『鳥の道を越えて』 2014/11/11

『鳥の道を越えて』  東京では公開中。各地で順次公開。名古屋は12月23日より。

自宅のベランダから、鳥を探す。目に入るのは鳩、カラス、雀がほとんどだ。最近は、とりわけカラスが多い。黒く艶のある羽を拡げ飛んでいく姿には、つい見惚れてしまう。ゴミを漁るなどの害はあるが、それは“人間にとって”の話で、カラスは自分の行動範囲の中で食事をとっているだけなのだろう。

それにしても、私が子供の頃に比べると、鳥の種類も数も減った。緑の多いところや河川の近くなら、違うのかもしれない。しかし、都市がこれだけ人間中心の環境になってしまった以上、人間以外の動物は、住みにくくなっているのだと思う。

そんなことを考えているときに、1本の映画と出会った。『鳥の道を越えて』というドキュメンタリーだ。監督の今井友樹は、岐阜県東白川村出身。そこに暮らす祖父から「昔、あの山の向こうに“鳥の道”があった。空が鳥の大群で埋め尽くされた」という話を聞き、関心を抱いて、鳥と人間の歴史を描く映画に取り組んだ。

冒頭、祖父が“鳥の道”のあった方向を指さす。しかし、監督にも、もちろん我々にも、その道が何処なのか分からない。なんの変哲もない山の稜線が見えるだけだ。祖父に見えているものを、自分も見てみたい。そんな監督の好奇心が、映画を動かしていく。

まずは、村の古老たちに話を聞く。すると、村ではかつてカスミ網を使った猟が盛んだったことが分かってくる。カスミ網猟は、1948年に法律で禁止されたが、古老たちが子供だった頃は、まだ行われていたようだ。猟をする場所・鳥屋場(とやば)で鳥を焼いてもらい食べた思い出が、楽しげに語られる。網は、渡り鳥が飛来してくるコースに沿って張られた。祖父が語った“鳥の道”とは、すなわちカスミ網が張られた場所の連なりだったのだ。

次に今井監督は、祖父が指さした山の奥に分け入り、鳥屋のあった場所を探す。見つかったのは、猟師が寝泊りし、客をもてなしたりした小屋の残骸。静まりかえった山中の朽ちた小屋は、忘れられた歴史を我々に伝えようとしているかのようだ。

映画は、その物言わぬ小屋の残骸に導かれるように、かつてのカスミ網猟がどのようなものだったか、経験者の話、記録映像・写真などを使って、仔細に見せていく。中でも囮(お鳥)の鳴き声を使って、飛行している鳥をおびき寄せる方法は、人間の知恵の結晶とも言える。

それに感心しつつも、一抹の悲しさがよぎるのは、「お鳥」が人間の手先になって、仲間の鳥を呼んでいる図を想像してしまうからだろう。

今井監督の旅は、さらに続く。鴨の坂網猟の様子や、密猟を体を張って防ごうとした愛鳥家の話も重要だが、カスミ網を使って行われる鳥の標識調査のシーンはとりわけ印象に残る。カスミ網は、猟としては禁止されているが、鳥を傷つけずに捕獲できるという利点があるのだ。

ここで初めて我々は鳥がカスミ網にかかる瞬間を目撃するが、それ以上に、調査のための足環をはめられた鳥が、自由の身になって飛び立つシーンが美しくて、胸うたれる。

そう、たしかに鳥が空を飛んでいる風景は美しい。しかし、人間は、他の生き物の命をいただいて、昔も今も生きている。海のない山間部で、鳥が貴重なたんぱく源だったことは、古老たちの話が伝えてくれる通りだろう。

カスミ網での猟が、文字通り一網打尽の乱獲であったことは事実としても、そうした食文化があったことを忘れてはいけない。その上で、鳥とヒトの未来を考えてみよう。本作は、そんな意味深い問いかけを発する秀作だ。

今井友樹監督(左)と彼の祖父
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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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