特集・連載 考える広場

ネット通販「便利」の裏側 

2017/5/13 紙面から

 家にいながらさまざまな商品が簡単に注文でき、手元に届く。そんな便利さが受けて、インターネットによる通信販売(ネット通販)は拡大する一方。その陰で、商品を届けるために汗を流す運送業者が疲弊するなど社会問題も起きている。「便利」の裏に何がある?

◆時間削れるが怖さも モデル・真山景子さん

 仕事でネット通販のモデルもしていますが、プライベートでもネット通販を多用します。きっかけは、二〇一二年の妊娠と出産ですね。家から出られなくなったので。共働きや女性の社会進出がネット通販隆盛の背景の一つだと思います。慣れてきたら、こんなに便利なものはないと思いましたね。

 欲しい品物が決まっている場合が特に。ネットで探すと価格も比べられるし。飲料水など重い品とか、生活用品は今、ほとんどがネットです。スマホだと、検索する時間さえあれば、どこででも気軽に買い物できます。息子のおもちゃも。今四歳で、戦隊ものが大好き。ネットで注文しています。

 品物を選びたいときは、お買い物へ出掛けます。でも、お店で試着してみて、サイズも把握して、家に帰ってネットで安い品を探すこともあります。生まれ育った名古屋は、スポットが集中していて買い物しやすい街だと思っていました。

 私の場合、物欲は、引っ越しとか自分に変化があると高まります。ネット通販は手軽ですが、買いすぎないように、購入履歴を自分で記録しています。手書きで。「買いたい」という衝動がわいても、記録していれば「今月はちょっと多いからやめよう」となります。

 ネット通販は、実物を触らないので、ある種冒険。下着は、お店で試着してお店で買うことが多いです。でも、今の時代って、時間のない人が多くて、ネットが主流になっていくのかなとも思います。うちには、不在の間に荷物を預かっておいてくれる「宅配ボックス」があるのでいいのですが、何度も不在では配送する側も大変です。

 「宅配の人が足りない」「ドライバーが足りない」と言われています。何とかしないと、システムが足元から崩れてしまいます。「便利イコール怖い」と思います。運賃値上げはやむを得ないのではないでしょうか。新しい事業が展開するかも。コンビニなどが代理受取業に手を挙げるとか、宅配ボックスの普及拡大とかが考えられます。

 ネット通販は時間を削った結果でもありますね。買い物は本来、お店へ行って買うことです。「外へ出ようよ」と打ち出していかないと、こもっちゃう子が増えるかもしれない怖さがあります。自分の子がそうなったら嫌だなと思います。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <まやま・けいこ> 愛知県生まれ。「JJ」「CLASSY.」「AneCan」やテレビ、CMで活躍。昨年から「m●nage KELLy」のカバーモデルを務めている。2012年に結婚。一児のママ。

※●は「e」の上に「´」

◆再配達重い現場負担 ジャーナリスト・横田増生さん

 宅配最大手のヤマト運輸で、長年にわたる残業代未払いが表面化しました。同社のデータをみると、宅急便の単価は二〇〇〇年に七百四十四円、一六年には五百七十八円。どんどん下がっています。一番小さなサイズの荷物を東京都内の近距離で運ぶと六百七十円くらいかかる。それより単価が安いのは大口顧客への値引きがあるからです。これでは売上高の五割を占める人件費を賄えません。そのためヤマトは非正規雇用を増やし、相前後してサービス残業でしのぐようになった。一三年に佐川急便がネット通販最大手のアマゾンジャパンとの取引を切り、ほとんどをヤマトが引き受けました。これが労働環境悪化にとどめを刺しました。それを埋め合わせるため、前期に、未払いだったサービス残業代百九十億円を従業員に支払いました。

 宅配のドライバーは朝八時から夜十時まで、昼食も取らずに走り回ります。一四年春、下請け業者の車に同乗させてもらいました。拘束時間は十四時間、経費を差し引くと時給は八百円台だった。ヤマトの配送・仕分けの拠点施設で一カ月夜勤バイトの潜入取材をしたら、あまりの重労働に体調を崩しました。

