<第3話>相撲史名勝負三番 2013/5/25

これまで半世紀以上にわたって、数々の名勝負を見てきましたが、なかでも忘れられない名勝負を三番挙げてみましょう。

◆栃錦×若乃花(初代)…昭和28年春場所

大相撲の第1期黄金時代を支えた栃錦と若乃花。両者の対決は毎場所、激しい攻防が繰り広げられ名勝負を演じた

大相撲の第1期黄金時代、いわゆる「栃若時代」を築いたのが、栃錦と若乃花です。それまで大相撲は力を誇示するものと思われていましたが、2人はさまざまな技を駆使して、ファンを魅了してくれました。

2人とも小兵で、身長は栃錦が176cm、若乃花が178.5cm、体重は両者とも100kg前後。2人の取組は、つねに技を掛け合いながら土俵狭しと動き回る相撲で、昭和28年の春場所も互いに自分の形を作ろうと、前さばきの応酬から始まりました。

まわしを切ったり、もろ差しを狙ったり、投げを打ったりと攻防が繰り返されます。栃錦は途中で元結が切れて、ざんばら髪になりながらも動き回っていましたね。この相撲は水入りとなる大熱戦の末、栃錦が左の外掛けで勝ちました。

テレビ放送が始まったばかりの年に、映像として見せる相撲の面白さを彼らが植え付けてくれたという点で、やはりこの取組が1番に挙げられますね。

◆北の湖×輪島…昭和49年名古屋場所

昭和23年生まれの横綱輪島に対し、5つ年下の北の湖が横綱を目指して、勝負を挑んだ場所ですね。千秋楽に星ひとつリードされていた輪島と、これに勝てば優勝という北の湖の取組。

優勝がかかった北の湖が攻めまくるんですが、その都度、輪島が左を差し、左の下手まわしを引いて残す。結局、「黄金の左」 にものを言わせた輪島が北の湖を破って、優勝決定戦でも勝利し、逆転優勝を果たしました。

「北の怪童」と言われ、強さを誇示し始めた北の湖に、輪島が待ったをかけた場所でした。優勝を逃した北の湖でしたが、この場所後に横綱に推挙されました。この時、故郷の母親に電話をかけて「うん ほんまに横綱になったんや 母ちゃん」と伝えたというエピソードがあり、その言葉を刻んだ碑が、名古屋市熱田区の白鳥山法持寺に残されています。

北の湖が横綱に昇進した喜びを母に伝えた言葉が直筆の石碑として残っている=名古屋市熱田区の白鳥山法持寺で

◆貴ノ花(初代)×北の湖…昭和50年春場所

昭和50年春場所優勝決定戦、貴ノ花が渾身の力で北の湖を寄り切り悲願の初優勝を飾った=大阪府立体育会館で

貴ノ花は、栃若時代の一方の雄である若乃花の実弟で、若乃花ファンが熱い思いを寄せていました。それに加えて、北の湖に比べると細身の貴ノ花を“判官びいき”する傾向もあり、非常に人気の高い力士でした。そんな貴ノ花に初優勝のチャンスがめぐってきたのが、昭和50年の春場所です。

千秋楽に星ひとつ先行する貴ノ花。勝てば優勝が決まる本割ですが、北の湖は貴ノ花を土俵下へと転がり落とします。満員のファンからは悲鳴ですよ。本来なら優勝決定戦に備えて支度部屋へ帰るのですが、この時、貴ノ花は一人静かに考えたいと思い、トイレに籠って心を静めたそうです。

「勝とうと思うな。自分の持っているものを出せばいいじゃないか」

と言い聞かせて優勝決定戦の土俵へ向かいます。

時間いっぱいから3度呼吸が合わず、4度目の立合い。吊りや投げを打とうとする北の湖を貴ノ花が残し、今度はいい体勢を作った貴ノ花が寄り立てます。北の湖が回り込んで残そうとするところを、貴ノ花が吊り気味に寄り切りました。悲願の初優勝です。その瞬間を「(座布団が乱舞して)天井が見えませんでした」と北の湖が語っています。

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プロフィール

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日本福祉大客員教授、元NHKアナウンサー・相撲ジャーナリスト

1930年、北九州市生まれ。早大卒業後、53年NHK入局。初任地は名古屋局で、自身初の大相撲実況は54年2月に金山体育館で行われた大相撲名古屋場所(当時は準本場所)。

NHK在職中は名古屋、福岡、大阪、東京と大相撲の本場所開催地の放送局に在籍。81年、大関貴ノ花引退の放送で思わず絶句。“泣きの杉山、泣かせの杉山”と異名をとる。相撲以外でも東京、メキシコ五輪をはじめプロ野球など各種のスポーツ実況を担当。

現在は日本福祉大生涯学習センター名誉センター長、客員教授。名古屋・栄の中日文化センター講座「大相撲の魅力を語る」で講師を務める。深い知識と豊富な経験を基に、講座で興味津々の話題を紹介してくれる。

著書に「大相撲この名勝負」「土俵の鬼三代」「兄弟横綱−若貴の心・技・体」「土俵のチンギス・ハーン 白鵬」「土俵の真実」などがある。

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