「エリート(elite)」階級が教養を高めるため描く植物 2014/7/28

皆さん、「よく見ると綺麗な女性!」って褒め言葉?

「朴」の娘盛りの頃、用事があってソウルの「鐘路 종노 チョンノ」に出かけたついでに、知り合いの◯◯さんが経営している「書道教室」に立ち寄ったところ、◯◯さんが「朴」をじっと見つめて、「韓紙(和紙)」に墨で「字」を書き、差し出しました。

朴:「朴素」って何?
◯◯さん:「素朴」と書くと面白くないから前後逆にして「朴素」と書いたんだ。
◯◯さん:「朴さん」は「派手な女性」ではなく「素朴な女性」だからね。
朴:「素朴」なんていやだ。要らな〜い。

せっかく書いた「字」を要らな〜いと言われた◯◯さんは、墨で絵を書き始めた。

朴:わ〜、それ、な〜あ〜に?お花だね〜。き〜れ〜い!!!それなら頂きますよ〜。
◯◯さん:本当!それじゃ落款印(らっかんいん)も捺してあげる。
◯◯さん:「自蘭之香」(蘭は幽山にありて自ら香る)。「蘭」は誰もいない深山にひっそりと咲き、香りを漂わす。その香りは微かだけど遠くまで広がる。
朴:(……???話の意味さっぱり解らないわ〜)

それから数日後、

朴:◯◯さんから「可愛い花の絵」を貰ったんですよ〜ホラ、見て〜♪
☆☆さん:◯◯さんは「国展」書道部門審査委員で、彼の「字」は作品によっては✕✕✕以上の値が付くものもある。画は書より易しいと言われているけれど、彼は「蘭」の練習を始めたばかりなので未熟さが目立つ。「蘭」ではなく「字」を貰って来なきゃ。

と、言われちゃったよ〜 (;_;)/~~~

「朴」の感覚では一見、昆虫「カマキリ」に似たように見える「春蘭」

「新羅 신라 シルラ」時代(紀元356年〜935年)には、国際色豊かな「唐」の「貴族文化」の影響を受け「牡丹」のような華やかな花が好まれていたようですが、「高麗 고려 コリョ」時代(918年〜1392年)から「朝鮮 조선 チョソン」時代(1392年〜1910年)までは「宋」「元」「明」の中華色の強い「士大夫文化」が浸透し、特に朝鮮時代には「士大夫」の最高の理想としていた「君子」に喩えられる素朴で高潔な植物「梅・蘭・菊・竹☆매・난・국・죽」が好まれていたようです。

『中国史』では、「宋」は「唐」の貴族層が戦乱で没落したのを教訓に軍人が政治を執る傾向を改め、儒学に強い※「科挙」注1)の合格者が官僚になり、社会的支配層となる「文治主義」を打ち出したと教えられています。

「親宋政策」をとっていた高麗時代の官僚は科挙合格者で占められるようになり、特に科挙の盛んな朝鮮時代の※「両班」(士大夫) 注2)の殆どは儒学を基礎とする人物となっていたとされています。

高麗時代には「図画院(トファウォン)」、朝鮮時代には「図画署(トファソ)」という国家が設置した「画院」がありました。韓ドラ『イ・サン☆이산』のお茶くみをする官婢「ソンヨン 송연」&『風の絵師』(바람의 화원 パラメファウォン)の天才画家「金弘道(キム・ホンド)、申潤福(シン・ユンボク)」が属していた機関です。

記録によりますと、「画院」では「専門の絵師」により、国と王室に関わる「図」「画」全ての業務が行われていたとされています。宮殿で使われる食器や衣服の文様、仕切りや屏風の画、王族の肖像画、王室の冠婚葬祭や国家の主要行事、外国の使節団の様子等々をカメラのなかった時代に画で記録していたとか!!!

画院の専門の絵師は、身分の低い技能工として認識され、主に煌びやかな彩色を施し、写実的で精細な「実用画」「記録画」を製作する。画院の専門の絵師が中心となり描いたこのような絵画様式を「院体画」(北画)と称します。

『韓日通商条約締結記念宴会図』(院体画) 「図画署」の画員「안중식(安重植)」作(1883年)

一方、王族や高位官職に付いた身分の高い階層は、教養を高めるため画を描く。テクニック(technique)により外形を写し、装飾的な彩色風を主とする「院体画」とは対照的に、対象の本質を表現することや、描く人の気高い内面世界の具現に目標をおく。身分の高い「素人」が描いたこのような画を「士大夫画」「文人画」(南画)と称します。

