お屠蘇 2013/12/13

お屠蘇

幼かった元旦の朝、お屠蘇に口をつけた記憶があります。飲むというより、なめた程度でしたが、独特のにおいだった記憶があります。香りというより、においでした。

大晦日の夜に清酒に屠蘇散を浸して正月の準備をすることが、父のこだわりの一つでした。屠蘇散は酒屋さんから父がもらってきたと思います。その父もいまは亡く、我が家からお屠蘇はその姿を消しました。

父は清酒につけていましたが、味醂(みりん風調味料ではなく、本味醂)に浸す地域もあるようです。薬用酒として有名な養命酒も味醂に生薬を浸して作られています。その方が粘稠で甘みがあり飲みやすいともいわれています。

さて、この屠蘇は、平安時代に中国から伝わり、一年中の邪気を払って延命長寿を願う風習として日本に根付いたと考えられています。

江戸時代には大黄や附子といった作用の強い生薬も配合された薬剤だったようで、延寿屠蘇散(魏の名医、華佗の処方)がもとになっているという説もあります。

現在は大黄や附子が配合されることはありません。主に「防風」(解熱・解毒、日本に自生する浜防風が代用されることもある)、「白朮」(健胃・利尿)、「桔梗」(鎮咳・去痰・排膿)、「山椒」(健胃・殺菌)、「桂皮(肉桂)」(発汗・解熱)が含まれていて、地域によっては「陳皮」(健胃)と「丁字」(健胃・殺菌)が加わります。胃腸によい生薬が配合されています。

白朮(ビャクジュツ)は、オケラの仲間の根茎を乾燥したもので、体内の水分の代謝を正常に調節する働きがあり、健胃、発汗、利尿を目的に漢方薬に配合されています。江戸時代には除湿の目的で室内で根茎を燃やして煙で燻したと記載があります。

年末の行事として、八坂神社のおけら火も有名です。春先には新芽を山菜として食べるなど、日本人にはなじみ深い植物です。

桔梗(キキョウ)は、秋の七草に『あさがお』の名で登場する古くからなじみ深い植物ですが、現在では、野生のキキョウは絶滅危惧種に指定されています。その根を乾燥させて去痰剤として使用します。韓国ではキムチにして食べる習慣があります。

山椒(サンショウ)は、苦味(くみ)チンキの原料でもあり、芳香辛味性健胃薬で、胃腸の働きの弱くなった消化不良や消化不良が原因の胸苦しさ、みぞおちのつかえ、腹部のガスの停滞、腹痛に効果があります。

写真は、左側からキキョウ、ボウフウ、右上からビャクジュツ、サンショウ、下にあるのがケイヒです。それらを荒く粉にした物が中央の屠蘇散になります。

清酒と本味醂(みりん風調味料はダメです)を好みで合わせて、ティーバックに入れた屠蘇散を浸します。1合に1g 程度なので、薬効が現れるほどの量ではありませんが、生薬の香りが刺激になって健康維持には十分効果があると思います。

お正月の浮かれた様子を表す言葉として『お屠蘇気分で・・・・』は今も使われるようですが、皆さんのお宅では元旦にお屠蘇を召し上がっていますか?

もうすぐ来る新年をお屠蘇で始めてみませんか?

執筆者 酒井英二(さかいえいじ) 薬学博士、薬剤師

岐阜薬科大学、同大学院を修了し、厚生省国立衛生試験所筑波薬用植物栽培試験場に入所。中間山地における薬草栽培や植物工場を利用した栽培試験を行う一方、生薬の品質に関する研究を行ってきた。

現在、岐阜薬科大学薬草園研究室准教授。健康食品に配合される植物の鑑別や、生薬の鑑別研究を行う一方、薬草園の見学を通して正しい薬草の知識の普及に努めている。

また、薬用植物栽培と品質評価Part12(薬事日報社)、台所の薬草ガイドブック((社)日本植物園協会第4部会)、フィールドベスト図鑑No.16 日本の有毒植物(学研教育出版)などの執筆も分担している。

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