『黒四角』 〜中国との架け橋〜 2014/5/20

『黒四角』 東京はケイズシネマで公開中 名古屋シネマテークは5/31(土)より

少し前の紙面だが、3月10日付の中日新聞夕刊に「日本人監督 熱烈撮影 中国映画界で飛躍目指す」という記事が出ていた。『タイムレスメロディ』『青い車』などの作品がある奥原浩志監督(44歳)が、2008年に文化庁の研修制度を利用して中国に渡り、言葉も話せず友人もいない異国で苦心しながらも、日中両国のスタッフ、キャストとともにようやく一本の映画を完成させた、という記事だった。

興味を引かれ、配給会社と連絡をとって見せてもらった。それが、今回取り上げる『黒四角』という作品。神秘的で不思議な物語の中に、日本と中国の戦争の歴史をも描きこんだ、個性的な秀作だ。

舞台は現代の北京。若い画家チャオピンは、ある画廊でキャンバスを黒一色で塗り潰した「黒四角」という絵を見かける。翌朝、早くに目が覚めたチャオピンは、その絵そっくりの物体が空を飛んでいるのを目撃、後を追う。

荒涼とした大地に物体は着陸、そこから一人の男が現れる。男は自分の名前も、どこから来たのかも覚えていない。チャオピンは、男のことが気にかかり、家に連れ帰る。「誰なの、この人は?」同居する恋人に尋ねられたチャオピンは、反射的に答える「あ、この人ね、名前は“黒四角”」…。

ここまで読まれた方は、これはコメディかSFかと思われるかもしれない。たしかに黒い物体は、誰が見ても『2001年宇宙の旅』に登場する謎の石柱モノリスに酷似している。名作SF映画のパロディを現代の中国で見せられているかのような、奇妙なユーモア感覚が、今まで見たことのないような味わいを感じさせる。だがこの後、物語は思いもかけない展開を見せる。

チャオピンの妹リーホワは、“黒四角”と「前にどこかで会った気がする」と言い、次第に彼に心惹かれていく。さらに黒四角”の周囲には第二次世界大戦中の日本兵が幻影のように出没し始め、彼がそのあとを付けていくと、荒地に集結している日本兵の集団に遭遇する。

そこから時空は一挙に大戦末期に移り、中国の山中の農村に駐留する日本軍の一兵士(黒四角役の俳優が演じている)と、中国人の兄妹(チャオピンとリーホワ役の俳優が演じている)のひそかで切ない交流が描かれていく。

このあたりから“黒四角”は、どうやらこの日本兵の亡霊で、かつて心通わせた兄妹の生まれ変わりらしいチャオピンとリーホワのもとに現れたことが察せられてくる。前半のユーモラスなタッチとは一転、後半の戦時下の描写は、一触即発の危険を背後に秘めつつも静謐なタッチで貫かれ、まるで別の映画のようだ。大胆不敵、思い切り大風呂敷を広げたような構成と言えるだろう。

見る人によっては、後半の物語に違和感を覚えるかもしれない。現代の俳優に、戦時下の人間の追いつめられた焦燥感が感じられないという意見もあるだろう。しかし、40代前半の映画作家が、第二次大戦下の中国と、否応なくそこに送り込まれた日本人を描こうとしたこと、そのために「黒四角」という不思議な仕掛けを用い、現在との架け橋としたことを、私は評価したい。

しかも、そこで描かれるのは、敵味方を超え、時をも超えた人間同士の友愛なのだ。果敢で勇気ある映画作りと言うほかない。まして、政治家や一部の人々の都合で両国の敵対心が煽られ続けている今現在にあっては。

本作品は、もちろん名古屋シネマテークでも上映することにした。ぜひご覧下さい。

『黒四角』より 後半は、第二次大戦下の中国が舞台になる
PR情報

記事一覧

「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に行ってきましたB

2回に渡り山形国際ドキュメンタリー映画祭の話をしてきたが、 「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に行ってきました。 「山形国際ドキュメンタリー映画祭」…

2018/1/13

「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に行ってきましたA

「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」の話を続けたい。 (前回記事:「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に行ってきました。) 急に思い立った一泊二日…

2017/11/29

「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に行ってきました。

先週の木曜日(10/5)、東京で仕事があった。いつもの出張のつもりで準備をしていて気がついた。そうだ、たしかこの日から「山形国際ドキュメンタリー映画祭」…

2017/10/17

「東海テレビ ドキュメンタリーの世界」

気がつけば8月も終る。2017年もあと4ヶ月。早い…。仕事の常として、今は10月の上映作品を固めつつ、お正月あたりまでをゆるく編成している。お正月映画…

2017/8/25

堀禎一監督のこと

かつて2000年から04年にかけて、「新ピンク零年」というピンク映画の特集シリーズを上映したことがある。 名古屋の大手興行会社に勤務しているピンク映…

2017/7/26

名古屋シネマテーク 35年前の旅立ちA

前回記事名古屋シネマテーク 35年前の旅立ち@ (承前)前回は、名古屋シネマテーク設立に至る当時の状況について書いた。だが、映画館は「作りたい!」と思…

2017/6/24

名古屋シネマテーク 35年前の旅立ち@

1982年6月にオープンした名古屋シネマテークは、この6月で35周年を迎える。35年…なかなかな年数だ。たとえばオープンした1982年から35年をマイ…

2017/5/25

書評「映画という《物体X》」

今回は少々趣向を変えて、映画の本の話を。 昨年秋に刊行された「映画という《物体X》 フィルム・アーカイブの眼で見た映画」を読んだ。著者は、岡田秀則氏。…

2017/4/16

鈴木清順監督について

とうとうこの日が来てしまった…。 「鈴木清順監督 死去」の報に接したとき、思わずそう呟いた。『オペレッタ狸御殿』(2005年)から12年。もう新作は見…

2017/3/7

「イスラーム映画祭 2」(後編)

――後編では、本映画祭ディレクターの藤本高之さんに、上映作品の見どころを教えて頂こうと思います。 まずは『神に誓って』。この映画は東京では第一回に上映…

2017/1/13

プロフィール

19

名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

  • 会員登録
  • ログイン
今日の天気(11:00発表)
名古屋
曇り時々雨
25 ℃/--
東京
雨
23 ℃/--
大阪
曇り時々晴れ
31 ℃/--
  • 東名, 名神で渋滞情報あり。
  • 登録路線が未設定です。
  • 公式 Twitter はこちら
  • 公式 Facebook はこちら
クラウドファンディング 夢チューブ 中日新聞
東京新聞 電子版
中日新聞の人材研修 ビジネストレーニング「ビズトレ」
中日販売サポート
東海テレビ 庄野アナと 新聞を音読してみよう!
中日防災ナビ
こどもウイークリーのこーなー
過去の企画・特集