特集・連載 考える広場

緊張する東アジア、日本の役割は? 豊田洋一論説委員が聞く 

2017/4/22 紙面から

佐道明広さん

 自衛隊は発足から六十年あまりが過ぎました。この間、活動領域を徐々に広げつつも憲法九条の下、専守防衛を貫いてきましたが、中国が台頭し、北朝鮮が核・ミサイル開発を進めるなど、東アジアの安全保障環境は大きく変わっています。日本の自衛隊、安全保障政策はどうあるべきなのか。中京大教授の佐道明広さんとともに考えます。

◆「平和」掲げ、対話促せ 中京大教授・佐道明広さん 

 豊田 二〇一二年に安倍晋三首相が政権に復帰して以降、自衛隊の役割は強化され続けています。減少傾向だった防衛費は増額に転じ、歴代内閣の憲法解釈は変更され、集団的自衛権の行使が容認されました。これらの理由とされているのが、中国の軍事的台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発など東アジア情勢です。日本を取り巻く国際情勢の変化をどう分析しますか。

 佐道 不安定性が増していることは間違いありません。その要因は中国やロシアなど、力で秩序を変えようとする勢力が出てきたこと、唯一の覇権国だった米国の力が弱くなったことです。ただ、危機をあおるのは間違いです。中国は沖縄も盗(と)りに来るぞという極端な議論まで聞かれますが、広大な米軍基地がある沖縄に中国が戦争を仕掛けてくるだろうか。米国との戦争を前提とした非合理的なことをやるとは考えられません。

 豊田 対北朝鮮政策で、トランプ米大統領は武力攻撃を含む「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と公言し、実際に原子力空母「カール・ビンソン」を朝鮮半島近海まで派遣するなど、強硬姿勢を見せています。

 佐道 北朝鮮の行動にもよりますし、トランプ政権の行動は予測が難しいのですが、やみくもに軍事攻撃を行うとは思えません。中国との関係も悪くなるし、韓国もますます混乱する。選択肢としての武力行使を見せることは外交的手段としてはあり得ますが、日本を含む周辺国に及ぶリスクを考えると、ストップがかかるのではないか。

 豊田 日本は戦争放棄の憲法九条の下で平和国家として歩んできました。日米安全保障条約の抑止力があったとしても、九条が戦後日本の平和維持や経済発展に果たした役割は大きいものがあります。

 佐道 憲法の平和主義は戦後日本の基本方針として極めて重要です。戦争という大きな過ちを反省し、平和を重視する国家であることを世界に印象づけています。信用を築くには長い時間がかかりますが壊れるのは短時間です。日本の平和国家としてのソフトパワーはこれからも大事にするべきです。

 豊田 安全保障関連法は集団的自衛権の行使を可能にし、国連平和維持活動(PKO)派遣部隊に「駆け付け警護」などより危険な任務を与える法律です。憲法違反が指摘され、私たちの新聞も反対を表明しました。この法律をどう評価しますか。

 佐道 ずるいかもしれませんが、総論賛成、各論反対です。一九九二年にPKO協力法ができて、日本は憲法前文の精神である積極的な国際的協力に踏み出しましたが、実際に運用する中で問題も出てきた。安保法は今までのことを抜本的に変えるというよりは、法律の穴を埋めることに重点が置かれています。やむを得ない部分は結構あります。

 でも、集団的自衛権は限定的な行使容認ということですが、複雑な法案をまとめたために非常に分かりにくく、議論を避けるような形でやっている。政府は、集団的自衛権を行使できるケースをいくつか出していましたが、それも議論のための議論でした。日本は今後、何をどこまで行うのかといった根本的な問題は全部素通りしてしまい、議論が不完全燃焼だった感じがします。

