特集・連載 考える広場

3・11が教えてくれた 

2017/3/11 紙面から

長沢由美子さん

 きょう十一日で、東日本大震災から丸六年。地震、津波、そして福島第一原発事故−。とてつもない被害をもたらした。復興は、なかなか前へは進んでいない。でも、この震災は、被災者や私たちに、前向きな教訓ものこしたのではないだろうか。三人に聞いた。

 <復興> 復興庁などによると避難者は12万3000人。うち3万5000人以上は、プレハブ型仮設住宅で暮らしている。岩手、宮城、福島3県の製造品出荷額等は震災前の水準に回復し、津波で被災した農地は83%で営農再開可能。水産加工施設は88%で業務を再開した。

 福島の復興・再生では、飯舘村(一部を除く)や川俣町などで、今月末に避難指示を解除する。課題は、廃炉や除染、中間貯蔵施設の建設、風評被害の対策などだ。

◆「岩手は元気」を発信 復興支援「サヴァ缶」開発担当者・長沢由美子さん

 3・11を経て、地元とお客さまをつなげるという使命感が強くなりました。三陸は震災で風景が変わるような被害に遭いました。ぼうぜんとして何もできないほどのショックのはず。でも水産加工業者さんは懸命に製品を作り続けようとしています。その思いを一人一人のお客さまにつなげたい。それがお客さまから私たちに贈られた励ましへのお返しだとも思うから。

 あの日は、当時店長をしていた盛岡市内の販売店舗「らら・いわて」にいました。一週間ぐらい前から頻繁に地震が起こっていたので、本震が来た直後はこんな大きな被害とは思わなかった。店は三陸沿岸から離れた内陸にあり、停電でテレビを見られなかったので津波被害を知らなかったんです。翌日は休もうと思いましたが、従業員たちが来てくれて。レジが使えないので、電卓で計算しましたね。

 それからはわが社(岩手県産)も大変でしたが、ありがたいことに「買って応援しよう」という被災地支援の機運が高まってきました。うちは日本最初の産地問屋第三セクター会社で五十年以上の歴史があります。物流の仕組みができていたので、東京などに商品を出すことができました。特需を受けて被害が少なかった内陸部のメーカーは寝ずに生産に当たってくれました。

 問題は津波に襲われた三陸沿岸のメーカーでした。工場を流されるなど壊滅的な被害。私は二〇一一年四月に開発担当となり、三陸沿岸の商品を売らない限り、本当の復興とは言えないと思いました。そこで東北の食の復興を支援する一般社団法人「東の食の会」などと連携して開発したのが、岩手産のサバを使った「サヴァ缶」。「サヴァ(●a va)?」はフランス語で「元気?」という意味です。デザインの良さ、レシピの情報発信などが奏功して百六十万缶(一缶四百円前後)を超える大ヒットとなりました。

 サヴァ缶はほかの缶詰とは違います。サヴァと読める三月八日を「サヴァ缶の日」に認定してもらいました。この商品だけは売り上げが落ちても売り続けていきます。「岩手は元気」を発信し続ける。そして3・8を3・11につないでいく。 

 今、難しい時期に入っています。お客さまも被災地だから買うというふうではなくなりつつある。でも、止まりませんよ。頑張って発信し続けたいと思っています。

 ※●はCの下に,

 (聞き手・大森雅弥)

 <ながさわ・ゆみこ> 1964年、岩手県生まれ。88年に岩手県産入社。2011年に商品開発担当の部署に移り「サヴァ缶」などの開発に従事。現在は東京・銀座にある「いわて銀河プラザ」店長。

◆生と死思う感性共有 俳人・高野ムツオさん

 人間の生命をも決定付ける力が自然にはある。そんな当たり前のことを震災で思い知らされました。俳句は自然と向き合って作るものです。けれどそれまでは、ただ人に安らぎを与えてくれる存在だというような漫然とした甘えがあったんですね。

 あの日私は、仙台駅で被災し、宮城県多賀城市の自宅まで、電気が消えた真っ暗な道を歩いて帰りました。途中、渋滞する車のライトに照らされて、津波によって横転した車が折り重なっているのが見えました。歴史として津波のことは知っていても、目の前でその破壊力を見ると、全く違う衝撃でした。

