特集・連載 考える広場

小さなスナックの片隅に 

2017/5/6 紙面から

撮影・Kazuyoshi Shimomura(UM)

 水割り、紫煙、マイク、止まり木、ママさん。薄暗いスナックは仕事に疲れた身を癒やし、翌朝は二日酔いをもたらす存在だった。「昭和」を感じさせる酒場が今、再び人気だという。

◆昭和歌謡、大人の音楽 歌手JUJUさん

 私にとって心の原風景はスナック。子どものころ、親によく連れて行かれました。親類も一緒のことが多く、子どもたちがスナック、つまり軽食を食べている横で、大人たちは飲んだり歌ったり、自由に楽しんでいた。それは紫色の風景でした。子どもの世界では紫色ってまずないですよね。たばこの煙を紫煙というように、紫は大人の色。そして、そこで流れている昭和歌謡が童謡よりもしっくりきたんです。大人って大変そうだけど楽しそうだなと。早く大人になりたいと思いました。

 歌手になった今でもスナックで歌うのが好き。私にとって実地訓練みたいなもので、音響が良くない場所で歌うことで野性の勘が鈍らない。最初の一声を出したときに、ほかのお客さんたちを一瞬でも黙らせるという訓練も兼ねていて、黙らなくなったら歌手をやめようと思っています(笑い)。幸い、まだ歌手を続けていますね(笑い)。

 十月十日が「JUJUの日」で、毎年イベントをしてきましたが、昨年は「巨大スナック」と銘打って昭和歌謡の名曲を歌うコンサートを開きました。「スナックJUJU」というカバーアルバムも発表。幸い好評で今年は今月二十四日から全国ツアーをします。やっぱり昭和歌謡が好きなんですね。

 なぜ、歌謡曲か。今、小学生の間で昭和歌謡ブームが起きているそうです。「こっちの方が本当だから」と言うんですって。昔の歌謡曲は大人たちが大人のために作っていて、歌番組を家族で見る中で子どもが聞いてはいけない内容の曲も流れた。今、歌番組でそういう曲が流れたら、苦情の電話が来たりするかもしれないですね。そんな時代感もあって、音楽の表現の幅が狭くなっているような気も致します。「スナック」プロジェクトには、手加減しない、大人のための音楽が復活してほしいという願いも込めています。

 私は、歌うということはストーリーテリング(物語を話すこと)であるべきだと思っています。一番の理想は、聴いている方が私の歌った物を自分の物語にしてくれること。大人の歌を大人に聴いてほしいし、大人の事情を話したい。「疲れたときに誰の曲を聴きたいですか」というアンケートで、十人中七人ぐらいがJUJUと言ってくれたらうれしい。スナックの止まり木のようになれたらいいですね。

 (聞き手・大森雅弥)

 <じゅじゅ> 2004年にメジャーデビュー。「スナックJUJU」ツアーは名古屋・日本ガイシホール、さいたまスーパーアリーナなどで。横浜アリーナでの追加公演(7月11日)も決定。

◆もう一つの「わが家」 編集者・都築響一さん

 スナックしか飲み屋がない町っていっぱいありますよ。全国の半分以上だと思う。だから老若男女が集う。ここ十年、地方出張のついでに訪れたのは二百〜三百店くらいでしょうか。

 スナックは日本独自の文化です。通説では東京五輪が契機で誕生したといわれてます。「飲み屋を健全にしよう」と、行政が主導して、カウンターを挟んで接客する店が次々生まれた。店の女性が客の隣に座らない、つまりいかがわしくないわけ。

 時代とともにカラオケの機材も入って、お酒を飲まずに歌うだけの人も来るようになった。もちろん女性客も多いし、夫婦や親子連れも珍しくないです。

 東京のスナックを訪ねて書いた『天国は水割りの味がする 東京スナック魅酒乱』、『東京スナック飲みある記 ママさんボトル入ります!』という本を数年前に出しました。何回か飲みに通って、店主に波瀾万丈(はらんばんじょう)の人生を語ってもらう。取材に同行した編集者はスナックの魅力にはまって、会社をやめて店を開いた。僕も共同経営者で、たまにカウンターに立ちます。

 都市部の若者にも人気が出てきました。オシャレなバーに飽きたんでしょうね。素人でも始めやすい業態なので、近年はスナックを開きたいという若い世代もどんどん増えています。