 ネット通販の荷物が増え続ける今、一九九〇年代後半から始まった配達時間指定サービスによる再配達の負担が、現場に重くのしかかっています。再配達が何度でも無料だから、指定した時間に家にいない客もいる。再配達には課金すべきです。

 ネット通販の「送料無料」という表記もやめないと。アマゾンは日本進出の際、売り上げ拡大のために「送料無料」という言葉を使った。もちろん、これだけの人手がかかった配送がタダのわけがありません。

 宅配は全国津々浦々に仕分けや配送の拠点、車、膨大な人材を配置した巨大な装置産業なんです。いまや電気やガス、鉄道などと同じく、社会インフラになっている。それなのに保護されていない。消費者も、送料無料を享受しているとしっぺ返しがくる。この業界がつぶれてしまったら困るでしょう。

 宅配企業は、個数を減らしてもいいから運賃を上げて利益を重視しなければ。労働者の賃金が上がれば人も集まるし、安定して働き続けます。自分の子どもを働かせたいと思える職場にできるか。そこにかかっていると思いますよ。

 (聞き手・出田阿生)

 <よこた・ますお> 1965年、福岡県生まれ。物流業界紙を経てフリー。主著に『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』『ユニクロ帝国の光と影』など。

◆買い物依存症に対策を 精神科医・大坪天平さん

 買い物にのめり込む「買い物依存症」はもともと、金持ちの病気でした。有名なところでは、フランス国王ルイ十六世の王妃マリー・アントワネットや、ケネディ米大統領の夫人だったジャクリーンなどがそうだったといわれています。

 精神医学で本格的に注目されるようになったのは一九八〇年代後半から。神経伝達物質セロトニンの研究が進んで、依存症にも関係していることが分かったのがきっかけです。現代では誰もがなる可能性があり、患者は人口の5%前後と推定されています。手軽なネット通販の普及によって、さらに患者が増えることが危惧されます。

 「買い物依存症」は「強迫買い物症」とも呼ばれるように、「依存」と「強迫」の両方の要素を持っています。強迫は同じ行為を繰り返すことですし、依存は買う量がどんどん増え、やめるとイライラする状態です。心のメカニズムとしては、強いストレスや嫌なことを体験したときの代償行為。一般的に患者のほとんどは女性です。同じ代償行為として男性はギャンブルに走る傾向があります。

 実は、純粋な買い物依存症の患者はネットではなく店で買うことを好みます。買うときにお姫様扱いされて気持ちが高揚するからです。ところが店を出ると後悔して落ち込みます。こういう患者は、ネット通販で症状を悪化させることは少ないかもしれません。

 興味深いことに、私が診察した数少ない男性の患者がネット通販利用者でした。男性はもともと収集行為に走りがち。ネット通販は男性のそんな志向に向いているのかもしれない。ため込みタイプの患者が増える可能性はありますね。

 買い物依存症の治療としてはまず、クレジットカードを取り上げるなど物理的に買えないようにしてしまうことです。また、患者はストレス耐性が弱いのが特徴。ストレスから依存、強迫行為に走らないよう、運動や音楽など別の代償行為を見つける努力をするしかありません。薬物療法では、SSRIという薬を処方します。

 買い物依存はギャンブル依存と比べると研究が進んでいません。消費社会の高度化で患者の増加が懸念されるのですから、国際的な診断基準を作るなど対策を進めるべきです。

 (聞き手・大森雅弥)

 <おおつぼ・てんぺい> 1959年、宮崎県生まれ。浜松医科大卒。現在は東京女子医科大東医療センター精神科臨床教授。専門は精神神経薬理。特に、抗うつ薬SSRIの臨床応用を研究している。

 <ネット通販> 経済産業省によると、消費者向け電子商取引の市場規模は昨年、15兆1358億円に達した。前年比9・9%増。うち「物販系」は8兆43億円。悲鳴を上げているのが、商品を消費者に届ける運送業界。宅配最大手のヤマト運輸は従業員の長時間労働、残業代未払いなどの問題に見舞われ、料金の値上げに踏み切った。「アマゾン」など一部業者の「送料無料」が安易な購入や再配達要望を拡大させているとの見方もある。

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