除夜の鐘を聴きながら長寿の星を見る 2013/12/31

大晦日午前0時の星空。オリオン座が南中し南の地平線にはカノープスが顔を出す。

全天で最も明るい恒星、おおいぬ座のシリウスが南中する20分ほど前に、シリウスに次いで2番目に明るい恒星、りゅうこつ座のカノープスが、南の地平線わずか2°強の高さに南中する。

日本では地平線や水平線スレスレに見えるこの星には、昔から気がついていた。代表的な呼び名は、『めらぼし』、これは房総半島南端にある布良(めら)港の名を取ったものだ。

『めらぼし』は、嵐のために海で死んだ漁師の魂が海上に現れて、仲間の漁師を呼んでいるという、不気味な言い伝えが残っている。これは海が荒れる2月の宵に姿を見せることから創造されたのだろう。

同じ星でもところ変れば、全く違う見方をする。特におもしろいのは、少しだけしか姿を見せないことから、中国四国地方では『横着星』、その他の地方でも『不精星』『道楽星』などと呼ばれ、なまけものの代表格になっている。

他に海のしぶきが、ざぶざぶかかるように見えることから『ざぶざぶ星』という呼び名を与えている地方もある。

カノープスは、りゅうこつ座の主星。かつてはアルゴ座という名の巨大な帆船の星座だった。

さて、カノープスが輝くりゅうこつ座という聞き慣れない星座は、1752年に生まれたばかりの新しい星座だ。実は、プトレマイオスの48星座が生まれた西暦150年ころ、このあたりにはアルゴ座という大きな大きな帆船の星座があった。

しかし1752年、大きすぎるということを理由に、フランスの天文学者ラカイユによって、ついに4つの新しい星座、とも座、ほ座、りゅうこつ座、らしんばん座に解体されてしまった。りゅうこつとは、船の背骨に当たる部分のことだ。

ところで、ギリシャのスパルタ軍の艦隊を導いた名水先案内人であるカノープスは、トロイの戦争のとき、ある港で不幸にも亡くなってしまった。スパルタの王メネラオスは、彼の功績を称えて、彼が亡くなった港町を『カノープス』と命名し、やがてそこから水平線スレスレに見える星のことも『カノープス』と呼ぶようになった。

北緯35°の地域では、地平線から2〜3°の高さに南中する。

かつて中国の都であった洛陽や西安では、地平線スレスレのところにほんの短い時間しか見えないカノープスを、南極老人星と呼んで、この星が地平線上に明るく見えたときは、天下泰平・国家安泰のしるしだと慶ばれたという。

また、この星が赤く見えることから、酒好きでいつも赤ら顔をした寿老人(七福神の一人)に見立てていたため、この星を拝むことができたら、長生きができるとされた。

名古屋市緑区滝ノ水公園から望むカノープス

カノープスは、東海地方ではちょうど大晦日の新年を迎えるころに南中する。このおめでたい星を、除夜の鐘を聞きながら拝むことができたら、きっとその年は平和で健康な1年になるだろう。

もし、大晦日の夜に見えなくても大丈夫。1月上旬なら午後11時ごろ、下旬なら午後10時、2月上旬なら午後9時ごろ、下旬なら午後8時ごろが見ごろとなる。

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天文研究家

1953年三重県四日市市に生まれる。学生時代は名古屋市科学館山田卓先生の下で天文普及活動に参加。天体望遠鏡メーカーに勤務の後、1992年にフリーとなり星を見上げる楽しさを広めるべく、あさだ考房を設立。

天文・科学雑誌に記事を連載、単行本・プラネタリウム番組シナリオ執筆のかたわら、天文宇宙関連の講演・講座、プラネタリウム解説を行っている。

最近は、生涯教育を意識した、プラネタリウム運営支援、プラネタリウム解説指導にもかかわっている。日本天文学会会員、NPO法人アイ・プラネッツ理事長。

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