特集・連載 考える広場

その言葉、うそかまことか トランプ政権100日 

2017/4/29 紙面から

 トランプ米大統領が二十九日、就任百日目を迎えた。人々の感情を扇動するような政策や演説は「ポスト真実」と批判されるが、大統領側は「そういう批判こそ偽ニュース」と反論する。社会の深刻な分断を浮き彫りにするトランプ時代。言論はどうあるべきか。

◆調査報道で勝負挑め ジャーナリスト安田浩一さん

 トランプ米大統領が、議会にかけずにツイッターで政策を発信することが批判されています。さらに「間違った情報でも、流してしまえばそれが真実だ」という手法も見られます。こうした「発信者になって、自分の考えを一方的に流す」という風潮は、日本でも長い年月をかけて広がってきています。

 週刊誌記者だった一九九五年、私は「ウィンドウズ95」の発売日に東京・秋葉原で取材しました。すごい熱気で「これによってみんながメディアになる」と書きました。「一人一人が情報を発信できる。素晴らしい未来が開ける」と。今から思えば、間抜けな記事でした。

 あれから二十二年。人々が発信するのは、明るい未来だけではなく、絶望的な未来も含んでいます。感情だけで物事を処理し、憎悪がネットの中で増幅されています。ネットはリベラルな人々の武器になると思われていましたが、実際には非常に保守的な人々のツールとして機能しすぎてしまいました。

 リベラル派は、それをのんきに見ていたのだと思います。差別・排外的な集団を「一部の人たち」と放置し、なめていた。憎悪は既存マスコミにも向かいました。リベラルなニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストを「既得権益を持った人間のメディアだ」と考える勢力が今の米国にはあります。これは、日本のネットでマスコミを「マスゴミ」と呼ぶ人々の心情と共振しています。

 生活保護受給者を「ナマポ」と呼ぶ。福島で仮設住宅に住む人に「プロ避難民」という言葉を投げかける。相模原事件の被告は、障害者を差別しました。東京MXテレビの番組「ニュース女子」では、取材をしないまま、米軍基地の反対運動をせせら笑っていました。どこかでつながっています。

 週刊誌時代、先輩に「池に石がポチャンと落ちる。水に潜ってその石を取りに行くのが記者本来の仕事。おれたちは今、水面に広がる波紋をすくっているだけだ」と言われました。指先だけでなく、足を使えと。

 私だってまだまだですが、既存マスコミは、ポスト真実を批判するよりもむしろ、ポスト真実と戦ってほしい。それには、ツイッターをそのまま記事にするような「発表報道」ではなく、ネットがまねできない「調査報道」しかないと思います。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <やすだ・こういち> 1964年、静岡県生まれ。週刊誌記者を経てフリー。2012年『ネットと愛国』で講談社ノンフィクション賞、15年「ルポ外国人『隷属』労働者」で大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)。

◆結論を急ぐのは危険 作家吉村萬壱さん

 震災後、自分の中であらゆる権威が崩れました。最高の頭脳をもってしても原発事故の処理は終わらず、汚染水も止められない。二〇一四年に「ボラード病」という小説を出しました。大災厄が起きて汚染された架空の町、海塚市が舞台です。人々は絆を強めるため「海塚讃歌(さんか)」を唱和し、地元の野菜や海産物を積極的に食べる。住民は相互に監視し合い、抵抗した人間は黒服に連れ去られます。

 主人公の少女は、小学校の同級生が相次いで死んでいく中、大人が言う「安全」「健康」のウソが見えて苦しみます。でも海塚市の住民はどこにも行き場がないから、「安全だ」と信じないと生きていけないんです。

 政治のやってる悪徳というのは、どこかで市民の願いを具現化しています。たとえば世界中でテロは起き続けていて、人々は無力感を感じている。政治家は「テロを根絶する」と言いますが、実際に根絶するのは無理。それでも虚言がまかり通るのは、大衆が求めているからですよ。事実を突きつけられても見たくない大衆側と、政権維持をしたい側の利害が一致するから、ないものが見えたりする。

 ネットの発達で、市民の側にも虚言を受け入れる土壌ができました。先日、桜をバックに自分を撮影している女の子がいました。撮影の瞬間は満面の笑みを浮かべ、終わると能面みたいな顔に変わる。仮想空間の中に「真実」をつくってるんです。

