どうしてインフルエンザワクチンは効かないの?いや、実は効いているのです。 2014/7/23

感染症を防ぐのがワクチンです。しかし、多くの人に身近なインフルエンザワクチンは、「効かなくてインフルエンザに感染した」と思う人が多いものです。

インフルエンザのワクチンは、ウイルスとして増える能力を失わせるような薬剤を使って、卵で増やしたウイルスから特定の蛋白だけを取り出して作られてきました(下図)。

注射によりその蛋白を身体に打ち込むと、インフルエンザウイルスの感染力を奪う物質(抗体)やウイルス(感染した細胞を殺す免疫細胞)が血液の中に作られ、血液の中にウイルスが入り込んだ場合に、ウイルスが広がらないようにする効果を出します。

図 インフルエンザワクチンの作られ方

実は、専門の私達は、「感染」と言う言葉と「感染症」という言葉を使い分けます。

「感染」は病原体が身体に入り込むことで、「感染症」はそれに伴って現れる症状のことです。

インフルエンザウイルスは、鼻や口から肺に至る空気の通り道(気道)の粘膜に「感染」しますが、ここにはワクチンで作られるようになった抗体や免疫細胞は染み出してきていません。

ですから、気道でウイルスは増えて炎症を起こし、喉が痛くなり咳も出る結末になり軽い「感染症」を起こします。気道の粘膜で増えたウイルスは、次に血液などを介して全身へ広がっていきますが、ワクチンを接種していると、この広がりを止めることができます。

インフルエンザがはやると死亡率が上がることは、人口統計では知られていて、インフルエンザ感染症は実は怖いものです。インフルエンザワクチンは、「感染」を抑えるのでなく、ウイルスが全身に広がることを防ぐことで、「感染症」を軽症にすることで、入院したり、死んでしまうことを防ぐことに効いているのです。

でも、重症の「感染症」を防ぐだけしか能がないワクチンよりも、もっと良いものはできないのか、と思われるでしょう。誰が考えても気道の粘膜への感染が防げれば、もっと効率のいいワクチンになるはずです。

そうしたワクチンの開発・実用化が、現在、急速に進められています。その合言葉は、「粘膜免疫」と呼ばれるもので、注射ではなく、口や鼻にワクチンを噴霧して粘膜の表面に届け、そこで病原体に対する免疫物質を作らせるというアイデアに基づくものです。

新型インフルエンザが流行した時、米国では鼻に生きた弱いインフルエンザウイルスを噴霧するワクチン製品が開発されました。弱くしたとは言え、何せ生きたウイルスを噴霧するのですから、一定割合の人が1週間ほど鼻炎になったり、一部には風邪に似た症状が出ることもありました。

ひどい場合には、ぜんそくや神経系疾患に陥ってしまうこともあります。そんなこんなで日本ではまだ未承認です。

なぜ生きたウイルスをワクチンとして使ったのでしょうか。実は、ウイルスの蛋白成分だけでは、「粘膜免疫」ができなくて、免疫を強くすることを手助けする物質(難しい言葉でアジュバントという)としてウイルスの蛋白以外の成分(核酸など)が必要だったのです。

そこで、ウイルスの蛋白成分と安全なアジュバントを使った新たな粘膜ワクチンの開発が、国立感染症研究所などを中心に進められています。数年後には、注射ではないインフルエンザワクチンが出回るといいですね。

私達も、別の病原体に対するちょっと工夫した「粘膜免疫」ワクチンを開発すべく研究をしています。

井上直樹 岐阜薬科大学感染制御学研究室・教授

東京大学理学部生物化学科卒業、同大学院修了(理学博士)後、国立感染症研究所や米国疾病対策センター(CDC)などの感染症専門研究機関に勤務。専門は、ウイルス学。米国アトランタとシアトルに10年在住。昨年10月に国立感染症研究所より、岐阜薬科大学に着任。新たなワクチン・治療薬・病原体検出法の開発やその基礎となるウイルス学や免疫学を研究。趣味は、スキューバーダイビングと実験。

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