「文人画」は階級に密着した用語。絹より質素な韓紙(和紙)を使い、色彩を使わず、墨一色の線や濃淡だけで描き出しているのに作者の性格や人柄、精神世界までがよくにじみ出ている。「墨」一色で表現される「水墨画(墨絵)」は、選ばれた人のみが描く高尚な趣味。

朝鮮半島の儒教に基づく「両班 양반 ヤンバン」は「君子」になることを目指していました。「君子」とは「徳・学識・礼儀」を備えた人を指す。「脱俗遠塵」(俗事に執着せず汚れから遠ざかること)を芸術理念としていた「両班」は、「梅、蘭、菊、竹」のもつ特長が君子の特性と似ていることから、この四つの植物を「四君子」と称し、水墨画の基本として「さす」のが一般的だったようです。

当時の「エリート(elite)」は、カラオケやゴルフや海外旅行を楽しんだわけではなく、専門以外の技芸として「詩・書・画」を兼ね備えていました。画においては「微笑む魅力的な女性の顔」「セクシーなボディのSライン」を描くことはタブー。ド派手な色や強烈な香りを放つ花は「俗っぽい」とか。………

(「権力争い」ばかりしている「韓ドラ時代劇」とはちょっぴり違う世界ですからね〜♪)

「四君子」の一つである「春蘭」の絵画

日本でもよく知られている「梅、蘭、菊、竹」の生態と人間の尊ぶべき儒教的な精神性を関連して付け加えますと、

梅(매 メ):早春の雪の中で真っ先に開花する強靱な精神、上品な香り。
蘭(난 ナン):俗世を離れた山奥にひっそりと咲き、優雅な姿態、高貴な香りを備えている。
菊(국 クック):百花がしぼんだ後、厳霜をものともせず高々と咲く。
竹(죽 チュク):寒い冬でも葉を落とさず青々とし、曲がらずまっすぐな性質から不屈の節操のイメージ。

ちなみに、日本における「四君子」は「蘭(春)」「竹(夏)」「菊(秋)」「梅(冬)」の順ですが、韓国の「四君子」の順は「梅、蘭、菊、竹」。韓国の「花札」は日本から伝わったと言われていますが、韓国の花札の絵柄の植物と月名の対応は「梅(2月)」「蘭(5月)」「菊(9月)」の順。(韓国の四君子は花札の順かなあ〜)。日本の花札は「菖蒲(5月)」。(日韓ちょっぴり違うからね〜)

一見、「地味」に見えるけど吟味すると高潔な美しさが秘められている「四君子」。極めてマニア(mania)でなければその素晴らしい世界を感じ取れない墨画。優美な精神&人生の正しい訓示を教えてくれる「「梅、蘭、菊、竹」ではありますが、

「じっくり、よく見なけりゃその美しさに気付かない。」

そんな「素朴」なお花に喩えられたら嬉しいでしょうか??皆さん!!

韓国で市販されている「梅と鳥」をテーマとした「壁紙」

■『風の絵師』(바람의 화원)は、2008年にSBSで制作・放送された韓ドラ。日本では、BS日テレで2009年から放送された全20話の推理時代劇です。朝鮮時代に実在した最も有名な2人の天才画家「金弘道(キム・ホンド)、申潤福(シン・ユンボク)」のロマンスと「韓国画」の美が楽しめるので、まだ観ていない方必見ですよ〜(続く)

注1)科挙とは、中国の「隋」から「清」まで(598年〜1905年)約1300年間行われた「官僚登用のための試験」。貴族(家柄)の世襲ではなく公平な試験によって、才能ある個人を登用する制度。朝鮮半島には788年(新羅時代)に導入。高麗時代から本格的に実施され、朝鮮時代に最も盛んだ。

注2)科挙によって登場した新しい支配階級を「士大夫」と称し、士大夫は高位官僚になることで「権力・富・文化」を享有することができた。朝鮮半島では科挙出身の高級官僚を「両班 양반 ヤンバン」と称し、科挙による身分制度は近代化改革「甲午改革(1894年〜1895年)」後に廃止された。日本は、科挙制度は取り入れず、貴族・武士などの身分は親から子に受け継がれる世襲制だったとか。

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韓国ソウル出身。韓国国会事務局退職後、1988年来日。大学で高等学校教諭1種免許(国語)取得。大学院で日本文化専攻。

名古屋市の官公庁などの翻訳・通訳人として活躍後、大学や名古屋市内の生涯学習センターなどで「コリア文化」に関する講座を担当。

現在は愛知大学、中京大学、中日文化センター、愛知大学オープンカレッジなどで韓国語講師をつとめる。

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