未完成の映画史A『ホドロフスキーのDUNE』 2014/7/23

未完に終わった『DUNE』の絵コンテより。本作では、膨大な絵コンテの一部をアニメーション化した。

前回は、映画史上に残る未完の映画を、いくつか紹介した。今回は、そんな未完成映画の最新作(?)、『ホドロフスキーのDUNE』をご紹介します。

未完に終わった元々の映画『DUNE』は、1965年に発表された、フランク・ハーバートによる同名SF小説をベースにしている。砂に覆われた惑星デューンを舞台に、宇宙を支配するほどの力を持つ香料メランジを巡る異性人たちの争いを描いたドラマで、メランジの意識拡張作用が幻覚剤のLSDを連想させ、同時代の若者達から絶大な支持を得たという。

1975年にその映画化を思い立ったのは、アレハンドロ・ホドロフスキー監督。当時ホドロフスキーは、『エル・トポ』、『ホーリー・マウンテン』などで知られる、アングラ映画の巨匠だった。

しかし、その企画は、けた外れに壮大な構想(どこまで本気かはともかく、上映時間10時間以上と公言…)、監督としてのホドロフスキーの実績不足(アングラ映画しか作っていない…)などから、制作中止となってしまう。

現在、各地で公開されている『ホドロフスキーのDUNE』は、その顛末を、ホドロフスキー自身や関係者へのインタビューで明らかにしていったドキュメンタリーだ。

失敗に終った企画を、監督本人が語る。そう聞くと、なんとなく物悲しい映画を連想するかもしれない。ところが本作は、それとは真逆の、なんともわくわくさせられる楽しさに満ちている。

その理由は、まず第一に、現在のホドロフスキーが、この作品に賭けた思いをまるで昨日のことのように語る、その情熱的な語り口にある。

いわく「私が作りたかったのは、LSDをやらなくても、あの高揚感を味わえる、人間の心のあり方を変える映画だ」「自由で、新しい視点から精神を開放させるものを作って、世界中の人々の意識を変えたかった」。

うーん、なんと高邁かつ誇大妄想的発想か。若干あきれながらも、これこそ映画作りの初期衝動にふさわしいと、いつしか納得だ。

また彼は「この映画に携わるすべての人間は魂の戦士だ。魂の戦士でない者とは映画を作れない」とも語る。彼が声をかけ、実際に参加を約束したスタッフ、キャストの顔ぶれも凄い。

スタッフは、後に『エイリアン』のキャラクターデザインを担当する美術家のH・R・ギーガー、同じく『エイリアン』や『トータル・リコール』などの脚本家となるダン・オバノン、フランスを代表する漫画家メビウスら。

出演は、オーソン・ウェルズ、ミック・ジャガー、サルバドール・ダリほか。そして音楽担当は、ピンク・フロイド。この一癖も二癖もあるメンバーを、いかにして“魂の戦士”に加えていったか、交渉の様子をふり返るホドロフスキーの喜色満面たる表情と語りが、また楽しい。

喜々として『DUNE』の構想と頓挫を語るホドロフスキーを見ているうちに、観客はいつしか、このドキュメンタリーは“失敗”に関する映画ではないと気づかされる。ホドロフスキーは語る

「失敗がなんだ。だからどうした?『DUNE』は、この世界では夢だ。だが夢は世界を変える」。

この圧倒的に人生と夢を肯定する姿勢こそが、本作の最も我々を高揚させ、鼓舞するところだ。未完成映画史上に残る、痛快作。お見逃し無く。

ホドロフスキー自身の23年ぶりの監督作品『リアリティのダンス』より。こちらも順次公開中。
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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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