 スナックには特徴らしい特徴がない。酒はビールと焼酎、ウイスキーくらいだし、つまみは乾き物。女性の魅力で売っているわけでもない。長続きする店は、店主に魅力があるんです。

 スナックは入りにくい。常連相手の商売だから、「食べログ」や「ぐるなび」なんかに出ないでしょ。だいたい木の扉で、開けないと中が見えない。店主と常連がつくりだす「ひとつの家」なんですよ。仕事場と自宅の間にある、もう一つの家。初めての店に行くときは、家族の端っこに加えてもらう感じ。

 店の中では社会的地位も関係ない。十年くらい毎日隣に座っている飲み仲間がいたとしても、「ヤマちゃん」っていう愛称しか知らないとかね。

 いろいろな世代の人がいて、話は面白いし、聞いたこともない歌が聴ける。しかも安い。どんな店がいいかと言えば、ようは店主の人柄や他のお客さんとの人間関係が大事で、自分に合うか、合わないかだけです。なにも怖いことなんてないですよ。扉を開けてみてください。

 (聞き手・出田阿生)

 <つづき・きょういち> 1956年、東京都生まれ。現代美術、建築、写真、デザインなどの分野で執筆や書籍編集。近著に『圏外編集者』。メールマガジン「ROADSIDERS’weekly」配信中。

◆人と人をつなぐ場所 福島・楢葉町で開業目指す 古谷かおりさん

 原発事故で一度は全町避難となり、一年半前に避難指示解除となった福島県楢葉町で、スナックを開業しようと考えています。すでに店舗を見つけてあり、来月には現在勤めている設計事務所を退職して、楢葉に移り住む予定。今夏の開業を目指します。

 なぜスナックなのか。

 今、この町で、人と人をつなぐ場所として、一番有効だと思うからです。

 楢葉町の現在の帰還者数は、八百十八人(三月三日現在)。事故前の住民の約一割ほどで高齢者中心です。一方で復興の土木作業や廃炉作業に従事している作業員の方が倍以上も町に住んでいます。町にある飲食店は数軒で、ちょっと遠くにある市街地まで飲みに行っていますが、生活圏内で、飲んで歌って弱さを吐き出して、楽しめる場所があったらと考えました。

 対面で会話できるのが、スナックの何よりいいところです。

 私自身、ずっと自分探しをしてきました。学校を卒業し、東京で会社勤めをしながら、何かが違うと感じていました。一年前に福島県郡山市に移ったのは、被災地で人の役に立つことができないかと思ったからです。

 ここで若い社会起業家たちと出会う機会があり、刺激を受けました。被災地の双葉郡には、一からビジネスを生み出すチャンスがあふれています。

 最初は移動販売車で作業員宿舎を回ろうと検討しました。そんなとき、作業員の人たちと交流していたら、スナックをやってくれ、みんなで応援するからって。そうか、これがニーズなんだとよくわかりました。

 問題はたくさんあります。たとえば、お客さんの帰りの手段がない。そうしたら、起業家仲間の男性が送迎を担当してくれると。若い女性がいないので従業員の確保が難しいんですが、友人たちに「日替わりママ、マスターをやりませんか」と声をかけたら何人もが手をあげました。

 私自身はお酒もカラオケも大好きで楽しめそうな気がします。歌の十八番は「恋におちて」かな。店の名前は未定ですが、スナックらしいといえば「かおり」でしょうか。

 作業員も地元住民も移住してきた起業家も隣り合わせで世間話をしている。そんな店にしたいですね。JUJUさんの大ファンなので、開店したら、ぜひ、遊びに来てください。

 (聞き手・坂本充孝)

 <ふるや・かおり> 1985年、千葉県生まれ。多摩美術大、早稲田大芸術学校卒。東京都内のハウスメーカーなどに勤務後、若者向け人材育成プロジェクト「ふくしま復興塾」に参加。

 <スナック> 一般に、「ママさん」「マスター」と呼ばれる店主が、カウンター越しに接客する飲食店。1964年、都道府県条例の改正で「スナックバー」という言葉が誕生した。「スナックバー」限定の店舗数統計は見当たらないが、警察白書によると「深夜酒類提供飲食店」は全国で27万軒台を推移し、近年は漸増傾向。カラオケボックスとの競合で客がスナックバー離れした時期もあった。

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