 直後から、私は俳句を作りました。ボランティア活動をしたほうがいいのかなど、葛藤もありましたが、やはり自分がずっとよりどころにしてきた俳句の言葉で、この瞬間を形にしておかなければと考えたのです。

 俳句の世界にはずっと、震災や原発事故のような時事的な出来事は、五七五では語れないとする傾向がありました。自然のありがたさや命の喜び、悲しみを表現するのが俳句であり、社会性とは関わりがないと思って作ってきた人が、いっぱいいたと思います。

 けれど今回は、そうした先入観なしに、私以外にもたくさんの俳人が、流派を超えて震災を詠みました。それによって俳句の新しい面が見えてきた。五七五という形式が持っていた表現の力を再認識したんですね。短いからこそ、言葉にすることができないような思いを込められる。世の中の出来事すべてを引き受ける力があったんだと。

 社会のほうも変わりました。句の中で表現されてきたような生と死を思う感性が、震災後は、広く共有されるようになったと感じます。たとえば夏の花火大会は、本来は鎮魂のための行事です。それがだんだん納涼のイベントとしてしか認知されなくなっていました。でも震災後は、多くの人が犠牲者を悼む気持ちで見たのではないでしょうか。死とともにある生の豊かさにも、気づかされたのです。

 今、私が気になるのは、この体験を早く忘れようとする流れがあることです。東京五輪に向けて、社会が金銭、物量的に豊かになれば幸せだという感覚に戻っているようです。目先のことにとらわれて、震災で見えてきたことが、また消えていってしまうのではないかと心配です。

 (聞き手・中村陽子)

 <たかの・むつお> 1947年、宮城県生まれ。国学院大卒。俳誌「小熊座」主宰。第5句集『萬の翅(まんのはね)』で読売文学賞、蛇笏賞など。ほかに『蟲(むし)の王』『片翅』など。

◆事実を地道に伝える 立命館大准教授・開沼博さん

 前向きさは、大きく二点と思います。一つは、震災の課題に向けて進む動きが、あちこちで出てきたことです。福島では放射線の問題で「離婚が増えた」との説が流布しましたが、全体的にはむしろ減少。絆の大切さが認識されたのは間違いないです。高齢者を見守るNPOを設立したり、ぼろぼろになった飲食店街を買い上げて復興飲食店街を造ったりした事例もあります。

 二つ目は、自分たちのアイデンティティーを考えさせられた点です。福島では震災後にプロスポーツのチームが三つできました。サッカーJ3と、野球のBCリーグ、そしてバスケットボールBリーグのチームです。震災前には乏しかった県民の一体感が強固になり、苦難に向き合う志があったからこそです。

 私は福島県に十八歳まで住んでいましたが、退屈でした。吉幾三さんの歌ではないけれど、東京との距離感があり、本を読んで対等に語り合える人がいませんでした。でも今、福島は面白くなってきました。震災が、田舎特有の閉塞(へいそく)感やしがらみのたがを外し、よそ者や若者、「出る杭(くい)」への寛容さが出てきた。難題の前に立つ福島の人に話し掛けると、現場を知る充実した話ができます。東京以上です。

 震災の翌月から全国で講演しましたが、最初は罵声が飛び交い大荒れでした。正確な事実を言っても「おれが思っている(哀れな)福島と違う」と。そんなステレオタイプな見方を改めてほしくて『はじめての福島学』という本で正確な数字を示すと、反論はほとんどなかった。例えば人口流出率。「20%ぐらいと思っていた(実際は2・3%)ので驚いた」という県外の人がいました。巻末の「福島へのありがた迷惑12箇条」は共感を集めました。「勝手に福島を犠牲者として憐憫(れんびん)の情を向けて、悦に入る」など十二カ条です。

 地元の人たちと県外の人をつなぐ「通訳」の役を地道に続けたいですね。「福島で農業ができない」と聞いて自殺した人がいました。正確な事実の共有を疎(おろそ)かにすれば、命にかかわります。

 県外の人は、ハードルが高いことをする必要はありません。日常の中で「買う、行く、働く」ことが、震災と向き合うことだと思います。先日、名古屋で食事をしたら、お店に福島のお酒が置いてあった。まずは、こういうことでいいのです。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <かいぬま・ひろし> 1984年、福島県生まれ。東京大卒。現在、東京大院博士課程在籍。専攻は社会学。『福島第一原発廃炉図鑑』『はじめての福島学』『漂白される社会』など著書多数。

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