<県境ものがたり> 関ケ原・米原(1) 

2017/12/7 夕刊

「寝物語の里」の由来となった溝を挟み、滋賀側のご近所さんと談笑する西脇通江さん(左)=岐阜・滋賀県境で

◆溝越し 脈々と語らい

 寝物語の里−。その何とも艶っぽい響きは、あまたの旅人の心を捉えてきた。

 中山道沿いの美濃(岐阜県関ケ原町今須)と近江(滋賀県米原市長久寺)の境目、今もひっそり残る幅約六十センチの溝に由来する。

 むかーしむかし、溝の両側に旅籠(はたご)があった。双方の客が寝ながらに国境(くにざかい)越しの会話を楽しんだと伝わる。

 「県境なんて感じることはほとんどないわぁ」とは、岐阜側に住む主婦西脇通江さん(85)。溝を挟んだ滋賀側のご近所さんたちとは、顔を合わせれば立ち話に花が咲く。

 パーマをかけに行くのも、利用する駅も溝の向こう側。ただ、町内会は別々で、「こっちは滋賀のケーブルテレビは入らん」。雑煮では角餅が多いとされる東、丸餅が目立つ西の文化が、交わる辺りでもある。

 大阪で育ったが、一九四五(昭和二十)年三月の空襲で焼け出され、親類を頼って十三歳でこの地へ。就職、結婚したものの四十一歳で夫を亡くした。ゴルフ場のキャディーをしながら、子供九人を育て上げた。

 がむしゃらだった時も傍らにあった溝。「昔から変わらへん」。今日も行き交う人生を見詰めている。

 (写真・中森麻未、文・吉本章紀)

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