 豊田 戦後日本は専守防衛政策に徹してきましたが、北朝鮮が核・ミサイル開発を進めるのに伴い、日本も敵のミサイル基地を直接攻撃できる能力を持つべきだとの議論が自民党内で高まっています。これまでも、ほかに手段がない場合、敵の基地を攻撃することは自衛権の範囲内で憲法に反しないとの政府見解はありましたが、実際にそうした能力を持つには膨大な費用がかかり、非現実的です。

 佐道 ミサイル攻撃を考えた場合、衛星で常時見張り、準備段階で発射基地を攻撃することになります。それだと日本は専守防衛をやめたのかという話になり、技術的にも現実的と思えません。今のミサイル防衛システムの能力を高めたり、国際的な交渉の場を作るなど多面的な努力をするべきです。敵地攻撃よりも攻撃してくる相手にダメージを与える「拒否的な抑止力」の充実が、日本にとって大事です。

 向こうに合わせて、こちらも軍事力を拡大する軍拡競争になれば危険が増え、安心感は得られません。そうした「安全保障のジレンマ」に陥らないためには、日本は「これ以上のことはやらない」と自ら線を引いて歯止めをかけることが大事です。中国や北朝鮮が脅威であることは間違いないけれど、日本が主体的に状況を管理することを目指すのです。

 「張り子の虎」ではないことを示すために、事態にきちんと対応できる法整備と装備は必要ですし、国民保護も問題が多いのですが、平和主義と言うのであれば、それ以上のことは日本としてすべきではない。危機をあおる必要はありません。

 豊田 日本自身が線を引いたとしても、現実には日米安保条約に基づいて打撃力を持つ米軍が日本に駐留し、北朝鮮がミサイル攻撃の目標と公言した米軍基地の約70%は沖縄に集中しています。重い基地負担は沖縄県民に課し、安全保障の便益は日本全体が受ける構図です。

 佐道 沖縄の米軍基地のかなりの部分を占め、事件事故を起こすのは多くの場合は海兵隊です。辺野古も高江のヘリパッドも海兵隊の問題ですから、海兵隊が移転すれば、沖縄問題といわれるかなりの部分は解決します。

 私は海兵隊を本土で受け入れるべきだと思います。例えば、佐世保の西部方面普通科連隊を土台として三千人規模の水陸両用部隊が編成されますが、それを沖縄に移し、空いたところに海兵隊を移すとか、やり方はあります。海兵隊を沖縄に固定化させない知恵を、本土の側が率先して出す必要があります。

 豊田 日本の防衛費は国内総生産(GDP)比1%の枠内におおむね収まってきましたが、トランプ大統領は同盟国に負担増を求める考えを表明していますし、北大西洋条約機構(NATO)ではGDP比2%を加盟国の目標値に設定しています。安倍内閣では防衛費の増額が続いていますが、どの程度が適切な水準なのでしょう。

 佐道 防衛費はその国の財政と相関関係にありますので、何パーセントかという議論は生産的ではありませんが、目安にはなります。米国は多分、日本にもNATO並みの2%程度に上げろという圧力をかけてくるのでしょう。

 日本の財政状況では、2%はどう考えても無理ですが、1%が限界だと決める必要もありません。先ほどの拒否的な抑止力を充実させるのなら、1%を超えたとしても、超えすぎない程度が日本としては適切な水準ではないか。1%を超えるからダメだというのは行き過ぎです。

 <さどう・あきひろ> 1958年、福岡県生まれ。学習院大法学部卒。東京都立大大学院博士課程単位取得退学。政策研究大学院大助教授を経て、現在、中京大総合政策学部教授。専門は日本政治外交史。著書に『自衛隊史』(ちくま新書)『沖縄現代政治史』(吉田書店)など。

 <専守防衛> 武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、保持する防衛力も自衛のための必要最小限度にとどめる憲法の精神にのっとった日本の防衛の基本的な方針。ほかに防御する手段がない場合、敵の基地を攻撃することは自衛の範囲に含まれ可能だが、他国を攻撃する兵器を平素から保有することは憲法の趣旨に反するとされる。

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