特集・連載 考える広場

線路は続くか−JR発足30年 

2017/3/18 紙面から

青柳俊彦さん

 四月一日で、国鉄の分割民営化から三十年。国鉄は「JR」を冠した七つの民間会社に分かれた。新幹線網の整備やリニア中央新幹線の着工など夢が広がる一方で「ローカル線が切り捨てられた」「細かく分けすぎて格差が広がった」との批判も。線路は続くか−。

◆地元密着、これからも JR九州社長・青柳俊彦さん

 JR九州は昨年十月、東証一部に上場しました。東日本、西日本、東海に次ぎ四番目で、本州以外では初です。この三十年間、曲折はあったものの、上場で民営化が完了しました。

 九州の鉄道は、炭鉱や製鉄所が活況で、もともと貨物輸送が主でした。三十年前、旅客輸送は後回しになっていました。首都圏とは違ってJR九州の移動シェアは5%だけ。なので、発足して最初にやったのは「旅客会社らしく」です。特急のスピードアップやダイヤの見直しに最初の十年をかけました。JR各社で初めて、新製特急列車を投入したのは九州です。在来線最高時速百三十キロ化の試験や開発も、九州が最初です。

 でも、経営は苦しかった。国から渡された三千八百七十七億円の経営安定基金を持ってスタートしました。基金の運用により、赤字(初年度約三百億円)を補填(ほてん)する仕組みです。バブル期は金利が高かったが、バブルがはじけて、利子がどんどん下がり、運用益を得るのは難しくなっていきました。

 鉄道以外の事業に手を伸ばし新聞には「ダボハゼ商売」と書かれました。釣り堀など失敗例も。しかし、マンションやホテル、駅ビルの事業が中核となり全体収入の60%(鉄道の一・五倍)までになりました。マンションを購入いただいたお客さまには、鉄道会社なので「夜逃げしない会社(だから安心してください)」と言っています。

 利便性向上などの「理性的戦略」に積極的に取り組むと同時に、「感性的戦略」も重視してきました。それが「ななつ星in九州」に代表される創意工夫とデザイン戦略です。

 昨年四月の熊本地震では、回送列車が一編成脱線しました。十三日目に仮復旧。その後脱線防止ガード(レールの内側にレール状のガードを敷設)を付けるなどで今月四日に全面復旧し、徐行なしで運転しています。この三十年、災害復旧の連続でした。復旧した区間は強くなりましたが、災害の対応には厳しいものがあります。

 地元密着を念頭に頑張ってきました。今後は国内の他地域や海外の人に九州を知ってもらいたいです。海外では「阿蘇」は知られていても「九州」は無名なので。三十年を目前に上場を果たし、百点満点を付けたいところながら「七十点合格」かな。伸びしろを残したいのです。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <あおやぎ・としひこ> 1953年、福岡県生まれ。77年、東京大卒、国鉄入社。87年、JR九州発足とともに同社経営管理室副長。運輸部長、鉄道事業本部長、専務などを経て2014年から現職。

◆鉄道の楽しさ後世に ママ鉄タレント・鉄道文化人・豊岡真澄さん

 鉄道ファンになったのは二〇〇五年です。当時の担当マネジャーが鉄ちゃんとして有名な南田裕介さんで「真澄なら鉄子になるかも」と知識を仕込まれて(笑い)、こんな面白い世界があったのかと。それまでは鉄道は単なる移動手段。それどころか、私は東武東上線沿線の出身なのですが、ブレーキをかけたときの独特のにおいが好きじゃなくて、むしろ苦手でした。

 車両のデザインや細部が好きな「車両鉄」です。都市部を走る車両は「速く安全に」が第一ですから面白みに欠けがちですが、地方に行くと格好いい車両がたくさんあります。これは国鉄が民営化したからこそだと思います。一番好きなのはJR九州の883系ソニック。メカニックで、機動戦士ガンダムに出てくるロボット兵器のグフやゲルググみたいなんです。

 第三セクターの会社も工夫しています。頑張っているのが鳥取県内に路線を持つ智頭(ちず)急行と若桜(わかさ)鉄道。智頭急行は「スーパーはくと」という速くて美しい特急を運行しています。若桜鉄道は昨年五月、ピンクのSLを走らせました。八日間の限定運行でしたが、一年分の売り上げがあったそうです。

