新しいモノクロ映画 「コーヒーをめぐる冒険」 2014/3/25

「コーヒーをめぐる冒険」 3月29日より名古屋シネマテークにて公開

「コーヒーをめぐる冒険」より バーで出会った老人は、ナチスのユダヤ人虐殺の記憶を語る

読者の「さとりっち」さんからご質問をいただいた。

「私はチャップリンの無声映画が好きでした。でも最近は白黒や無声の映画を見かけません。もう上映されるようなことはないのでしょうか?」。

たしかに全国的に名画座が姿を消し、東京のような大都市でないと、なかなか往年の名作を見る機会はなくなった。

とはいえ、映画演劇文化協会が主催し、TOHOシネマズなどのシネコンで上映される「午前十時の映画祭」は相変わらず健在だ。今春から始まる新しいプログラムの中には『カサブランカ』『サイコ』『ローマの休日』などの白黒(モノクロ)映画が含まれている。

またイオンシネマが新規にスタートする「シネパス」では、『イヴの総て』『ハスラー』という若干渋めの作品も上映される。さすがに無声映画はないものの、これらの作品は、お近くの劇場でも見ることができると思う。ぜひ予定をチェックしてみて下さい。

さて、そういった往年の名作が白黒なのは、技術的な制約もあるので当然のこととして、カラー全盛時代になっても、あえてモノクロームを選択する作り手もいる。今回は、そんな新しいモノクロ映画の話を少々。

まず個人的な記憶から。私が熱心に映画を見始めた頃、強い印象を受けたのは、ウディ・アレン監督の『マンハッタン』(79年)と『スターダスト・メモリー』(80年)の2作だった。

ガーシュインやルイ・アームストロングの音楽と共に映し出されるニューヨークの風景は、端正でノスタルジックな美しさを湛え、陶然とさせるものがあった。そう、モノクロ映画には、どこか古びた、懐かしい雰囲気が漂う。

また『スターダスト…』の方は、フェリーニの名作『8 1/2』へのオマージュが色濃い作品でもあった。もちろん『8 1/2』もモノクロ映画だ。「映画」と「モノクローム」がイコールで結ばれ、数々の傑作が生まれた時代への敬意と愛情が、アレンにモノクロを選択させたと言ってもいいように思う。

以下、思いつくままに現代のモノクロ映画を挙げるなら、ジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84年)や『デッドマン』(95年)、スティーブン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』(93年)などが思い浮かぶ。

『ストレンジャー…』のざらついて荒涼とした風景、一転して『デッドマン』の深みのある闇の感触。どちらも、すべてが光と影で表現されるモノクロームだからこそ生まれた映像だ。色付きの現実界とは別種の世界が、そこにはあった。

『シンドラー…』の場合は、また少し違うのかもしれない。ホロコーストを主題とした本作では、モノクロの映像を使うことで、ドラマチックな盛り上がりを回避しているように感じられた。衝撃的な出来事を生々しく描くのではなく、冷静に物事を見つめようという姿勢。

しかし、それと同時に、ホロコーストが「昔話」のように見えてしまう瞬間もあった。モノクロ映画は、先述したように“懐かしい雰囲気”を作り出す。それはノスタルジックな安心感を生んでしまう危険と背中合わせでもあることは忘れてはならない。

成功作か失敗作かはともかく、このように今もモノクロームの映像にこだわって、映画を作る監督たちは何人もいる。名古屋シネマテークで3月29日から公開する『コーヒーをめぐる冒険』も、最新のモノクロ映画だ(妙な言い方ではあるが…)。

一日に何回もコーヒーを飲み損ねる青年を描いたコメディタッチの作品だが、歴史と現在が重層的に交差するベルリンの街が、もう一人の主役と言ってもいい。主人公が訪ねた撮影所で、たまたま制作中だった戦争映画のエピソードや、バーで出会った老人の回想などが、映画の奥行きを深め、イメージを拡げている。

現在と過去、平和な時代と戦争の時代が、モノクロの画面によって自然につながっていくのだ。監督は1978年生まれのヤン・オーレ・ゲルスター。新しい世代にも、モノクロームの魔力に魅入られた者がいる。

モノクロ映画は、表現の多様性を考えるとき、無くなってほしくない様式だ。チャップリンも素晴らしい。何度でも見たいと思う。それと同じように、新しいモノクロ映画にもぜひご注目ください。

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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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