未完成の映画史@ 『ホドロフスキーのDUNE』に向けて 2014/6/18

『パサジェルカ』 紀伊国屋書店から DVD発売中

表現活動を続ける創作者には、ほぼ必ず“未完成”に終った作品があるだろう。未完となった理由には、作者の死など様々な事情があるわけだが、作者の知名度や評価などによって、時には未完でありながらも広く知られるようになった作品もある。

たとえばクラシック音楽では、その名も「未完成」の通称で知られるシューベルトの交響曲第7番ロ短調や、モーツァルトの「レクイエム」など、ことによると彼らの完成作品よりも名高い“未完の傑作”がある。

映画はどうだろう。往々にして多額の資金が投入され、多くのスタッフが関わる映画製作の場合、未完成となるリスクを避けようとするのは当然だ。準備万端整えて、撮影に臨むのが普通…と言いたいところだが、それはむしろ恵まれた製作体制と言っていい。ある程度予算が集まった段階で見切り発車的に撮影に入る例も、無くはないからだ。そうして結局未完に終ってしまう作品も出てくる。

では、それらの未完成映画は、見られるのか?残念ながらと言うべきか、映画は、個人の手になる楽譜や原稿や絵画のように簡単にその断片を見ることができないメディアだ。未完成の映画は関係者の心の中と映画会社の倉庫の奥にのみ存在し、人の目にふれることがないまま、ときに伝説となって、語り継がれていくだけである。

しかし映画にも、様々な事情で未完成に終りながら、これまた様々な事情で公けになったものが、わずかながら存在する。

たとえば『戦艦ポチョムキン』で知られる旧ソ連の大監督セルゲイ・エイゼンシュテインの『ベージン草原』(1935〜37年)は、当時の映画局の検閲によって撮影中止に追い込まれ、頓挫した。撮影を終えた部分のネガは保管されていたものの、折悪く第二次大戦の爆撃によって破損。

そのばらばらになったネガを、エイゼンシュテインと親交のあった映画人がスチール写真に起こし、写真構成でなんとか全体像が分かるものに仕上げた。歴史に残る名匠ゆえの処遇ではあるが、作品の片鱗だけでもうかがえるのは有難い。

写真構成という手法で完成させたという点では、アンジェイ・ムンク監督の『パサジェルカ』(1963年)も忘れてはいけない。当時同じポーランドの新世代監督としてA・ワイダと並び称される存在だったムンクは、本作撮影途中で事故死。残されたスタッフが、未編集部分をスチール写真で構成し、完成させた。

未完ながらも、ポーランド映画史を語るとき必ずタイトルが出てくる一本で、名古屋シネマテークでも昨年のポーランド映画祭で上映したばかりだ。

また近年では、『未来世紀ブラジル』や『ラスベガスをやっつけろ』で知られるテリー・ギリアム監督の『ドンキホーテを殺した男』が未完に終ったいきさつを、撮影時の記録映像やインタビューを中心に描いた『ロスト・イン・ラマンチャ』(2001年)という作品もあった。

本来なら、完成作品のDVD発売に際してオマケで付けられるはずだったメイキング映像が、ここでは数々の災難(主演男優の病気やら、自然災害やら)で未完に終った作品を偲ぶ貴重な断片となっているのが面白い。

そんな“未完成の映画史”に、この夏、新たな一本が加わる。『ホドロフスキーのDUNE』だ。『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』で、アングラ映画の巨匠となっていたアレハンドロ・ホドロフスキー監督が、70年代中盤に企画したSF大作が『DUNE』。

オーソン・ウエルズやミック・ジャガー、画家のサルバドール・ダリら超異色のキャストまで決まっていたものの、アングラ王・ホドロフスキーが監督することに出資者が難色を示し、結局、未完となった。

『ホドロフスキーのDUNE』は、その顛末をホドロフスキー自身が回想する、とびきりユニークなドキュメンタリーだ。この映画の話は次回にあらためて。(続く)

『ホドロフスキーのDUNE』全国順次公開中 名古屋は7月19日より公開
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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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