていましたが、最高裁から意外にもオーケーが出ました。〇九年スタートの裁判員裁判のPRになると思われたようです。

 番組ではまず、昼食と夕食に弁当を二個持参するほど忙しい裁判長の素顔を描きました。裁判官は思ったより普通の人たち。女性記者との合コンを設定したこともあります。もう一点、裁判官OBへの「上の意図した判決を書かず、人事で冷遇された」というインタビューから、裁判所が最高裁を頂点とするタテ社会であることもあぶり出しました。放映後に裁判所当局から「思っていた番組と全く違った」と批判されました。OBの部分が不満だったようです。

 司法改革が叫ばれています。再審請求審こそ、裁判員が担当したらと思います。裁判員の負担が増え、再審請求審は公判ではない(非公開)ので、相当な制度改正が必要ですが。白鳥決定の精神を生かし再審開始のハードルは下げて、再審の公判で吟味した結果、有罪判決が出ても良いのではないでしょうか。今は原則「再審イコール無罪」なので、ハードルが高いです。

 マスコミは裁判所は聖域だと思っている。裁判官への直接取材をしない。岐阜県美濃加茂市長の事件は一審は贈賄側が有罪確定で市長は無罪、二審は市長が逆転有罪。市民には訳が分からない。裁判官が記者会見して判決の意図を説明すべきです。それが開かれた司法です。マスコミも頑張らなければいけません。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <さいとう・じゅんいち> 1967年愛知県生まれ。92年入社。県警キャップなどを経て司法シリーズのドキュメンタリー「約束〜名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」など全12作を手掛ける。2014年から現職。

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