<第5話>日本人横綱はなぜ誕生しない? 2013/6/15

武蔵川部屋の伝統の厳しい稽古を受け継いだ元大関武双山の藤島親方。けいこ場には緊張感が張り詰める=2010年、東京都荒川区の藤島部屋で

稀勢の里の活躍のおかげで、久しぶりの日本人横綱が期待されていますが、日本人横綱がなかなか誕生しない原因のひとつに弟子不足があげられると思います。相撲の素質がありそうな人が別のスポーツに流出してしまっていますね。

また、弟子入りする人でも、大学まで進学する人が増えた。スポーツの種目によっては、中学卒とか高校卒で入った方が伸びることが十分あると思います。人間というのは、わき目もふらず集中する時期があってもいい。そういう時に、大人になり過ぎてしまっていることが邪魔をすることもあると思うんです。

今の人たちがハングリーじゃなくなったということも大きいですね。やっぱり、我慢強さや悔しさをばねにするということがないと人間は成長しない。その覚悟を持って相撲界に臨んでいる人がきわめて少なくなりました。これは本人だけでなく周りも同じです。親や周囲も甘やかしちゃいけない。愛情をもって突き放すということも必要でしょう。

今から40年くらい前、琴風が中学を卒業して上京、入門した時、彼は故郷が恋しくなって、公衆電話からお母さんに電話をかけました。「ぼく、さびしいよ。帰りたいよ」とひとこと言うと、10円玉が落ちる音がして電話が切れる。お母さんは泣きたい気持ちで、10円玉を山ほど送ってやりたいと思った。けれど、ここは心を鬼にして知らんぷりをしなくては、と気持ちを抑えたそうです。

今は「嫌だったらかえってきていいわよ」でしょう? おこづかいも送ってやる、携帯電話も持たせて親が支払うなんてこともあるようですね。時代の変化として認めなければいけない点もあるかもしれませんが。

甘やかしているという点では、師匠にも同じことが言えます。厳しく叱ったりすると弟子に逃げられちゃうから、言わないでおく。そういうことをよく耳にしますよ。本人や周囲もさることながら、預かった師匠が厳しさとやさしさを使い分けながら指導することが求められていると思います。

部屋について言うと、各部屋の弟子が少ないのもよくないですね。この10数年で分家独立する人たちが増えて、弟子が2〜3人しかいない部屋も結構あるんです。けれども、やっぱりひとつの部屋には10〜15人くらいの弟子がいて、切磋琢磨しながら過ごしていくというのが理想的だと思います。

日本人横綱誕生が難しい要素をいろいろとあげましたが、そんな中でも、けじめを大事にして努力している芯の強い力士もいますし、親方の指導がしっかりした部屋はどんどん伸びてきています。見どころのある力士や部屋に注目して見守りながら、日本人横綱の誕生を期待しましょう。

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プロフィール

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日本福祉大客員教授、元NHKアナウンサー・相撲ジャーナリスト

1930年、北九州市生まれ。早大卒業後、53年NHK入局。初任地は名古屋局で、自身初の大相撲実況は54年2月に金山体育館で行われた大相撲名古屋場所(当時は準本場所)。

NHK在職中は名古屋、福岡、大阪、東京と大相撲の本場所開催地の放送局に在籍。81年、大関貴ノ花引退の放送で思わず絶句。“泣きの杉山、泣かせの杉山”と異名をとる。相撲以外でも東京、メキシコ五輪をはじめプロ野球など各種のスポーツ実況を担当。

現在は日本福祉大生涯学習センター名誉センター長、客員教授。名古屋・栄の中日文化センター講座「大相撲の魅力を語る」で講師を務める。深い知識と豊富な経験を基に、講座で興味津々の話題を紹介してくれる。

著書に「大相撲この名勝負」「土俵の鬼三代」「兄弟横綱−若貴の心・技・体」「土俵のチンギス・ハーン 白鵬」「土俵の真実」などがある。

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