第3回 「認知症・アルツハイマー病を予防する生活習慣」 2014/1/21

岐阜薬科大学の原英彰です。第3回目は “認知症”についてお話ししたいと思います。認知症とは、「これまで得た脳の知的機能が、後天的に脳が障害されることで低下してしまうこと。その結果、日常生活に支障をきたすような記憶障害や、言語、動作、認知、思考力低下などの認知機能障害が表れること」です。

○認知症の2つのタイプ
認知症を大きく2つに分けると、1. 脳の血管のトラブルで起こる“脳血管性認知症”と、2. 脳が萎縮して起こる“アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)”があります。

1. 脳血管性認知症
脳血管性は、脳の血管が詰まってしまう脳梗塞、あるいは血管が破れる脳出血が起こることで、脳に血液や酸素が正常に送られなくなり、結果として脳機能の低下がみられる病気です。

特徴的な症状として、歩行障害、手足のマヒ、言葉の呂律がまわらない、転びやすくなる、感情に抑うつ症状が表れる、などがあり、これらが突然現れたり段階的に悪化したりすることがあります。

過去に脳血管障害の経験のある方、高血圧、糖尿病、心疾患などの血管に関係した要因を持っている方は注意が必要です。早期発見には、病院で検査を受けることが重要です。頭部のCTスキャンやMRI検査を受けることで、脳の血管の詰まりや脳の異常(脳梗塞)を調べる方法、そして脳の血管の状態を調べる検査方法があります。

2. アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症とは、脳の記憶に関係する部分(海馬、頭頂葉や側頭葉)に異常なタンパク質であるアミロイドベータ(β)タンパク質、またはタウタンパク質が蓄積して発症します。

その結果、脳の神経細胞が徐々に壊れてしまい、脳が萎縮していく恐ろしい病気です(図1)。65歳以上の高齢の方で多く発症する病気ですが、最近では映画「明日の記憶」や「私の頭の中の消しゴム」で知られる“若年性アルツハイマー病(65歳以下で発症する場合)”も問題になっています。

アルツハイマー病は、初期症状では少し前の事を忘れてしまうのが特徴ですが、そのうち体験した記憶自体や家族の名前、顔すらわからなくなってしまうという悲しい病気です。

原因は、家族性(遺伝性)アルツハイマー病という遺伝子に問題があって発症する場合もありますが、ほとんどは高齢で発症するアルツハイマー型認知症です。残念なことに、アルツハイマー型認知症の早期発見方法は未だ明らかになっていません。従って、日頃からの予防がとても重要になります。

図1. アルツハイマー型認知症の脳の経過

○画期的なアルツハイマー型認知症の薬
アルツハイマー型認知症の治療薬として、これまでドネペジルという薬1つしかありませんでしたが、2011年に新たに3種類の使用が承認されています。

現在は、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなど記憶の形成に関係している脳の神経伝達物質の一種であるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬、そして神経細胞死に深く関わるNMDA型グルタミン酸受容体の拮抗薬であるメマンチンというお薬があります。

このうち、リバスチグミンは「イクセロン®パッチ」という貼り薬タイプの薬剤が製造販売されています。介護者の服薬介助が行いやすく、胃腸や肝臓への負担も少なく、服薬状況が分かりやすいので継続にもつながる、画期的な薬剤として使用されています。

○認知症は生活習慣病? 糖尿病との関連性
2つの認知症を発症する背景には、実は生活習慣病と深い関わりがあることをご存じでしょうか?

脳血管性認知症は、脳梗塞や動脈硬化が原因でひき起こされることが多いため、生活習慣病がかねて原因として指摘されていました。その後、福岡県久山町の疫学調査「久山町研究」の実施において60歳以上の高齢者の追跡調査を行った結果、糖尿病が脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の両方の危険因子であることが分かっています。

糖尿病の患者では血糖値を下げるためのインスリンが増えてくるのですが(高インスリン血症)、このインスリンの上昇によりアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβタンパク質が脳内に蓄積しやすくなってしまうのです。

ここで注意すべきことは、糖尿病予備軍の方でも高インスリン血症によりアルツハイマー病のリスクが高まってしまうことです。糖尿病は今現在も患者が増え続けている疾患の1つですから、自分自身で日頃から食事コントロールをしっかり行う必要があります。

それでは、これら認知症を防ぐために、私たちは日々どのような生活習慣を送ればよいのでしょうか?

○脳を健康に保つ食生活とは?
脳血管性認知症に比べてアルツハイマー型認知症の原因は未だによく分かっていませんが、両者で共通の原因の1つに「食事の影響」が懸念されています。

アルツハイマー型認知症になってしまった人とそうでない人との食事の内容を比較した研究がこれまでいくつか存在します。それによると、健康な人の食生活では以下の食材を多く摂っています。

・牛乳、乳製品
・魚
・大豆、大豆製品
・緑黄色野菜、淡色野菜
・海藻類
・果物
・イモ類
・キノコ類  (以上、図2)

一方で減らした方が良いと考えられる食材は、ご飯(代わりにおかずをしっかり食べるため)と酒類(飲み過ぎない程度)でした。

図2. 認知症予防に良い食べ物

魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)の摂取がアルツハイマー型認知症の予防に有効であることは、既に多くの研究報告で実証されています。また、大豆に含まれるイソフラボンも有効であるとの結果が出ています。脂肪分の多いお肉よりも、魚や大豆など良質なタンパク質をより多く摂る方が良いでしょう。