 たとえば「幸せなわたし」を演出するために捏造(ねつぞう)した写真をアップして、千くらい「いいね!」がついたら、それが真実になる。事実がどうあれ、大勢が認めたことが真実です。

 同じように人気者の虚言は、人々が「信じるに足る」と思えば真実になる。虚言が多いにもかかわらず現政権の支持率が下がらないのは、多くの人が信じたいから。事実はひとつですが、真実はいくつもある。事実はこっちだ、といくら正義を主張しても力を持ちません。

 虚言に満ちた時代を、どう生きるか。民主主義は議論を続けることに意味があるシステムなので、単純な答えなどありません。だからトランプみたいに「これが解決法だ!」というのは危ない。日本人は均衡が崩れると一斉に同じ方向になだれる心性がありますが、結論を急がない方がいい。政治家をだまし討ちにするくらいの気持ちが必要です。

 (聞き手・出田阿生)

 <よしむら・まんいち> 1961年愛媛県生まれ、大阪府育ち。東京と大阪で高校、特別支援学校の教諭を務め、作家に。2003年、「ハリガネムシ」で芥川賞。16年に『臣女』で島清(しませ)恋愛文学賞。

◆まず事実を吟味して 文筆家古谷経衡さん

 米大統領選でトランプ氏が勝つとは予想していませんでしたが、万一そういうことになれば創造的な破壊が起こるだろうとは思っていました。大統領就任から百日たってみれば、トランプ氏は創造はなく破壊だけ。政権の体をなしていない。二期目はないでしょう。ニクソン氏のように途中で退任に追い込まれることもあるかもしれない。

 日本人からすれば「米国もあんな程度なんだね」という神話崩壊が起きましたね。米国の動向抜きに、日本が自主的に防衛なり外交なりを考えないといけないということをいや応なく突きつけられました。

 トランプ氏が出てきた時、元航空幕僚長で政界にも進出した田母神俊雄氏に似ているなと思いました。二人とも陰謀論みたいな派手で突拍子もないことを言う一方、中産階級のルサンチマン(恨み)みたいなところを刺激することも言うんですよ。ただ、トランプ氏は当選し、田母神氏は当選しなかった。

 米国はもともと陰謀論が受け入れられる素地があるからだと思います。猛烈な階層社会で、エリートとそうじゃない人では住む場所、行く学校、付き合う人などが全く違う。エリートたちは俺たちが知らないミラクルをやっているに違いないという発想になりがちなのです。うそに対抗するメディアの力も落ちている。再販制度がないこともあって、新聞は部数を減らし、出版文化も疲弊している。

 一方、日本はエリートが自分のクラス(学級、階級)から出ている。メディアに対する信頼度は今も高い。田母神氏が言う「国際資本が日本を牛耳っている」みたいな陰謀論は冷笑されました。日本は米国に比べればトゥルース(真実)に対してシビアだと思います。

 もちろん、日本のメディアにも問題はあります。朝日新聞では、事実を伝えるだけでは報道にならない、朝日としての方向性を付ける(「角度を付ける」と言っていました)ことで初めて見出しが付く、という発想があったそうです。

 情報の送り手も受け手も、事実に目を向けない人がいるのはなぜなのか。「反〇〇」「親〇〇」とか、最初に願望ありきなのです。「反」や「親」は事実を吟味した最後に出すべきもの。言論は何よりも、データや科学に基づいていなければなりません。

 (聞き手・大森雅弥)

 <ふるや・つねひら> 1982年、北海道生まれ。立命館大卒。『左翼も右翼もウソばかり』『草食系のための対米自立論』『欲望のすすめ』など著書多数。近著は『「意識高い系」の研究』(文春新書)。

 <ポスト真実> 英語の「ポストトゥルース」の訳語で、「客観的な事実や真実が重視されない時代」の意味。英オックスフォード大出版局が昨年を代表する言葉に選んだ。うその言説でも人々を扇動し、あるいは人々が扇動されてしまう政治文化の風潮を示すという。米大統領選や英国の欧州連合離脱にかかわる国民投票の過程で注目が高まった。言論の基礎になる事実の共通認識が弱まり、政治的立場による分断が起きている象徴といえる。

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