いろいろな薬の形(4):副作用にも留意してアドヒアランス向上を 2013/8/27

お薬をお渡しする時、薬剤師はその服用の仕方を説明(服薬指導)することとなっています。その薬に求められる正しい服用を確実にしてもらうことを、コンプライアンス、最近ではアドヒアランスの向上と言います。後者の方がより患者さん主体の言葉です。

錠剤の飲み方に関して、食前、食後あるいは食間等の指定があることはよくご存じかと思います。ちょっとびっくりするのは、飲んだ後30分程は横になってはいけないという指示のある錠剤があります。服用前後に食べ物、他の薬を摂取してもいけません。ビスホスホネートと言う骨粗鬆(こつそしょう)症の薬ですが、咽頭での重篤な副作用の危険があるためです。

ビスホスホネート製剤の一例

1週間に1回飲めばいい錠剤も開発され、問題点は軽減されましたが本質的には解決していません。

また、ごく最近、適応症は違いますが、同じ成分の点滴用注射剤が承認(薬として国が認める)されました。副作用を避けることができ、利便性が高まることが期待されます。

注射と眼薬は無菌製剤と呼ばれます。もちろん錠剤など他の剤形も極めてクリーンな環境で製造されていますが、この2つは別格です。直接体内に入るからです。

ただ、目薬は一つの容器から何度も何度も点眼することが普通で、外気とも触れるためせっかく作った無菌状態が保てません。

ですから、点眼剤の中には保存剤(防腐剤)が入っています。もちろん安全性は確認されていますが、これらを含まないに越したことはありません。

点眼剤は無菌製剤だが・・・

そんな背景から、使いきりの1ショット容器、あるいは外気から菌が浸入しない仕組みを有する容器も実用化されています。

コストは通常の容器以上にかかりますので、どの程度継続的に使用するか、どのような病態の患者さんに使うかを考慮してそのような容器も徐々に使われるようになっています。

1回使いきり点眼剤の一例

薬といえば、私達の研究テーマの一つに、「点眼で目の奥の網膜に薬を届ける」と言うのがあります。近年の高齢社会では、網膜の疾患に関する病気が問題となっています。

糖尿病網膜症による視野の異変 目の病気(http://online-clinic.biz/category/3429749-1.html)より

治療しないと、視野狭窄、失明につながる場合もあります。現状は、目に注射をするしか網膜に薬を届ける手段がありません。

この場合、注射が侵襲的方法であることがアドヒアランスの低下に繋がることが懸念されます。これを何とか点眼でいけるようにしようと言う研究です。動物実験では、その有効性も明らかになりつつありますので、何とか実用化できるようにさらに努力したいと思います。

薬物網膜送達点眼剤の研究

「薬の形」について4回にわたり、お話ししてきました。

この他にも、医療現場ではせっかく作ってある錠剤を粉砕せざるを得ない場合があること、薬をのみこむための補助的な手段としての嚥下補助ゼリーの話、副作用を避けるためのステロイド吸入剤等々、薬の形・服用に関する話題はまだまだあります。

また、薬が体の中に入ってから目的の場所にちゃんと届くための工夫、すなわち、DDS(ドラッグデリバリーシステム)の開発も研究最前線です。

でも、良い「薬の形」を創りだすのに極めて重要なのは、それを使用する患者さんからの声です。何か変、不思議だなと感じたら、お近くの薬剤師、あるいは私まで一声かけて下さい。そこから新しい研究がスタートすることになるかもしれません。

お読み頂きありがとうございました。薬の形に興味を持って戴き、様々な薬の正しい使い方に繋がれば幸いです。

竹内 洋文(たけうち ひろふみ) 岐阜薬科大学・教授、薬学博士、薬剤師

京都大学薬学部卒業、同大学院修了(薬学博士)後、岐阜薬科大学に勤務。以降、製剤学の研究に従事。現在、教授、学生部長。公益社団法人日本薬剤学会理事、粉体工学会副会長等の学会活動の他、日本薬局方の専門委員としても活躍。著書、学会での講演も多数。「人に優しい製剤設計」を目標に、様々な製剤に関する研究を展開中。

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