また、牛乳や乳製品、海藻に含まれるカルシウムやマグネシウムが、アルツハイマー型認知症のリスク減少に繋がることが分かっています。

緑黄色野菜や淡色野菜、果物、イモ類、キノコ類には、抗酸化ビタミンや食物繊維が豊富に含まれており、血管を丈夫にするとともに高血糖や高脂血症の予防にも繋がります。ただし、糖質の高い果物は血糖値の急上昇に繋がるので食べすぎに注意する必要があります。

全体として食材を見ますと、認知症予防に良い食材とは血液(正常な血糖値、脂質量でありサラサラしている)、血管(拡張して柔軟性に富んでいる)、血流や血圧維持に良い食材であることがわかります。すなわち、日常的に食事以外でも脳の血流を活発にする習慣を身につけることが大事です。

「食べ物は頭で食べる」。本能のままに食べたいものを食べるのではなく、自分でカロリーや栄養を考えコントロールすることが、結果として自分自身や周りの家族のためになることをまずは考えていただきたいと思います。

○脳を活性化するウォーキング 〜運動で脳血流を活発に〜
「歩くことは人間にとって最良の薬」という言葉があります。これは紀元前460年、医学の祖ヒポクラテスが言った言葉です。ある報告によれば、週5日以上1万歩以上歩くと、高血圧、動脈硬化に効果があるそうです。

1日1万歩を歩くには1時間以上きちんと歩かなければいけません。厳しく感じられるかもしれませんが、自分に歩く時間を約束し、しばらく頑張って続けることでそのうち習慣化して続けられるものです。図3にウォーキングを行う時のポイントをまとめてみました。

図3. ウォーキングのポイント

ただウォーキングするだけでは退屈する場合は、自分の趣味と結び付けて屋外に出る理由をつくると良いでしょう。そしてできるならばカレンダーに記録を付けていってください。すると「明日も頑張ろう!」という気持ちになり、継続できます(図4)。

図4. カレンダーに毎日記録すると続けられる

ここで1つ、運動が脳に良いことを裏付ける魅力的なお話しをします。私たちの脳は酸素や栄養素をたくさん消費する器官ですが、1分間に心臓から脳に送られる血液量はどれくらいかご存知でしょうか?

@ コップ1杯(200 cc)
A ペットボトル1本分(500 cc)
B 一升瓶(1.4 L)
C 灯油缶(20 L)

正解は、1分間に1.4リットルほどでBの一升瓶が最も近いです。これを1日当りに換算すると約2000リットルとなり、実にドラム缶で約10本分もの血液が1日を通じて脳に送られていることになります!

これだけでも驚きですが、ウォーキングをはじめとする運動を行うことで、この血液量はさらに5〜10倍に高まることが知られているのです。運動によって脳の血流が増えるということは、新鮮な酸素や栄養がよりたくさん脳に届けられるということですから、そう考えると運動がなぜ脳に良いのかが理解できると思います(図5)。

図5. 運動で脳血流は増加する!

○手足を動かすと脳は活性化する
運動以外でも、手足を動かすと脳は活性化します。国立長寿医療センター(愛知県大府市)で行われた認知症の研究結果では、手足を動かしたり、レクリエーションを行ったりすると記憶力が改善されたそうです。

私たちの手足、指先、さらには目や鼻、口に至るまで全て脳に繋がっています。これらを細かく頻繁に動かすようなこと、例えば裁縫、掃除、日記や手紙、スケッチや絵画、料理、将棋、庭の手入れなど、または声を出す動作としてカラオケ、目と口を同時に使う動作として本や新聞の音読、俳句などは全て脳への刺激になります(図6)。

極端な例では、ガムを噛むことでも脳への良い刺激になっているのです。大切なことは、あなた自身の生活に合った活動を毎日無理なく続けていくことです。その上で心から楽しんで笑ったり、感動して泣いたりといった感情的な刺激もさらに脳への良い刺激になるものです。

図6. 脳を活性化する活動の例

今回は認知症とその予防法について紹介いたしました。難しく考えずに、まずは1つでも簡単な生活習慣をはじめてみてはいかがでしょうか。次回は、脳を活性化するための考え方についてお話ししたいと思います。お楽しみに!

【出典:原英彰 著「前向き脳でエンジョイ・エイジング!−長寿の秘訣は脳の健康から−」(学文社)から改変引用】

原 英彰(はら ひであき) 薬学博士・薬剤師

大学卒業後、製薬企業の医薬品研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬などの新薬の研究開発に従事してきました。また、東北大学医学部神経内科、ハーバード大学医学部に留学して、研鑽を積んできました。専門は幅広く、脳や眼の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などです。

現在は、岐阜薬科大学の薬効解析学研究室で教授として学生の教育と脳と眼の研究に力を入れています。研究室には30名余りの学生や研究者と一緒にお互いに刺激しあっています。

本ブログでは、脳を元気にするにはどうすればよいか?眼の健康を保つ秘訣は?そして、活き活きと生きるには、何を心掛ければよいか?などについてお伝えできればと思います。

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