ホームレス理事長 2014/2/26

『ホームレス理事長』  名古屋シネマテークにて3月14日まで上映中

本作は、地元・東海テレビ制作のドキュメンタリー作品の劇場公開第6弾となる。振り返ってみれば、第1弾の『平成ジレンマ』の公開が、2011年の初頭。当時は、ローカルテレビ局が制作したドキュメンタリーが日本各地の映画館で公開されること自体が異例だった。

それが『平成ジレンマ』公開を皮切りに、南海放送(四国)、毎日放送(大阪)、琉球朝日放送(沖縄)などが続き、ローカルテレビ局制作のドキュメンタリーは、今やミニシアターの定番プログラムのひとつになりつつある。

それだけ優れた作品が作られているということであり、地方のテレビマン達が自分達の作品を多くの人に見てほしいと願っていることの表れでもあるのだろう。

端緒を開いた東海テレビは、その後も開拓者にふさわしい秀作を連打した。凶悪事件の容疑者の弁護を専門に引き受ける弁護士を追った『死刑弁護人』、仲代達矢、樹木希林らを起用し、ドラマとドキュメンタリー部分を融合した『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』などヒット作も続いた。

そして今回の『ホームレス理事長』。社会的なテーマを丁寧な取材で描いてきた東海テレビドキュメンタリーの中でも、これは群を抜いて面白い作品だ。同時にこれまで以上に問題提起を含んだ、強烈な作品でもある。面白い。だが少々覚悟して見てほしい傑作なのだ。

登場するのは、愛知県常滑市で活動しているNPO法人「ルーキーズ」。様々な事情で高校をドロップアウトした球児達に“再び野球と勉強の場を”という趣旨で設立された団体だ。

練習場には、少年達の歓声と球音が響いている。しかし、その運営状況は、かなり厳しい。理事長・山田豪氏は、日夜、寄付金集めに奔走している。映画は、一度は挫折した少年達が野球を通じて少しづつ自己を取り戻していく様子を描きながら、一方で、ひたすら金策に奔走する理事長の姿も追う。

資金繰りが忙しすぎて、理事会をすっぽかし、仲間からは愛想を尽かされる。自分の生活は一切顧みず、お金はすべてルーキーズに注ぎ込むので、遂には家賃滞納により住む家まで失ってしまう。

理想は悪くない。しかし、ここまで猪突猛進でやることだろうか?あまりに極端な行動に思わず笑ってしまうシーンもある。この人、大丈夫か…と見る側も呆れてきた頃、理事長は、なんと密着取材を続ける東海テレビのスタッフにまで借金を申し込む。

いつもはカメラの後ろ側にいる撮影スタッフの困惑した表情がさらされ、いたたまれない空気は、頂点に達する。そこで理事長は言う「何が間違っているんでしょうか?」。自分のすべてを投げ打って子供達の再生のために尽力する男の、まっすぐな、涙ながらの問いかけ。

不意打ちのように発せられるその問いは、まわり続けるカメラを通して、我々観客へも向けられる。それは同時に、他者への想像力が軽んじられる一方のこの社会に対して投げかけられた問いといっても間違いではないだろう。

答えは簡単には出ないかもしれない。しかし、その問いかけを聞き、考えることは映画を見る醍醐味のひとつだと思う。それがテレビの側から発せられたことに、感銘と少しばかりの嫉妬を覚える。ぜひとも映画館の暗闇の中で体験してほしい作品だ。

シネマテークでの舞台挨拶風景 土方宏史監督(左) 阿武野勝彦プロデューサー
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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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