 私は国鉄時代を知りませんが、知っている人は「堅くて気難しくて怖かった」と言いますね。今はお客さんに楽しんでもらいたいという気持ちでいっぱい。経営は大変だと思うんですよ。特に三セク鉄道は。でも、いろんなところに行かせてもらって、不況感を感じないのは唯一、鉄道業界なんです。目の前のことに集中して一つ一つをきちんと片付けていく感じで、マイナスのオーラが一切ない。

 あえて気になることを挙げれば、最近、鉄道が高級志向になっていることです。庶民でも乗れる寝台列車はどんどんなくなってしまった。機関車が客車を引っ張り、停車するときに連結器のところで「がちゃん」と音がする。あれが良かったのに。

 本当に鉄道って、知識に果てがありません。八歳になる息子は「におい鉄」。私が嫌いだった東武東上線のにおい、ブレーキパッドのゴムが摩擦で焼けるにおいだったんですが、それで開花したんです。においでどの車両かかぎ分けられます。鉄道会社はこんな楽しみに満ちた世界を小さい子たちに伝えていってほしい。夢を持たせてほしいんです。私もママ鉄として頑張ります。

 (聞き手・大森雅弥)

 <とよおか・ますみ> 1983年、埼玉県生まれ。99年に芸能界デビュー。今はママ鉄タレントとして活動。JTBパブリッシング刊『のりものDVDブック』シリーズのナレーションを担当した。

◆分割民営化で弊害も 環境経済研究所代表・上岡直見さん

 国鉄を分割民営化する時、当時の自民党は<ローカル優先のサービスに徹します><長距離列車もなくなりません>など、いくつもの約束をしました。でもそれは、ほとんど果たせていないように見えます。

 JRが発足してから、新幹線が延び、首都圏や大都市だけは、便利になったようですが、地方は切り捨てられているのです。列車は減り、駅員がいない駅が増えました。ICカードが使えない駅も、まだたくさんあります。ブルートレインなどの長距離列車は、次々と廃止されました。

 現在のような区切りで分割したことが、根本的に間違っていたのだと思います。JR東海には東海道新幹線があり、東日本は首都圏で旅客の多い路線があるため、それぞれ年間で約四千億〜五千億円の大幅な営業利益をあげています。一方、北海道や四国は、年間数百億円の営業損失になっています。でもJR全体で収支を評価すれば、この損失もほとんど問題にならないような額です。たとえば東と西にまとめるというような枠組みの変更で、十分黒字になります。

 個別の採算だけで存廃が決まるとなると、北海道の路線は、半分以下になってしまいます。JR北海道は、赤字部分をすぐにやめるとは言っていませんが、会社単独では維持できないとの見通しを示しています。

 地方の路線を廃止して、バスに転換した地域は、国土交通省の調査によると、乗客が激減し、やがてバスの運行本数も減ります。路線そのものが消滅したところもあります。移動の所要時間や、定時運行などの面で、鉄道の信頼性にバスはかなわないのです。公共交通の社会的価値は路線の採算だけでは測れません。株主のほうを見ているJRだけではなく、国や自治体が、鉄道サービスを維持する責任を果たすべきです。

 この三十年、JRでは乗客サービスや車両・線路の管理など、さまざまな面で外注化が進み、技術の継承もされにくくなっています。北海道で脱線などのトラブルが相次いでいるのは、こうした負の側面が表面化しているのです。国鉄時代の技術やインフラの蓄積を取り崩しながらやってきても、もう限界に達しているのでしょう。分割民営化によるマイナスを総決算し、あらためて改革を行う時期に来ています。

 (聞き手・中村陽子)

 <かみおか・なおみ> 1953年、東京都生まれ。早稲田大大学院修士課程修了。法政大非常勤講師。著書に『鉄道は誰のものか』(緑風出版)、『水と鉄道』(光村印刷)など。

 <国鉄分割民営化> 中曽根康弘内閣による行政改革。1987年4月1日、公社の国鉄を北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の旅客鉄道会社と貨物鉄道会社の計7社に分割し、民営化した。37兆円もの累積債務を解消し、政治介入を排除するのが目的だった。債務は現在も返済中。国鉄末期には年間1兆円を超す赤字だったが、2012年度にはJR7社で6300億円の経常黒字を計上。半面、7社間での格差が顕著になっている。

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